3:4 救世主と教皇はCクラスと話す
「悪かったな。急に呼び出してしまって」
「気にしないでいい。ボクたちもちょうど時間が空いたところだったからね」
「で、オレたちに何の用なんだ?」
「今月の殺し合い週間について話をしたくてね~」
「なら良かったよ。ボクたちもそのことについて君たちと話をしたかったんだ」
俺とルナはCクラスに作戦を伝えるため、寮近くの公園にリーダー格となるフリーズたちを呼び出していた。二人は先ほどまで、今月をどう乗り切ろうかと考えていたらしい。
「ノアたちは今月をどう乗り切るつもりなんだい?」
「俺たちはBクラスと真っ向勝負を仕掛けようと考えている」
「おい、正気かよ?」
「それ以外にいい方法が思いつかないからね~。Bクラスと協定でも結べるなら話は別だけど~」
「それで、戦いに備えて同盟内メンバーを俺たちで鍛えているんだが…」
俺は二人にジュエルペイのデータチップに、持ち主の本名や経歴が組まれていること。そしてそれを利用して密告システムを使用すると作戦だと伝える。
「なるほど。確かにディザイアたちもジュエルペイを狙うとは予測できないだろうね」
「その作戦にフリーズくんとブレイズくんも協力してほしいんだ~」
「オレは構わないぜ。お前もだろ? フリーズ」
「そうだね。ボクにも是非とも協力をさせてくれ」
俺はフリーズと、ルナはブレイズと握手を交わした。
この二人が一時期的であれ、味方となってくれてとても心強い。
「そういえば、君たちの同盟メンバーたちは第一キャパシティを開花させているのかい?」
「いや、まだしていない。それまで少し程遠い実力しか持っていないんだ」
「そうなのか。オレたちに勝てたのも、ほぼ作戦のおかげだったんだな」
「フリーズくんたちは第一キャパシティが使えるけど…。他の子は使えないの~?」
「今だから言えるけど…実はボクたち以外に能力を扱う生徒はCクラスにいない。Zクラスの生徒よりもほんのわずか創造力が上回っているだけの違いさ」
第一殺し合い週間の際にZクラスの生徒たちが耐え凌げていたのは、Cクラスが手を抜いていたわけでも、Zクラスが思った以上に強かったわけでもない。ただ単にフリーズとブレイズを除いたCクラスの生徒たちと、Zクラスの生徒たちの実力が均衡していたから。
「お前たちは第二キャパシティを開花させないのか? 第一キャパシティがそれ以上鍛えられないことは、お前たちが最も理解しているはずだ」
「ボクたちは第一キャパシティ以降は開花させられない…って
「…? キャパシティ関係のことは医者が教えてくれるの~?」
「はぁ? 医者以外の誰に聞くんだよ?」
「悪い、俺とルナは記憶喪失なんだ。気がつけばこのエデンの園にいた…という記憶しか持ち合わせていないから、外の世界がどんな仕組みで回っているのかが分からなくて…」
二人はその真実を俺たちの口から聞いて、何と言えばいいのかと言葉を詰まらせてしまっていた。
「本当に記憶が何もかもないのかい?」
「何もかもというわけじゃない。なぜか戦い方の知識だけは覚えているんだ」
「そこだけ運が良かった…って言葉で片付けられる件じゃなさそうだな」
「そうだね~。私たちもすぐに記憶が戻るかな~って思ったんだけど、全然戻らなくて」
「それこそ君たちのジュエルペイを調べてみたらどうなんだい? 本名や他の情報が知れるんだろう?」
「あぁ、それなんだが…」
既に俺とルナはグラヴィスの部屋でジュエルペイを外し、中身の個人データを抜き出そうと試し終えている。結論だけを述べれば、個人データは何一つ抜き取れなかった。グラヴィス曰く「何も記載がされていない」らしい。俺はそのことを二人に説明をした。
「…意図的に仕組まれていそうだね。君たち二人が実力者だというのにZクラスへ振り分けられ、戦い方のみの記憶を持ち、自分たちの情報がジュエルペイにも載っていない。いくらなんでも露骨すぎるよ」
「何か裏がありそうだな…」
脳裏に過ったのは俺とルナが転生をしたことについて。
根本的な理由もなく俺とルナが気まぐれで転生をしたとして、何故よりによってこのエデンの園なのか。というよりも、そもそも俺たちはこのエデンの園に来る前に外の世界で過ごしていたのだろうか。
「教えてくれ。この殺し合いに参加をする生徒たちはどうやってこのエデンの園に来たんだ?」
「でけぇ船だ。オレらはそれに乗せられ、一日かけてここまで来た。それも覚えていないのか?」
「うーん、覚えてないよ~」
「君たち随分と重症だね…」
フリーズたちが少々憐れむように俺たちを見ている。
ルナがそんなフリーズたちに対して、
「可哀想だと思うなら今日の夕飯ぐらい奢ってよ~」
という哀れみを利用するような頼みをした。
「ごめんな。それは無理だぜ」
しかしそれは秒で断られる。
ルナは「ケチ~」とジト目になりながら、文句を言った。
「君たちに敗北をしてから貰えるチップがかなり減ってね。ボクたちも生活が厳しい状態なんだ」
「…過程がどうであれ、見ているやつらからすればお前たちは敗北者だからか」
「そうだ。オレたちは一度でもお前たちに完敗したんだよ」
「ハァ…ハァ…敗北者!?」
「ルナ、何の真似をしているかは知らんが…このタイミングでボケるか普通?」
赤の果実のメンバーたちに振り込まれたチップの量は先月よりも三倍ほど増えている。やはり役割分担をして、全員の見せ所を作ったことが功を奏した。
「まぁ安心しろ。今月はお前たちと手を組んでBクラスと戦うんだ。オレたちも来月にはチップを貰えるようになる」
「…ボクたちも中途半端に手は抜かない。自分の為に、君たちの為に戦うから安心してくれ」
「あぁ、任せたぞ。作戦の詳細はまた今度伝えに行く」
「了解。それじゃあ、また何かあったら呼んでくれ」
ノアとルナは二人と別れ、寮に帰っていく。
公園内に残されたフリーズとブレイズは、空を見上げ夕陽を見た。
「やっぱり、オレたちは間違っていなかったんだな」
「…そうだね。ユメノ世界の人間、現ノ世界の人間、住んでいる世界が違えど分かり合えるんだよ」
フリーズは現ノ世界、ブレイズはユメノ世界にそれぞれ生まれてきた。幼稚園、小学校、中学校、長きに渡って学んできた内容は、お互いの世界がどれだけ憎み合っているのか。
「ノアやルナはあれだけ仲がいい。ボクたちは何もおかしくなかったんだ」
そんな教育を受けていれば当たり前のように、互いの世界の住民を嫌い合う。このエデンの園へやってきてCクラスへと振り分けられた初日、フリーズとブレイズは殺し合おうとしていたのだ。
「…フリーズ、約束は覚えているか?」
「当たり前さ。ボクたち二人でこの世界を変えるって約束だろう?」
ぶつかり合い、殴り合い、そこから二人が得たモノは友情。
今まで語り合えないと思っていた相手の考えをお互いに聞き、二人にとっての常識が消失した。ユメノ世界も現ノ世界も、争っていること自体が間違っていると。
「まさか、ノアたちがオレたちと同じ考えを持っているとはな」
「あの二人の言葉を耳にしたときは驚いたよ」
フリーズとブレイズにとって、協定を結ぼうとしたノアやルナは理想主義者にしか見えなかった。だが実際に宣言した通り無殺生で自分たちを完敗させ、敵だというのに手を差し出してきたのだ。
「ルナはオレたちとの関係を築き上げる教皇で…」
「ノアはボクたちの理想を叶える救世主、だね」
二人はルナとノアなら世界を変えられる。
先ほどの会話を得て、強くそう確信していた。
「このことは黙っておこうぜ。あいつら、オレたちの本心を聞いたらきっと喜ぶからな」
「そうだね。ボクたちを完敗させた腹いせにいいかも」
フリーズとブレイズはルナとノアの後姿を見つめ、少しだけ笑みを浮かべる。夕陽によって映し出された二人の影はとても長く感じた。
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