October
7:1 赤の果実は宣戦布告をされる
「…随分と教室も寂しくなったな」
九月の休日が終わり十月の登校日が始まる。ノアたちはZクラスへと顔を出したが、その殺風景な教室が気になりどうも会話がしにくかった。
「生き残りが十四人だろー? 入学当初このクラスに三十人いたってことは…」
「十六人死んだ…ってことだな」
「十六人じゃない、"十六人も"死んでいるんだよ」
ヴィルタスの言葉にノアがそう付け加える。
「…しかも、それを見て楽しむ者たちがいる」
レインが教室に設置されている監視カメラへと視線を向けた。Bクラスとの戦い以降に支給されたチップの量は、通常の三倍。リベロで例えるなら十二万円のチップが、三十六万円まで上がっていたのだ。グラヴィスやティアに関してもフールたちの密告をしていたことで、同盟内の所持金の分配があったものの百万円を優に超えていた。
「これじゃあ…私たちは見世物と一緒だよ」
ブライトの一言に周囲の仲間たちは軽く頷きながら、レインと同じように監視カメラを見る。
「僕たちはいつまで戦えばいいんだろう?」
「…AクラスもSクラスも消えて、俺たちだけが生き残った時じゃないか?」
「でも生き残れるのって、救世主と教皇で十人だけじゃないの?」
ウィザードが不安がるグラヴィスに対してそう答えれば、ヘイズの側に立っていたステラが余計なことを口に出した。
「十人…ですか?」
「じゃあこの中の誰かが――」
生き残れる人数の上限は十人で、この場にいるのは十二人。どう計算しても二人が省かれてしまう。そのことに気が付いたことで、自然と仲間内で裏切り者が現れるのではないかと探り合いが始まりかけた。
「誰も犠牲にしない」
が、ノアがそれを強く否定した。
「ゼルチュの言葉通りにしなくてもいい。俺たちはエデンの園と対立するためにこの同盟を、赤の果実を設立したんだろう」
「それもそうですね。私たちには生きる権利があります。それは誰であろうと奪い取ることは許されません。全員で生き残りましょう」
「…あ、ビートだ」
ノアとティアの二人の鼓舞によって、探り合いはすぐに止められる。そして丁度いいタイミングで教室にビートとアウラの二人が姿を見せた。
「おっす! 話があるんだけどいいか?」
「私も少し話があるわ」
大体どのような話の内容かはその場にいる誰もが予想できる。この教室で生き残っているのは全員で十四人、その中でノアとルナたちの仲間は十二人。それを踏まえて、ビートとアウラが話そうとする内容は、
「オレも仲間に入れてくれ!」
「私もお願いできるかしら?」
仲間としての加入申請。
どう足掻いても二人だけでは、今月の殺し合い週間で生き残ることは不可能。となればこのように仲間になりたいと声を掛けてくることが二人にとって賢明な判断だった。
「ビートみたいにアホなやつが一人はいた方がいいと思うよ?」
「アウラなら必ず力になってくれるはずだ。迎え入れても問題ないだろ」
ステラとヴィルタスは二人のことをフォローする。ノアとルナは二人がビートとアウラのことを助けようとしているその内情を知っていたため、
「確かに、ムードメーカーは必要だな」
「私もアウラちゃんには期待してるからね~」
考える間もなくすぐに承諾した。ステラはビートと、ヴィルタスはアウラと視線を交わしてお互いに「良かった」と安堵する。
「ビートとアウラは俺たちの方針は知っているか?」
「まぁな。このエデンの園で誰も殺さずに生き残る…だろ?」
「それを聞いたとき信じられないと思ったけど…」
何故知っているのか…という疑問を抱く者も一部いたが、これほどまでにエデンの園で反する行動を起こしていれば知らず知らずのうちに耳へと入ってくる。ましてやZクラスがBクラスを倒したという実績もあるのだ。
「その無色のプレートが何よりの証拠ね」
ファルサとステラに関しては下手をすればフールとワイルドを殺していた。今もこうやって無色のプレートのままでいられるのは奇跡なのか、それともたまたまフールとワイルドが丈夫だったのか。どちらにせよ、ファルサとステラに関しては力の加減を学ばなければならない。
「この目標を達成するのは難しい。だからお前たちにも自分の身を守れるように力をつけてもらう。それが絶対条件だ」
「おう! オレはそれで全然構わないぞ!」
「私も異議なしよ」
自分の身は自分で守る。
提示したその条件を呑むと、リーダーであるノアとルナと二人は握手を交わした。
「あら? 何とも虚しい教室だこと」
「…誰だ?」
嘲笑うかのような女性の声。
それがノアたちの耳に届けば、Zクラスの教室内に、
「先月は世話になったな」
Sクラスの七つの大罪に七元徳。
プリーデとミリタスがその集団を引き連れてずかずかと乗り込んできた。
「殴り込みのつもりか?」
「そうじゃない。俺たちは話をしに来たんだ」
「ここで私たちから一方的に攻撃を仕掛けられるかもしれないのに~?」
「俺たちがその程度でビビるとでも思っているのなら考えを改めろ、"負け犬"」
ノアとプリーデ、ルナとミリタス。先月の殺し合い週間では決着つかずで戦いが終わっていたことを思い出し、睨み合いによって火花を散らしていた。
「ミリタス、さっさと話を進めなさいよ」
「お前もだプリーデ。変なところで熱くなるな」
スロースとストリアが二人を引き止め、本題へと話を移させようとする。静止させられたプリーデとミリタスは仕方なくノアたちから視線を外し、
「赤の果実――俺たちはお前たちに宣戦布告をする」
赤の果実のメンバーたちを見渡しながらハッキリとそう宣言してきた。
「宣戦布告、ですか?」
「せや。今月の殺し合い週間、わいたちがおまえたちを殺ったるで」
「おいおい突然すぎるんじゃないかー? 何をそんなに急いでるんだよー?」
リベロの言う通りあまりにも突然すぎる。未だに自分たちよりも下のクラスであるAクラスがいるというのに、それを飛ばしてSクラスが直々に宣戦布告をしてきたのだ。ノアたちは次なる敵をAクラスだと認識していたことで、この出来事はあまりにも理解が出来なかった。
「Bクラスを払いのけたその脅威。お前たちがAクラスを倒す頃には俺たちの手に余りそうだからだ」
「だから先手を打つ…ということ?」
「そうだ。本当ならば奇襲を仕掛けようかとも考えていたが、事前に予告しておくことにした」
レインに肯定の意を示したミリタス。彼の言動からするに"正義"をかざしているからとも考えられる。
「果たして、お前たちは俺たちを殺さずに倒せるのかな?」
「どうだろうね~? やってみなきゃ分からないよ~」
「そうだな。やってみないと…な」
その宣戦布告を受けようとノアとルナは挑発交じりにそう言った。ミリタスとプリーデは二人のその反応をみて、軽く笑みを浮かべ、
「俺たちは手を抜かない」
「せいぜい首を洗って待っていることだ」
それだけ言い残し、Sクラスのメンバーを連れて足早に出ていく。
「…あら?」
そんなプリーデたちと入れ違いで「何があったのか」とウィッチが教室に不思議そうな顔をして入ってきた。
「今のってSクラスの生徒じゃないー? 何を話してたのよー?」
「えーっと…まぁ色々だよウィッチ先生」
聞き出そうとしてくるウィッチに対してブライトは曖昧な返答する。ノアたちは彼女の言葉に賛同しつつも、それぞれの席へと着席した。
「――宣戦布告された、なんて言わないわよねー?」
黙々と席に着くノアたちの核心を突く一言。
それによって、彼らの視線は一斉にウィッチへと向けられる。注目を浴びたZクラスの担任であるウィッチは、
「もし宣戦布告をされたのなら、戦うのはやめなさい」
Zクラスの生徒たちに向かって強く言い放った。
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