6:6【Wild】

「きっしし! おれっちの動きについてこれるかな?」

「ヘイズは下がってて! 私が前に出るから!」


 時は三十分ほど巻き戻り、場所は本校舎二階。ヘイズとブライトはそこでワイルドと遭遇し、交戦の真っ最中だった。


「おれっちはツイてるなー。女の子二人が獲物だなんて」


 ブライトは壁や天井を跳ねまわるワイルドの鉤爪かぎづめによる攻撃をすべてダガーで弾き返す。AC型であろうワイルドとA型であるブライトの創造力を比べれば僅かに彼女が劣勢。


「女だからって甘く見ないでよ!」


 しかし彼女は過去にテニス部のエースを務められるほどの身体能力を持っている。それのおかげで劣勢となるはずの戦況はどちらも一進一退に進んでいた。


「ヘイズ! アレを使って一気に倒そう!」

「分かった!」


 ワイルドを手早く倒そうと考えた二人は、体内の創造力を手元に凝縮させ、 


「創造武器、"アゾット"…!」

「創造武器…"アルテミスの弓"!」


 ブライトは短剣、ヘイズは弓の創造武器を召喚した。


「キミたちはそんな技が使えるんだね♪ 前に"殺した子"たちとは大違いだ」 

「っ…! よくもそんなことを軽々しく…!」


 ブライトは短剣を構えて、ワイルドへと斬りかかる。振り下ろされる短剣をワイルドは鉤爪かぎづめで受け流しながら、にやにやと楽しそうに笑っていた。


「無抵抗の子たちを殺すのも楽しいけど、抵抗してくれるともっと楽しくなっちゃうなー」

「うるさい…!」


 ワイルドが遠回しに述べているのはモニカたちのこと。

 ステラがどれだけの悲しみを背負っているのかを知っていたヘイズはその言葉に怒りを覚え、引手の指を弦に掛ける。そして引手をあごにつけ、ねらいを定めて矢を放った。


「はやっ…!」


 光を放つ弓矢は空気中の抗力を感じさせないほど素早く移動し、ワイルドの頬を掠める。


(…当たった)


 ヘイズは筋力に関しては赤の果実内で最も非力。

 それを補うために作られた創造武器"アルテミスの弓"。この弓は体内の創造力を物質へと具現化させなくてもそのまま矢として放つことが可能となる特殊な力を持っている。そうすることによって筋力の低いヘイズでも、撃ち方さえ覚えれば十分に通用する矢を放つことが出来るのだ。


「キミは厄介な武器を持ってるね」


 ブライトの援護をするためにヘイズは弓矢を何本もワイルドに向けて放つ。創造力は具現化する前であれば、あらゆる抗力を受けない。ワイルドの動体視力でさえも避けることで精一杯だった。


「でもそれって仲間にも当たっちゃうよね?」

「きゃっ!?」


 その状況を利用しようと考えたワイルドは、ブライトの片腕を掴んで自分の元まで引き寄せると、ヘイズの放った弓矢へと直撃させた。

 

「…残念だけど、この弓矢はあなたにしか効かないから」

「――!」


 直撃した弓矢は彼女の体内に吸収され、ブライトは怪我一つ負うことはない。むしろ調子が上がったようでワイルドの右足に短剣を突き刺し、飛び蹴りを顔面に叩き込んだ。


「ペッ…その弓矢は一体どうなってるのかな?」


 ワイルドは右足を再生させながら血唾を吐く。

 

「この弓矢は"男性"に危害を、女性には癒しを与えるから」


 女性に癒しを与えるアルテミスの弓はもう一つの形態を持っている。それは"アポロンの弓"という形態。これは真逆の効果を持ち『男性に癒しを、女性に危害を与える』のだ。


「この場にいる男性はあなた一人。誤射することはまずないよ」


 今の形態はアルテミスの弓。ヘイズとブライトが女性に対し、ワイルドは男性。誤って撃ち抜く心配はない。 


「ワイルド、私たちが相手にした自分を恨んでね」


 ブライトが短剣のアゾッドを握り直して、ワイルドへと斬りかかる。アルテミスの弓矢は癒しを与えるだけでなく、その対象の人物の身体能力や創造力を向上させる効果を持つ。それのおかげか、ブライトの動きはより機敏になっていた。


「もしかしておれっち、やばい系?」


 均衡していた戦況が徐々にブライトたちの方へと傾き始める。弓矢を受ければ受けるほどブライトの能力は向上し、ワイルドの身体に傷は増えていく。


「一時撤退するしかなさそうだなぁ」


 ワイルドは片手に球状のものを創造して、足元へ投げつけた。


「煙幕…!」


 辺りが煙に包まれたことで二人の視界は塞がれてしまう。


「ヘイズちゃん!」


 二人で固まった方が良いと考えたのか、ブライトがヘイズの元まで寄ってくる。周囲を警戒しながら背中を預け合う作戦。ヘイズとブライトは周囲を見渡しつつ、手探りで壁際まで辿り着く。


「ワイルドは?」

「さっき向こうの方へ足音が遠ざかっていったから…逃げたのかも」


 煙は未だに立ち込めていた。ヘイズはジュエルコネクトでワイルドが逃げたことをメンバーに報告しようとブライトに背を向けた途端、


「――え?」 

   

 鉤爪の先端が自身の胸から貫通をした。


「残念でしたー♪ おれっちは逃げてませーん」


 首を動かして背後へ振り向いてみれば、そこには悪戯な笑みを浮かべたブライト。


「にせ…もの?」

「せいかーい。おれっちの能力を見破れなかったねー」


 ブライトの姿からワイルドの姿へと変わっていく。

 それを見たヘイズは顔が青ざめた。よく考えてみればブライトは自分のことを"ヘイズちゃん"などと呼ばない。いつでも必ず"ヘイズ"と呼び捨てにしていたのだ。


「くぅっ…」


 胸元に突き刺さる鉤爪には返しが付いているのか、暴れてそこから離脱しようとまったく動けない。ヘイズはならばと弓矢を構えようとしたが、


「この距離でしかも背後を取られていたら…キミといえども弓は使えないよね」


 抵抗できないように完全に不意を突かれていたことで、結局身動きが取れないままだった。


「おれっちの能力、道化師ピエロはやっぱり便利だよねー」


 道化師ピエロは一度目にした人物であれば、どんな姿にでも成りすますことが可能な能力。演じるのはワイルド自身の為、成りすます相手の特徴を掴まないといけない。


「…ヘイズ!?」


 煙が徐々に晴れてくれば、本物のブライトがその光景を目の当たりにする。


「ヘイズから離れろ!!」


 ブライトはがむしゃらに短剣を振るいながらワイルドへと斬りかかり、ヘイズを助け出そうとした。


「やめた方がいいと思うよー?」


 だが、ワイルドは鉤爪をヘイズに突き刺したままブライトの攻撃を避け続ける。彼が回避行動を取るたびにヘイズの身体に突き刺さった鉤爪の個所から痛々しく血が噴き出し、彼女は苦しそうに表情を歪めていた。

 

「卑怯もの! 人質を取るなんて…!」

「おれっちは正々堂々戦うなんて言った覚えはないよ?」

「だったら私も卑怯な手を使わせてもらうからね…!」


 ブライトは短剣の柄頭つかがしらの蓋を開き、そこから数本の針をワイルドから大きく逸れた左の壁際へと発射させる。


「うーん? キミはどこを狙ってるの?」


 それを見たワイルドがブライトを嘲笑う。

 しかしブライトは狙いを外してしまったのではない。


伝導トランスミッション…!」


 第一キャパシティの伝導を発動するためにわざとその針をずらしたのだ。伝導の能力効果は創造物から新たな創造物を遠隔で生み出すことが可能というもの。ブライトは飛ばした数本の針から更に創造を行い、いくつかの短剣をワイルドの身体へと飛ばす。


「ぅぁ…っ!?」


 短剣が脇腹に突き刺さったことで、ワイルドの鉤爪からヘイズの身体がやっとのことで解放されその場に倒れ込む。


「ヘイズ! 大丈夫!?」

「うぅっ…」

    

 ブライトは急いで側に駆け寄り容態を確認する。その状態を見てブライトは一目で理解した。ヘイズは非常に弱り切ってしまっていることを。再生を使う集中力さえもないということを。 


「落ち着いて再生を使って…絶対に大丈夫だから…」


 ヘイズを落ち着かせて再生を使ってもらおうと試みる。けれどその努力も虚しく、ヘイズは血だまりの中でもがき苦しむだけだった。


「きっしし…その傷じゃ、痛みで集中もできないよね…」


 ワイルドは脇腹に突き刺さった短剣を引き抜いて、再生を使用し治療する。ブライトはすぐに立ち上がり、ワイルドへ短剣の矛先を向けた。



◇◆◇◆◇◆◇◆

 


「ヘイズ…」


 Zクラスの教室でステラは窓の外を眺めながら時間を潰していた。ビートやアウラたちは何事もなく生き残ることだけを考えている。そんな中でステラはひとりぼっち。


「…わたしも戦っちゃダメなのかな」

 

 どことなくその事を気にかけていた。

 自分ひとりだけが戦うための訓練を受けていない。つい先月仲間に加わったヴィルタスでさえ、訓練を受けているというのにステラは遊んでばかりの日々を送っていたのだ。


(何だろう…? 何か嫌な予感がする)


 妙な胸騒ぎを覚える。何かが起こりそうな、何かが消えてしまいそうな感覚。ステラは居ても立ってもいられず、教室を飛び出して上の二階へ続く階段まで駆け足で向かう。


「ヘイズ…!」

 

 ステラは息を切らしながら階段を駆け上がった。一秒でも早くヘイズに会いたい。会って無事な姿を確認したいという欲求。それを胸の内に秘めて、ひたすらに走る。


「こっちから音がする…」 


 金属音がぶつかり合う音。

 それを耳にしたステラはそちらの方へと向かった。


「…ブライト!」

「…ステラ!? どうしてここに来たの!?」


 そこで目にしたものはボロボロのブライトが、真っ赤な鉤爪を手にした男子生徒と戦っている光景。ブライトもステラが突如現れたことに驚きを隠せずにいた。


「あっれ? キミってステラちゃんだよね?」

「…あなたは?」

「おれっちはBクラスのワイルド。よろしく」

「ステラ逃げて! こいつは危険だから!」


 ブライトはステラにそう言い放つと、ワイルドへ短剣を構えて突撃する。

 

「おれっちはキミ一人じゃ倒せないよー」

「かは…っ!?」


 それをワイルドは一発の蹴りで窓際まで吹き飛ばし制圧してしまう。


「ヘイズは…ヘイズはどこ?」

「んー? ヘイズってもしかしてそこに転がっている子?」


 辺りを見渡すステラにワイルドはある方向を指差した。

 

「――あ」


 不意に漏れた声。ステラは血塗れになって倒れているヘイズを見つけた。いや…"見つけてしまった"という言い方が正しいかもしれない。


「ヘイズぅ!!」


 ステラはすぐに血に染まりつつあるヘイズの側まで躓きながらも駆け寄る。


「…ステラ、ちゃん?」

「ヘイズ大丈夫…!? こんなに血をたくさん出したら死んじゃうよ…! はやく治して!」

「……ごめ、んね」

「なんで謝るの!? ヘイズはなにもわるいことしてないでしょ!?」 


 脳裏に蘇るものはモニカたちの遺体。 

 ペンキを塗りたくられたかのごとく、真っ赤な壁に真っ赤な床。


「制服を汚さないのがおれっちの流儀だったんだけど…キミたちは強かったから無理だったね」

「あなたが…あなたがやったの?」

「うん、おれっちだよ♪ そこの子をやったのも、キミの"お友達"を食べたのもね」 

「――!!」

 

 ステラの口から言葉が出ない。

 彼女はモニカたちが誰に殺されたのかは教えてもらっていなかった。Bクラスの何者かが殺したことは何となく察していたものの、まさかこのタイミングで当の本人と出会うとは思ってもいなかっただろう。


「キミに化けてあの子たちを誘い込んだら疑うことも知らずに付いてきてね。ほんとお馬鹿さんたちだよ」

「わかんないよ…。どうしてモニカたちやヘイズたちを傷つけるの? 痛いのはみんな嫌じゃないの?」

「んー、おれっちが傷つけた理由は喰い殺したいと思ったからかなー」

「人が人を食べるなんて…おかしいよ…」


 思考が幼いステラには到底理解が及ばない領域。目を瞑って一人でに呟いているステラの頭をヘイズが力を振り絞り手を乗せた。


「…逃げ、て」

「ヘイズ…! わたしはもう嫌だよ! モニカたちだけじゃなくて、ヘイズも失うのは…!」

「ステラちゃんは…生きないと、いけないよ…」


 嫌だ、やめて、行かないで。様々な言葉がステラの脳内で暴れ回る。認めたくない現実が、覚めて欲しい悪い夢が、目の前で起ころうとしているのだ。 


「モニカちゃんと…私の分まで…生き…て…」

「ヘイズ!? ヘイズっっ!!」

「それがきっと…ステラちゃんの…ため…に」

「ヘイズーーー!!!」

 

 ヘイズの手がステラの頭から床へと落ちていく。消えてしまう。今度は自分の目の前で、ハッキリと、現実を突きつけられるようにして、命の灯が。


「そういえば、あの子たちもその子と同じようなことを言ってたなー」

「ヘイズぅぅ…! 目を覚ましてよぉ…!」 

「『ステラがこの場にいなくて良かった』って」

「――うる、さい!!」


 ステラは生まれて初めて怒りを覚えた。それは今まで自分の思い通りにいかなかった時の生半可な怒りではない。自身の友を傷つけたワイルドに対する――友の為の怒り。

 

「おまえが、おまえが…おまえが全部悪いんだ!!」


 こんな話を聞いたことはあるだろうか。


「おれっちは自分の欲望に従っただけだってー」


 人間の脳は一割程度のものしか力を発揮できていないという話。

 

「わたしは、おまえを許さない…っっ!」

 

 この世の中ではどのようにすれば脳が全力を出せるかを論じられてきた。


「ステラ! 早く逃げて…!」


 そしていくつかの意見の中の一つにこのような言葉が存在する。



「ユメノ使者ぁぁあぁあっ!!!」


  

 ――かつてない怒りを覚えた時、それは覚醒すると。


「な、なんだよこの力は…!?」


 ステラの身体から信じられないほどの創造力が込み上げる。

 ワイルドはそれを呆然と眺め、息を呑んでいた。



「"モルペウス"っっ!!」



 白色の光と共にステラの背後へと現れた者は赤髪にツインテールの少女。それはどこかステラに酷似している。


「…わたしを呼んだのはあなた?」


 ステラはモルペウスと呼ばれるユメノ使者を見て小さく頷いた。


「ふーん、そうなんだー」

「お願い。あいつを倒して」

「いいよー」


 モルペウスが手を振り上げれば、周囲に丸い鏡のようなものが漂う。


「おれっち、やばいかも」


 ワイルドでさえモルペウスの強大な創造力に怖気づいていた。今まで微かにしか感じなかった創造力がここまで絶大に膨れ上がっている。その強大さはディザイアをタメを張れるほど。


「ま、待ってよステラちゃん! 私を攻撃するの!?」

「……!」


 敵わないと考えたワイルドはヘイズの姿へと成りすまして、精神に揺さぶりをかけた。


「私たち、同じ同盟の仲間だったよね?」

「…」

「ステラはアタシらを傷つけるのかい?」


 今は亡きモニカたちの姿へと次々に成りすまし、ステラに攻撃を躊躇させる。


「どーすんの? 攻撃するのか、しないのかー」

「…やって、モルペウス」


 しかしステラはすぐにモルペウスへそう命令した。

 

「ステラちゃん! どうしてそんな酷いことを…」

「自分の胸に聞いてみたら?」


 モルペウスとステラはお互いに近くに漂う丸い鏡へと手をかざして、 



「「光の屈折ライトリフレクション」」



 白色に輝くレーザーを放った。


「こうなったら逃げるしかないっしょ!」  

 

 ワイルドは背を向けて一目散に逃亡する。

 

「光の速さで走れるのなら逃げれるかもねー」


 光の屈折ライトリフレクションは光を操り、対象を焼きあげる能力。放った光は屈折すればするほど光の熱、威力、速さは向上し続けるため、


「うぎゃあああーー!!!」


 ワイルドの足の速さで逃げられるはずもなく、丸い鏡に反射し続ける二本の光のレーザーに衝突した。



「――みんな、わたしはちゃんと仕返ししたよ」


 

 ステラは小さな声で呟いて、ヘイズの側に倒れ込んでしまう。


「確かこの辺りで力を…」


 そこへやってきたのはティアたち。

 ファルサはスロースに担がれ、その場へ姿を現す。


「大丈夫ですかブライト?」

「…ティア、ごめんね。私が弱かったばかりにヘイズが――」

「そんな!? ヘイズさんが…」


 ヘイズの前で涙を流すステラを見たティアは「あなたのせいではありません」と慰めの言葉を送り、視線を他所へと逸らした。グラヴィスもいたたまれなくなり、口を閉ざしてしまう。


「お前は…」

「なに? わたしに何か用でもあるのー?」


 スロースはモルペウスを目にすると、少し警戒をしながらファルサをその場に下ろす。


「お前のユメノ使者か?」

「…うん」 

「そうか。やっぱり…」


 モルペウスに見覚えでもあるのか。

 スロースは少し考える素振りを見せ、ヘイズの容態を窺う。


「…生きているぞ」 

「…え?」 

「死んでいない。まだわずかに心臓は動いている」


 そんな馬鹿なと全員がヘイズへと注目をした。よく見てみれば先ほどまで穴が空いていた胸元が治療されている。


「あなたの創造力がそいつの身体に入り込んだんじゃないー?」

「わたしの、創造力が?」

「ですが他者の創造力が入れば、人体に影響が…」

「いいや、これはヘイズ自身の創造力だ。ステラのものじゃない」


 ヘイズの体内に流れ込んだものはステラの創造力ではなくヘイズ自身のもの。何故ステラの体内にヘイズの創造力が込められていたのか、それに関してティアはふとこんな仮説を立てた。

 

「ステラは創造力を消費したことは、このエデンの園へ来てから一度もありませんよね?」

「うん。ずっと普通に暮らしてたから」

「ならばこう考えられます。ステラは常日頃からヘイズの部屋を訪れ、彼女の手料理をよく食べてました。その手料理にヘイズの創造力が込められていたとしたら…」


 ヘイズの創造力は特殊な効果を持っている。

 それは他者の身体に入り込んだ際、力の逆流を起こさないように循環するというもの。それがステラの体内に溜まりに溜まって循環をし続け、このタイミングでやっと外部へと放出された。


「それって、ステラの体内にあったヘイズの創造力が本人の身体に戻ったってこと?」

「その通りです」

「気を失ったまま、無意識のうちに創造力を消費して再生をしたのか」


 ――奇跡。

 ヘイズの生きたいという意志と、ステラの生きて欲しいという想いがなければこのようなことは起きなかった。ステラは鼻をすすりながら「良かった…」と胸を撫で下ろし、


「ステラ…!」

 

 その場に気絶をした。

 主が気を失ったことで、ユメノ使者であるモルペウスもその場から消滅してしまう。


「げほっ…ごほっ…」

「…ワイルドは、ギリギリ生きてるみたいだね」 


 おそるおそる倒れたワイルドに触れれば、焦げた臭いに喉をやられているのか何度も咳き込む。グラヴィスはそんなワイルドから慎重にジュエルペイを奪い取って、分析を始めた。


「残りは――あの四人だね」


 最も厄介な相手をしているであろうノアたち。

 ブライトは不安になりながらも、崩壊しかけている廊下の先を見つめた。 

 

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