1:2 救世主と教皇は接触する
「うぃーす、ヴィル」
「おはよう、ネッド」
Zクラスの教室へと顔を出してみれば、ブライトの言った通り、既に同盟システム使用しているであろうグループが教室の隅で固まっていた。
「誰も声を掛けにこないのか」
「そだね~。きっともう用はないってことかな~」
背後でルナが席に着いたというのに、昨日まで集っていた生徒たちは一人も寄ってこない。同盟が作られたことで既に"用済み"というわけか。
(ノートに同盟を組んでいる生徒をまとめておくか)
集団で固まっている生徒たちの顔を一人ずつ観察して、ノートに教皇と救世主、四つずつの枠をそれぞれ作る。
(まずは救世主側から)
救世主側の第一の同盟。赤い髪のツインテールに少女のような容姿を持つ女子生徒『
ステラと同様に赤色の髪を持つ無邪気そうな『
黒色の短髪をした男勝りな『
茶色の髪を一つ結びにしたおしとやかな『
丸眼鏡を掛けて黒髪におさげをした優しそうな『
第二の同盟。茶髪に好印象を抱かせる笑顔が特徴的な男子生徒『
寝癖が目立つ黒の髪型に、フレームのない眼鏡を掛けておどおどしている内気な『
金髪に加えて男らしく髪型を刈り上げ、腕っぷしの強そうな『
本を片手に読みながら、黒フレームの眼鏡を上げる動作で知的さを曝け出している『
幼い顔つきをして、青年というより少年と例えた方がよいであろう『
(ステラとビートが救世主側のリーダー格、か)
この二人に共通をしているのは、とても声を掛けやすく人から好かれそうな性格をしているという点だ。同盟を上手く組めたのも、人が寄ってきたのも、この二人の発する明るい雰囲気が主となる要因だろう。
(次に教皇側…)
教皇側の第一の同盟。薄紫色の長髪を持った可憐な女子生徒【
ボブカットに前髪がぱっつんの明るい【
水色髪を一つに束ねて、冷ややかな瞳を持つ【
白い長髪を持ち、見るからに大人しそうな【
滅多に見ないエメラルドグリーンの髪を持つ大人の女性らしく振る舞う【
第二の同盟。男子学級委員として務め、現ノ世界を恨んでいるとされる【
赤い髪を持ち、いかにも強そうな図体を持つ【
緑色の髪を持ち、身体がどこか悪そうな【
長い黒髪で目を隠している無口な【
ワックスで整えた茶髪に、お茶らけた様子でいる【
「アウラとヴィルタス。お前はどう思うんだルナ?」
「カリスマ性があるのかな~? 救世主側のリーダーたちと違って、自然と人が集まってくる素質があるのかもね~」
教皇に必要なのは人を惹き付けるカリスマ性。ルナはこう見えても【ナイトメア】という宗教団体の初代教皇。自然と周囲に人が集まり、崇め奉られていたのだ。ルナから見て同類となりそうな人物はアウラとヴィルタスなのかもしれない。
「同盟システムはどうするの~?」
「救世主五人、教皇五人で一つの同盟なのに、どうしてあいつらは五人だけなんだ?」
「救世主と教皇の壁じゃない?」
「あぁ、そういうことか」
同盟内で規則を作れるとしても、救世主と教皇ではリーダーによって別々の規則となる。救世主同士、教皇同士でさえ規則によって信頼関係を得ないといけないのであれば、救世主と教皇、ましてや規則で信頼性を得られないのであれば、今の状態が最も安全だと判断したのだろう。
「五人ずつという組み合わせは救世主一人、四色の蓮四人で…」
「教皇一人、四色の孔雀四人ってことだね~」
いずれ個人戦ではなく団体戦がメインとなるように、同盟システムを取り入れていると考えた方が妥当。このシステムを使えば、誰かがこの殺し合いで最終的に省かれる可能性もない。最後まで殺し合って、生き残ることだけを頭の中に入れれば余計なことを考えずに済む。
「救世主と教皇に相応しい人物か~」
「候補生はいるのか?」
「やっぱりヴィルくんかアウラちゃんじゃないかなぁ」
「それじゃあ、こっちもステラとビートに接触してみるよ」
二人はお互いに救世主と教皇とで別々の集団に接触を図ることにした。
「おはようステラさん」
「あ、ノアくんだっけ?」
「名前を覚えてもらっていて光栄だよ」
ステラに声を掛けると、周囲で話をしていたルビーたちが明らかに嫌な顔をする。敢えて気が付かないフリをしながら、続けてこんな話を持ち掛けた。
「ステラさんは救世主になりたいと思ってる?」
「んん~? 救世主になりたいかって言われても、わたしたちは戦うつもりないから」
「戦うつもりがない? それは殺し合いを放棄するってことだよね?」
「そうだよ。この同盟を組んだのは殺されないように生き延びるためだし…」
一人で逃げるよりもみんなで逃げた方が安心する。それがこの同盟の存在する意味。殺し合いを正面から否定して、この一年間生き延びようと考えているようだ。ルビー、パール、モニカ、ユーナもその考えと一致したから、このように集まっているのだろう。
「ありがとう。生き延びられるように幸運を祈ってるよ」
「うん。ありがと」
次に声を掛けたのはビートが率いる集団。
「ビート君、おはよう」
「おっす! おはようノア!」
ビート自身は明るく振る舞ってこちらに挨拶を返してくれたが、やはり周囲にいるパニッシュたちは露骨に嫌な顔を浮かべながら警戒をしていた。
「少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「おー! いいぜ!」
「ビート君って救世主になりたいと思ってる?」
その質問に対して、ビートは指サインで親指を立てながら、
「勿論だ! 救世主になるために教皇候補のやつらを殺す!」
物騒な返答に似つかない笑顔でこちらに伝えてきた。この同盟を組んだのは正に教皇の候補生を全員殺すため。このようなことはあまり口に出したくはないが、本来あるべき同盟の姿だろう。
「そうか。事が上手く進むことを祈っている」
「おう、何かあったらまた声を掛けてくれよ!」
取り敢えず救世主として候補に入る二人とは、接触することに成功した。足早に自分の席へ戻ってきてみれば、既にルナが席に着いてぐったりとしている。
「やけに疲れてるな?」
「あの二人が結構クセの強い二人でさ~」
ルナは教皇側の二つの同盟と接触した際のことをこう話す。
「アウラちゃん~。ちょっといいかな~?」
「あら? 確かあなたはルナさんだったかしら?」
まず第一の同盟、アウラが率いる集団と接触をした。メンバーの反応はどこも一緒のようで、少しだけ睨まれただとか。
「アウラちゃんって教皇の座を目指してるの~?」
「ええ勿論。私は教皇の座に就き、世界を統べるためにここへ来たのよ」
「そうなんだ~」
アウラの率いる集団は教皇の座を狙うこのエデンの園では正統派な同盟。そこまでの話の中で何がクセの強かったかと聞いてみれば、
「
「あはは~、遠慮しておくよ~」
というように同盟内の誰かを殺せ、と遠回しに促してきた個所らしい。流石は教皇候補と言わざる負えない。
「ヴィルくん~。ちょっと話を聞かせて欲しいんだけど~」
「確か、ルナだったか。話とは何だ?」
次に声を掛けたのはヴィルタス率いる同盟。もう言わなくても分かると思うが、メンバーにはいつもの顔をされただとか。
「ヴィルくんって教皇になることを目指してるの~?」
「当たり前だ。俺は教皇になって。現ノ世界の連中を皆殺しにする」
「そ、そうなんだ。かなり現ノ世界を恨んでいるんだね~?」
「話はそれだけか? 用が無いならもういいだろ」
現ノ世界に関係する者を皆殺しにするための同盟。ルナが何故そこまで現ノ世界を恨んでいるのかを聞き出そうとしても、話を一方的に切られてしまったらしい。
「ああそうだ。お前、あのノアってやつと随分仲がいいんだな」
「うーん、そう見える~?」
「背後から刺されないようにすることだ。現ノ世界の連中はどんな卑劣な手を使うか分からない」
なんやかんやあって接触するにはしたが、ルナは教皇を目指す人物の性格の問題さにがっかりとしてしまった。だからこうやってぐったりとしているのだ。
「さりげなく俺の事を警戒しているんだな」
「それもそうなるよ~。だってこのZクラスで教皇と救世主で話しているのは私たちぐらいだからね~?」
「リベロとヘイズも仲がいいんじゃないか。人前では話していないものの、あれだけ喧嘩できる仲だろ」
リベロは椅子に座ってゲーム機で遊んでおり、ヘイズはジュエルペイを眺めながら何か考え事をしているようにも見える。二人とも同盟には所属できていないためか、クラスの生徒と会話を交わしたりもしていない。
(レインも、同盟なんて組んでいないよな)
典型的な一匹狼タイプの彼女も同盟には入っていないだろう。このZクラスには救世主に五人、教皇に五人の割合で同盟を組めていない生徒がいる。同盟システムを使用している者と使用していない者。その心の余裕の差は一目瞭然だ。
(同盟システム。この機能が一体どう転ぶのやら)
ジュエルペイの画面をタッチして同盟システムの概要を確認していれば、
「はーい。全員席に着いてー」
ウィッチの声と共に授業開始の鐘が校舎内に響き渡った。
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