3:12 Sクラスは会議へと参加する
「遅いじゃないか。お前たちは今までどこで何をしていたんだ?」
「此方を待たせるなんて…よっぽど大切な用事があったのですか?」
「そんなことどうだっていいだろ」
「そうよ。あなたたちは時間を気にするような性分じゃないでしょ?」
三階にあるBクラスの教室。
そこではディザイア、フールの二人が机の上に座り、ローザ、エルピスの二人が窓際に持たれかかって、Sクラスのスロースとストリアを待っていた。
「それで? ローザか? おれたちを急に呼び出したのは?」
「ええ、此方が招集させました」
「とっとと話してくれ。俺とフールはどこかの誰かのせいでかれこれ一時間も待たされているんだ」
「そうねぇ…なんならもう一時間待ってみる?」
「駄弁るな。おれは早く話を終わらせてほしいんだよ」
スロースが変に会話を始めようとするディザイアとストリアに注意をする。
ローザは改めてと軽く咳ばらいをし、話をこう続けた。
「此方が招集させた理由はZクラスについてのお話があったからです」
「…Zクラス? どうしてだ?」
「あなた方もお気づきかと思いますが、Zクラスに規格外の生徒が二人ほどいます。Cクラスと協定を結び、ディザイアに創造形態を使わせるまで至った生徒。そして私の第一キャパシティの能力がまったくと言っていいほど効かない生徒」
「俺は知っている。その二人っていうのはノアとルナという生徒だろう?」
「…ノアとルナ? あぁ、そういえばおれたちも一度か二度会ったな」
スロースには覚えがある。
入学式初日に一度だけ交戦し、第一殺し合い週間で自分たちの階の空き教室で身を潜めていたあの二人。ローザが規格外だと述べているのにもスロースは納得していた。
「彼らは厄介です。此方たちと対等に渡り合える。そんな危険人物を残しておくべきなのでしょうか?」
「お前が言いたいのは、ノアとルナをどうやって殺すかを考えたい…ってことか?」
「それもありますが…ディザイア、あなた方は確か三か月後の第四殺し合い週間でノアとルナが率いる赤の果実と殺し合いをするようですね?」
「何故お前がその情報を知っている? 誰から聞いた?」
「此方は風の噂を耳にしたのです。それよりも答えは?」
ディザイアはローザによって上から圧力をかけられ、渋々「その通りだ」と返答をする。
「勝算はあるのですか?」
「言い草が気に入らない。お前は俺たちが負けるとでも思っているのか?」
「確実に負けるとはいきませんが…此方はあなた方にも敗北があり得ると考えていますから」
「…ほう、俺たちが負けるようならお前たちも勿論勝てそうにないだろう?」
「いいえ、此方たちはあなた方と違って知恵を絞っている。虐殺だけを楽しむ愉快な脳で作られてはいないんですよ」
ローザの挑発によって、二人が睨み合いながら臨戦態勢へと移行した。スロースとストリアはそんな厄介ごとは勘弁だといって、間に仲介へと入る。
「ディザイア。ローザの言う通りあの二人はちょっとやそっとで倒せるような相手じゃない。おれたちはあの二人の実力を知っている」
「なら仮に俺たちの勝算が少ないとして…ローザ、お前は何が言いたいんだ?」
「簡単な話です。此方たちで手を組んで、あの二人を潰せばいい」
「知恵を絞るなんて言ってたくせに、随分と卑劣な手を使うのね?」
「卑劣? この殺し合いに正々堂々を求める者などいません。ましてやCクラスが消えてしまった今、私たちの敵となるのはZクラスでしょう」
ノアとルナは危険分子。
スロースとストリアにはノアとルナは相当戦い慣れているように感じた。幼い顔つきをしているくせしてその瞳の奥を覗いてみれば、そこにいるのは修羅場をいくつも掻い潜ってきた猛者中の猛者。
「Sクラスに所属する七つの大罪か七元徳のメンバー。それを三か月後の殺し合い週間に、ディザイアの援護として派遣してください」
「…おれたちのクラスからだって?」
「まさか断るつもりですか? 此方たちは今までSクラスの指示通りに動いてきたというのに…」
「それとこれとは話が別よ。私たちがあなたたちとしたのは『Sクラスの傘下になれば攻撃は仕掛けない』という契約だけじゃない」
「お前たちの標的にならない…それだけのメリットばかりじゃもうそろそろ限界だ。そもそも俺たちに殺せる人数を限定させるのはどういうことだ? そんな契約は最初になかっただろう?」
疑心暗鬼になるディザイアとローザの二人。
スロースとストリアは顔を見合わせて、どうしたものかと首を傾げる。
「…これも風の噂で耳にしましたが、Sクラスの担任はゼルチュらしいですね?」
「……おれたちの担任がゼルチュだという証拠でもあるのか?」
「ありません。此方が耳にしたのは
「今は私たちのことなんてどうでもいいわ。手を貸すか貸さないかは私たちで判断はできない。きちんとSクラス内で話し合って近々答えを出すことにするわよ」
二人はローザを軽く睨みつけて、静かにそう答えた。スロースとストリアはSクラスに所属する実力を持つことで、その威圧感もディザイアとは比べ物にならないほどのもの。あのディザイアが逆らえないのもノアとルナのようにSクラスがまた規格外だからだった。
「話はこれだけならおれたちはもう行くぞ」
「もう行ってしまうのですね」
「悪いわね。あいにくあなたたちと仲良くお喋りをしている時間はないのよ」
スロースとストリアが足早に教室から出ていこうとした時、ディザイアが「待て」と二人を呼び止める。
「…何だ? まだ何かあるのか?」
「七つの大罪に七元徳。この中で誰が一番強いんだ?」
「……知らねぇよ。おれたちはそんなものに興味はないんだ」
「――DDOの元凶を止めた人物。そいつがその中にいるんだろ?」
スロースはその場で振り返り、ディザイアの顔を見た。
「DDOは数千年以上も前に起きたことだ。おれたちが止められるわけがないだろ」
「聞けばお前たちはこの世界に突然現れ、導かれるようにしてこのエデンの園へやってきたらしいじゃないか」
「突然現れた、か。…そんなつもりはない。おれたちはおれたちなりに戦っていたところを発見させられ、エデンの園へ誘われやってきただけだ」
スロースはまったく動揺することもなく、ディザイアから視線を逸らさずにそう断言する。
「だが、歴史書には『DDOの被害を最小限に抑えることに貢献した人間が一人いた』と記されている。そいつの名前はなかったが、黒髪に赤色のメッシュを入れた高校生…という特徴だけが書かれていたんだ。お前と酷似しているのは偶然なのか? それとも―――」
「…偶然だろ。そんな奴、そこら中にいる」
スロースは興味がなさそうに振る舞うと、そのままストリアと教室を出ていく。
「…気に食わない奴らだ」
「此方もその意見には同感です。どう考えても、意図的に殺し合い週間を長引かせるために行動を起こしているようにしか思えません」
そこに残されたディザイアたちとローザたちも、これ以上会話を交わすこと必要性などはお互いに感じず、別々の出口へと歩き出し、
「――ご健闘を」
「そりゃどうも」
一声かけて、Bクラスの教室を出ていった。
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