第4話 地球

 ソラは例のポーズを取り、と交信していた。

『ーーか。調査は進んでいるか』

『滞りなく』

『それで、お前の結論は』

 ソラは眉間にしわを寄せた。

『攻めるべきではないでしょう』

『ほう、その理由を聞こうか』

 彼は大きく息を一度吸い込むと、言葉を選びつつ吐き出した。人間は非合理的かつ非効率的な独特の判断基準を持っており、扱うのが非常に難しい。思い通りにならないとすぐに気が立ち手に負えない。つまり、感情の起伏も激しく従えるのも困難だ。また、虚構を与えることで人間を支配することはできるが、現実と矛盾に気がついた途端反旗を翻す。哲学という厄介ながあるからだ。結論としては、この地を支配しても特に我々の利益にはなり得ないだろう、と締め括った。

 黙って聞いていた相手は暫しの間があり、『それでは、それ相応のデータを提出しろ。それを持ってお前の結論を採用する』と言って交信が途絶えた。


 環はいつものように起床し、朝食を準備し始めた。ソラはパンを齧ってはいるものの、窓の外を飛び回っているカラスを見てぼんやりとしている。心配になった彼女は彼の前に淹れ直した珈琲を置きつつ声を掛ける。

「ソラ、どうしたの」

「……え?あ、いや」

 歯切れの悪い返事に、訝しげな顔をする環。そんな彼女の表情にソラは戸惑い、目の前に置かれた湯気が立ち上っている珈琲を一気に飲み干した。そして、パンも口に放り込んだかと思うと、食器類を持って立ち上がった。環の背後を通ってそのままそれを台所へ返し、再び環の背後を通り過ぎようとした。しかし、その足音がピタリと彼女のすぐそばで止まった。

 様子がおかしい、そう思い振り返ろうとした瞬間、ソラが椅子ごと環を抱きしめた。環が驚きで硬直していると、ソラは彼女の肩口に額を押さえつけながら言った。

「僕は宇宙からの特派員なんだ」

「うん」

「それで、任務が終わったんだ」

「うん」

「それで……帰還命令が下ったんだ」

 環は何も言えなかった。いつかこんな日が来ると思っていた。だが、ソラの言葉を聞いて涙が溢れ出たのが環の答えだった。感情は抑えることができない。人間は非合理的かつ非効率的な独特の判断基準を持っているからか。

「環に触れて決心がついたよ」

 ソラはそう言って、パッと彼女の体から離れた。そして、上着を羽織り公園に行ってくると行って出掛けて行った。環は放心状態だった。

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