3:11 第三殺し合い週間 終幕
「今の時刻は二十三時五十五分…」
「もうすぐ殺し合い週間が終わるね~…」
本校舎の入り口の前で第三殺し合い週間が終わるのを待つ。鐘が鳴れば校舎内に入っても問題はない。俺たちは赤の果実のメンバー揃って、Cクラスの存亡を知るために深夜に校舎へと出向いていた。
「…鐘が鳴りましたね」
狂った鐘の音が聞こえた瞬間、すぐに入り口の扉を開いて校舎内へと足を踏み入れる。
(…この臭いは)
その途端に校舎内に立ち込める血の激臭が鼻をついた。
「もしこの時点で無理そうならついてこなくてもいい」
俺は後ろを振り返ってブライトたちの身を案じるが、どうやら全員ついてくるつもりのようで、こちらの目を見てその意志を示す。
「…じゃあ、行くぞ」
Zクラスで防衛線を張るつもりだと言っていた。
俺は上の階のCクラスには向かわず、真っ直ぐ歩き慣れた廊下を進んでZクラスの教室へと歩いていく。
「……!!」
しかし俺たちはすぐに足を止めてしまう。
何故ならそこから先は真っ赤な道が続いていたからだ。
「…ノア君、これって」
「……」
ヘイズが不安そうな声を上げるが、俺は何も答えられない。今はただその真っ赤な道を踏みしめて、Zクラスの教室へと向かうことしか出来ない。
「…何だよ、これ」
ウィザードが口を覆いながら、その奇妙な光景に目を疑う。それも当然のことで、切断された足や腕が断面から骨を覗かせた状態で置かれ、血に塗れた髪の毛が辺りに散乱していた。これでもウィザードたちからしたら精神的に厳しいというのに、廊下という一本道の両隅に白い制服と黒い制服が綺麗に畳まれ並べられているのだ。まるでこの先へ来いと案内をするかのように。
「…これは」
「あのケモノ野郎の仕業だなー」
レインとリベロは見覚えがあるだろう。
モニカたちはワイルドによって殺されたが、その際にも制服だけきっちりと丁寧に畳まれていた。あの時にこびりついている光景と照らし合わせれば、一体誰が犯人なのかなど愚問だ。
「ノア、あれ…」
「……」
ブライトが指差すZクラス教室前の行き止まりの通路。
そこに見覚えのある二人が、壁に持たれかかっていた。
「フリーズ、ブレイズ…!」
俺は急いで二人の元まで駆け寄り、容態を確認する。
「……ノア、かい?」
「大丈夫か…!?」
フリーズは両目の眼球を抉られていた。
身体のパーツはすべて繋がっているが、その部分も酷く腐りかけている状態だ。
「がはっ…しくじった…ぜ…」
「ブレイズくん…!」
ブレイズは右の片腕を肩から下にかけて失っていた。
両耳は千切られ、左の太ももは縦に裂かれ筋肉と骨が露出をしている。
「フリーズ、再生を使え…!」
「ブレイズくんも早く!」
俺とルナで再生を使用するように促すが、二人は揃えて首を横に振った。
「…使えな…いんだ」
「ノア、二人はもしかしたら創造力を出し切ったのかも…」
――創造力の消失。
創造力をすべて絞り出してしまえば、二度とその力は戻って来ない。フリーズとブレイズの身体から創造力を感じ取れないことからするに、ルナの言う通り創造力を失ってしまったとしか考えられなかった。
「…ねぇ、助けられないの?」
「……」
「……ねぇ!」
レインが俺の耳元で声を荒げる。
俺はレインがいる逆の方向へと視線を下し、
「…無理だ」
そうキッパリと断言し、匙を投げた。
「どうして…? 四月の殺し合い週間のとき、あなたは意識が朦朧としているモニカたちに再生を使わせられたでしょ?」
「あれはモニカたちの体内に創造力が残っていたから使えた技なんだ。創造力をすべて失ったフリーズとブレイズにしてやれることは…俺とルナからは何も――」
「げほッ…もう、いいんだ」
フリーズが血反吐を吐きながら、手を伸ばす。
「君たちだって…ボクたちがこうなることを…分かって…いたんだろう?」
「……それは」
「オレらだって…これぐらい分かってたんだ…」
「……」
フリーズとブレイズは最初から負け戦に挑もうとしていた。それが例え命を捨てる行為と同等だと分かっていても、俺たちにみっともない姿は見せられないと必死に平然を装っていたのだ。
「レイン…ボクの近くまで来てほしい」
「リベロ…お前はオレのとこまで来い」
レインとリベロは二人の元まで歩み寄るとその場にしゃがみ込む。
「ノア、ルナ。君たちは、この殺し合いを止めると言っていたよね?」
「…あぁ、確かに言ったな」
「私もそう言ったよ」
俺とルナはフリーズの問いにそう答える。
「だったら…ボクたちと約束をしてくれ」
「約束?」
「オレとフリーズの…願いを、絶対に叶えてくれってことだ」
「え? それって…」
「…ボクたちの叶えたかった夢は、君たちがしようとしていることだったんだ」
俺とルナがしようとしていること。
それはこの殺し合いを生き残り、救世主と教皇が争わず、現ノ世界とユメノ世界が共存できる世界に変えることだ。俺たちが今こうして成そうとして行いこそが、二人にとっての目標であり夢だった。その真実を知り、俺とルナは言葉を失ってしまう。
「この世界は…狂っている…ボクとブレイズ…二人の結論だ」
「本当なら…Sクラス共をぶっ潰した後に…話そうと…思っていたんだけどな…」
苦しそうにそう告げる二人の手をレインとリベロは両手で握った。
「ボクたちとの約束を…果たしてくれるかい?」
「…必ず果たす。お前たちが次に転生をする頃には、本当のエデンの園のような幸せに暮らせる世界に変えておいてやるよ」
「そう、だな…。こんな血みどろのエデンの園なんて…嫌、だぜ…」
徐々にフリーズたちの声が小さくなっていく。
レインとリベロは二人の手をより強く握った。
「レイン…君に、ボクのすべてを託す」
「私に…託す?」
「リベロぉ…お前にもだ…」
「……」
フリーズの身体が青く光り、ブレイズの身体が赤く光る。俺とルナはその光景に失っていた記憶が一瞬だけフラッシュバックを起こし、片手で頭を押さえて近くの壁に手を突いた。その際に映し出された光景は、どこかの研究所。知っているようで知らない。そんなまどろっこしい感覚だ。
「ボクの第一キャパシティ、
「オレの第一キャパシティ、
(これは、"キャパシティの継承"か…)
――キャパシティの継承。
それは自身のキャパシティを別の人物の誰かに受け渡し引き継ぐというもの。一度継承すれば、元の持ち主はそのキャパシティを扱うことは出来なくなる。勿論、返すことも不可能だが…継承した人物が別の人物に継承させることは可能だ。
「…フリーズ」
「…違うよ。ボクの名前は
「……お前は
「はっ…リベロ、お前はやっぱり
二人は自身のネームを捨てて、本当の名前をその場で告げる。氷吾斗真と炎堂蓮也、真の名前は本当にどこにでもいそうな名前で、彼らもそこらにいる一般の高校生と変わらないだと実感させられた。
「…ボクたちを、密告するんだ」
「どうしてそんなことをしないと…」
「Bクラスのやつらの糧になるぐらいなら…お前たちに密告してもらった方がマシ、なんだよ…」
「……蓮也」
レインとリベロがこちらへ顔を向ける。その瞳には「密告をしてやってくれ」と文字が浮かんでいるようにも見え、俺とルナは縦に頷いてその請いに応じるしかなかった。
「氷吾斗真…」
「炎堂蓮也くん…」
俺は密告システムの入力画面に『ひょうごとうま』と入力し、ルナは『えんどうれんや』と入力をし終え、
「赤の果実…必ずこの世界を…平和に…」
「…お前たちが…救って…くれ…」
送信ボタンに指先を触れた。
すると、甲高い電子音が一度鳴り『密告成功』と互いのジュエルペイに表示される。二人は既に息絶えているようで、レインとリベロは手を離し、その場に立ち上がった。
「…リベロ」
「気にすんなヘイズ。オレはこんぐらい平気だからなー」
「レイン、大丈夫ですか?」
「…問題ない」
壁に持たれかかっている二人の顔は悔いがないのか、清々しほど安らかなものだ。俺たちはしばらくの間どう会話を始めればいいのかなどと躊躇をしていると、
「…待て、誰かいる」
Zクラスの教室の隣にある空き教室で人影が動いたことに気が付き、俺は全員を後ろへと下がらせる。
「Bクラス…?」
「いや、それにしては創造力がかなり弱い」
その人物は誰なのか。
それはすぐに判明した。
「――だ、だれなんだ?」
「お前は…アスパイアか?」
「ノ、ノアなのか?」
巨体が目立つアスパイア。
空き教室から姿を現すと、地獄道のような廊下を見て慄然し顔を真っ青にしてしまう。
「ふ、フリーズとブレイズはどこにいるんだよ…っ!?」
「あの二人は…」
アスパイアは俺が視線を一瞬だけ背後へ逸らしたことで、俺を無理矢理どかしてすぐさま彼らの亡骸の元まで駆け寄った。
「…お、おい! フリーズ、ブレイズ…どうしたんだよ? こんなところで寝ちまってよぉ…?」
アスパイアは必死に二人の両肩を掴んで揺さぶる。だが目を覚ますはずもない。何故なら二人は既に亡き者。どれだけ声を掛けても、痛みを与えても、目を覚ますことはない。
「アスパイア、二人は…息を引き取った」
「――!!」
「だけどお前だけでも生きていて良かっ――」
その瞬間、アスパイアは俺に掴みかかってきたため、言葉が途切れてしまう。
「…どうしたんだ?」
「ノア、オレ様はよぉ…オレ様はよぉ…!!」
足に力を込められずに、その場に泣き崩れた。
「見てることしか出来なかった…!! オレ様がビビッちまったせいで…ブレイズとフリーズがオレ様を逃がすために…!!」
「…アスパイア」
「オレ様が弱いせいでぇっ…! ブレイズとフリーズを死なせちまってよぉ…!! オレ様はこれからどうやって生きていけばいいんだよぉ…!?」
自らの弱さのせいでとアスパイアはひたすらに慨嘆している。
俺たちはそれをどう慰めればいいのか分からなかったが…ただ唯一その場にいる全員、同じ感情が芽生えていた。
「……許せないな」
「…うん。私も久々に頭にキたよ」
Bクラスに対する憤り。Cクラスを見世物をし、俺たちへと宣戦布告を仕掛けてきたこと。決して許されるようなことじゃない。
「移動しよう。ここではゆっくりと話せそうにもない」
俺はアスパイアの肩を摩りながら、取り敢えずこの校舎から出ようと移動を始めようとする。
「どうだ? Cクラスの最後は?」
俺たちが歩いてきた方向から、ディザイア率いるBクラスの生徒五人組がこちらに向かって歩いてきた。赤の果実のメンバーたちは明らかな敵意を、ディザイアたちへと向ける。
「…殺りにでも来たか?」
「違うな。俺は最初にお前たちに言ったはずだ。先にCクラスから皆殺しにする、と」
「ふーん、あなたたちはアスパイアくんを殺すつもりなんだね?」
「それも違う。今月はCクラスを皆殺しにしておしまいだ。お前たちを本当に殺すのは三か月後の殺し合い週間」
俺はアスパイアをウィザードに任せ、ディザイアを正面で向かい合った。
「それにしても哀れだな。その二人の第一キャパシティが、あの二人の能力になるなんて」
「……」
「大して強くもないのに、無駄な能力を継承させて…可哀想なやつらだ」
「……お前は一つ勘違いをしているようだな」
レインは右手に氷を生み出し、リベロは懐から取り出した一本のゲームに炎を付けて炭と化す。
「――これは第一キャパシティじゃない。そんなものとっくに開花させてるんだよ」
「……そんなハッタリを」
「ハッタリかどうかは、三か月後に分かる。何故ならお前たちは俺たちが
赤の果実のメンバーたちが俺とルナの横を通り、ディザイアたちの横を過ぎ去っていった。そして最後に、俺とルナがディザイアたちの横を通り過ぎる際に立ち止まる。
「お前たちは殺し合いのつもりで俺たちにけしかけてくるつもりだろうが…」
俺はディザイアの耳に届くようにハッキリとこう伝えた。
「――俺たちからすればこれは戦争だ。Zクラスと、Bクラスの全面戦争なんだよ」
「……」
ディザイアはこちらを見るだけで何も喋らない。
そんなディザイアに俺とルナは続けて初代救世主、初代教皇としての自分を思い出し、
「「…
ドスの聞いた声でそう呟いて、校舎から出て行った。
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