1:4 救世主と教皇は型を知る

「はい四限目の訓練を開始しま――ってルナはどこよー?」

「ルナさんなら、あそこで倒れてます」

 

 ヘイズが指差した方向には仰向けに倒れたルナが、血文字のようなもので体育館の床に「陰キャラ」と書いていた。何故このようなことになったのかというと、ルナが先ほど仕返しだと言わんばかりに「許せぬまじぃぃ!」と叫んでこちらへ飛びかかってきたからだ。


「あれ、大丈夫なのー?」

「大丈夫です。あの血文字もどうせケチャップですから」


 その際に反射的に膝蹴りを、鳩尾へと打ち込んでしまいもがき苦しみながら倒れた。という流れの終着点が今に至る。ウィッチもリベロもヘイズさんもブライトも、全員が苦笑いをして倒れたルナの事を見ていた。


「ルナ、授業が始まるんだ。そろそろふざけるのをやめろ」

「はーい」


 ルナは立ち上がり、制服の汚れを払いのけると平然とこちらへ歩いてきて隣に何食わぬ顔で授業へと参加をしようとする。こいつ、朝から現在に至るまでで頭のネジが何本か外れてしまってないか。


「授業やりましょ~!」

「お前が言うな」


 そんなツッコミを入れたのを合図に、ウイッチが訓練についての授業内容をこう説明した。


「で、多分ここにいる人たちみんなが『訓練ってなに』って思ってるだろうから、ちゃんと分かりやすいように紙を用意してあげたわよー。まずは軽く読んでみなさいー」


 ウィッチは十人分のプリントを配布して、目を通すように指示をする。

 配られたプリントには、


『生まれつき人は"かた"というものを持っている。それは個人によって違いは出るが大まかに分ければ、

 A型(Attack)

 →殺傷力が高いモノを創造するのに長けている。

 B型(Block)

 →自身の身を守るモノを創造するのに長けている。

 C型(Cure)

 →包帯や止血剤、人を癒すモノを創造するのに長けている。

 という三種類の型で基本構成されているのだ』


 型についての説明が記されたものが書いてあった。


(型か。この時代まできちんと引き継がれているんだな)


 現ノ世界とユメノ世界とで大きく分けた事件であるDDOが起きてから、二年ほどでこのような分け方が世界に発表をされたのだ。一時期、血液型と同じ型になるのではないかという推論を立てた学者が調べていたが、結果的に何の関係もなかったという話をふと思い出す。


「ノア、下のここを見て」


 ルナが指を差したのは下の方に書かれている追記。そこには、


『ごく稀に二つの型を持つ時がある。それは生まれつきか、発育の途中に変化をしたかのどちらかで、

 AA型(Attack&Attack)

 →通常のA型よりも数倍能力が高い型。

 AB型(Attack&Block)

 →殺傷力、身を守るモノの両者に長けている。

 AC型(Attack&Cure)

 →殺傷力、傷を癒すモノの両者に長けている。

 BB型(Block&Block)→

 通常のB型よりも数倍能力が高い型。

 BC型(Block&Cure)

 →身を守るモノ、傷を癒すモノの両者に長けている。

 CC型(Cure&Cure)

 →通常のC型よりも数倍能力が高い型。

 というような六つの型である』  


 と基本構成の三つの型に加えて、六つの上位互換についての説明が記されていた。

 

(この六つの型は俺たちの時代になかったな)


 前世の記憶では基本構成の三つの型でしか配分されていなかったのだ。少ない配分のせいで、優秀な者と一般的な者の区別をつけることが出来ずに、トラブルが多々あった。


「見てみて、ここは一緒だよ」


 一番下に書かれていた最後の型。

 それは見なくとも何なのかは分かる。


『稀に型が不明な存在がいる。その者は創造において力の差がない万能型。P型(Perfection)。特徴はあらゆる創造に長けているということ。今まででこの型を持っていた人物は"初代教皇"と"初代救世主"のみと伝えられている』


 ――P型。それは前世に自分たちが持っていた型でもあり、殺し合いが長くに渡って決着がつかなかった原因。


「嫌な型だよ」

「うん。私もそう思う」


 A型にもB型にもC型にも、必ず弱点がある。もちろん新しく増えている上位互換の六つの型にも弱点はあるだろう。しかしP型だけ弱点は一切ない。どんなものも何一つ不自由なく創造することが可能な型。ルナも自分も、このP型適正者だったからこそ、戦争を終わらせたくても終わらせることが出来なかったのだ。


「今からこの三つの型から、自分が適正としている型を知ってもらうわー」

「自分の型を、ですか? どうしてそんなことを?」

「敵を知る前に己を知れってことよー。ほら、型を決めるやり方が書いてあるからさっさと始めなさいー」


 ウィッチがそう指示を出すと、一部の生徒は少し離れた位置で隠れながら確認をしようとする。よく考えてみれば、ここにいる者たちも一種の敵として含まれるため、自身の型を公表するのは良くないのかもしれない。


「私たちもやってみる~?」

「あぁ。まぁやってみる価値はあるな」 


 昨晩、当たり前のように衣服を創造したりしていたがもしかしたらP型じゃなくなっているかも…と微かな希望を抱きながらプリントに書かれた手順で調べる方法を試してみることにする。


「…剣、盾、包帯。この三つを創造できるかどうかを試し、最も創造しやすい部類は何かを確かめる」

 

 ルナとプリントの説明を見ながら、右手に剣、盾、包帯を一つずつ創り出した。隣を見てみるとルナは左手から同じように剣、盾、包帯を一つずつ創造しているようだ。


「ルナ、どれが最も創造しやすかった?」

「正直言うとね。前世とあんまり創造する感覚が変わらないから、P型な気がする」

「あぁご愁傷様です」


 ややショックを受けたルナはこちらに「ノアはどうだったの?」と尋ねてくる。最も創造しやすい部類は何か、と聞かれても全部創造した感覚すらないほど容易い――


「包帯が一番創造しやすかった。だから俺はC型だ」

「それほんと~?」

「ああホントホント。自分に嘘は付けないからな」


 P型なのかもしれないが、あくまでもそれは可能性・・・可能性・・・だ。若干、包帯の方が創造しやすかった気はしなくもない。いや包帯が創造しやすかった。絶対に創造しやすかった。


「そういえばあなたに言ってなかったけど、私の第一キャパシティって何か知ってる~?」

「お前の第一キャパシティ? あれか、隕石を落とす奴か?」

「ブッブー! 正解は『相手の心を読む』能力でした~」 

「あー、P型だったよ。何かさっき夢でも見てたような気がするなぁ」

 

 素直にP型だったということ明かす。その返答を聞いたルナはクスクスと笑い始めた。


「まぁ、心を読むのは嘘だけどね~?」 

「はい?」

「私の第一キャパシティはそんな能力じゃないよ~? だってもし心を読む能力なら、ノアの心を何度も読んで色々と先読みしてたし~」


 また嵌められてしまったらしい。どんな人物でも行動を読んだり、どのようなことを考えているかを予測することは可能だが、初代教皇のルナの言葉だけは決して真意を読み取れない。


 昨日からルナと普通に会話を交わしているが、それがルナの本当の顔・・・・・・・だとは限らないのだ。

 

「ルナ、お前が創造した剣と俺が創造した盾。どっちが強いか試してみないか?」

「えぇ~? どうしてそんなことするの~?」

「創造力はどちらが上なのかを知りたいんだよ。殺し合いしている最中は互角だったが、実際に測ってみないと本当にそうなのか分からないだろ?」


 転がっている盾を両手に持ち、ルナに自身で創造させた剣を持たせた。創造力は腕相撲には力が必要と同じ要領で、創造したモノが同じでも力量の差によって大きく違いが出る。


 例えば創造力が上の者の創り出した一枚の紙を、創造力が下回っている者は絶対に破れない。その逆も然りで、武器を生成しても創造力が上ならば容易く破壊することが可能なのだ。これは創造破壊クリエイトブレイクと呼ばれている。


「行くよ~」


 ルナが剣を盾目掛けて振り下ろす。これでもし盾が傷つけば、こちらの創造力が下回り、剣に刃こぼれが生じればルナの創造力が下回っているということになる。


「――どうなった?」

  

 金属音が衝突し合う音が響くとルナは剣をその場から消し去り、盾の表面をじっと見つめ始めた。こちらがどのような結果になったのかを尋ねても、ルナは何も答えない。


「おい、どうなったんだよ?」


 それならば自分の目で見ようと、盾を裏返しにした瞬間、


「はーい。全員集まりなさいー」


 集合を掛けるウィッチの声が体育館に響き渡った。

 

「ノア、行こ」

「結果はどうだっ――」 

「ほら集合かかってるから早く早く~」

「分かったよ!」

 

 どのような結果になったのか気になったが、ルナによって強引に腕を引っ張られたことで、仕方なく諦めることにし、盾をその場から消してウィッチの元まで駆ける。


(もしかして私たち――"弱くなっている"?)


 ルナは消えゆく盾を見て、心の中でそう呟いた。

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