第2話 許可

 呆気に取られていた環だったが、すぐに我に返った。

「本当にソラが宇宙人だったとして、この頭の中にガンガン響いてくる声はそのせいなの」

『テレパシーです。まだこの地球の生物には存在しないかもしれない』

「あの。この怪しげな術、頭痛くなるのでやめて欲しいんだけど」

 ソラは少し困った顔をした。

『そうすると、意思疎通が取れませんが』

「郷に入れば郷に従え。日本語を習得するのよ」

『そんな非効率的なことに何の意味が……』

「文句があるなら出てってくれても構わないのよ」

 環が玄関を指しながら言うと、ソラは観念したようだった。

「言葉は私が教えるから。ね?さあ、ご飯ご飯〜〜。昨日作った肉じゃがあるから、それと味噌汁と〜〜」


 彼女はまた鼻歌を歌いながら、リビングの方へ行った。ソラは言語を自動的に変換する技術を使っており、環が何を言っているのかは理解していた。暫くすると、辺りに良い匂いが立ち込めた。

「こ、コレはな、な」

「何」

「なにですカ」

 ソラが一生懸命日本語を話そうとしているのを環は喜ばしく思いながら、夕食を机の上に並べた。と言っても、一人暮らし用なのでとても小さいものだ。二人分のご飯を並べると溢れんばかりである。

「いただきます」

「いたできまス」

「いた、だ、きます」

「いただきまス」

 二人はこうして、日本語を教え、学びながらご飯を食べたのだった。


「しばらく、ここ、置いてほしい、でス」

 ソラが食べ終わった茶碗を台所へ運びながら言った。環は運ばれてきた食器を洗っている。

「しばらくってどのくらいなの」

「わかりません」

「うーん、一人暮らしで契約してるからバレたらマズいんだけど……」

 そう言って、食器からふとソラに視線をやると、捨てられた子犬のような瞳で環を見つめていた。それには思わず、環もグッと唸った。

「わかったわかった!そんな目で見ないで。しばらく置いてあげるから。でも、食費とか諸々は納めてよね?働き口見つかってからでいいけど」

「ありがとうございまス!!」

 ソラはそう言って、環を強く抱きしめた。男性経験がない彼女は酷く動揺し、顔まで真っ赤になった。

「どうしたんですカ」

「な、何でもない」

 環は顔を隠すように外方を向くと、先程よりも執拗に皿を洗い始めたのだった。



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