企画書 熱闘ラノベ道

山本弘

第1話 

小説企画

『熱闘ラノベ道』(仮題)ver.4

山本弘

2014.2.16



・登場人物名などはすべて仮のものです。

・ストーリーや設定は変更される場合があります。


【概要】


 才能ある若手作家が集い、活気あふれるライトノベル業界。その世界を舞台にした、タイトル通りの熱い人間群像。世代も作品傾向も異なる五人のライトノベル作家が、意地と誇りをかけてバトルを展開する。同時発売される五冊の小説から、読者投票によって一位に選ばれるのは誰か?


【登場人物】(年齢順)


 年齢は物語開始時点(二〇一四年一月を想定)のもの。


・焼津俊文

 一九六〇年生まれ、五三歳。一四歳で『ヤマト』に、一九歳で『ガンダム』にハマった世代。

 デビューして二〇年。多くのヒットを飛ばし、アニメ化されたことも何度もあるベテラン作家。年収は一億円を超えたこともある。得意とするジャンルは異世界ファンタジー。現在は『ドルーギア大陸』シリーズを書いている。

 最近、自分の作品のパワーが落ちていることを自覚しており、自らを鼓舞するためにバトルロイヤルを提案する。

 口調は傲慢だが、内心では後輩作家たちの実力を評価している。


・田端平四郎

 一九七二年生まれ、四一歳。高校時代、『妖精作戦』『ARIEL』でライトノベルの魅力に目覚め、そこから趣味はSFに移った。

 デビュー七年目。サラリーマン生活の傍ら、小説を書いている。妻子あり。小学五年生の娘も、すでにライトノベルにハマっている。

 その作品は宇宙を舞台にしたSFものが主流。作品数は少ないが、根強いファンのいるタイプの作家。

 金をためて娘を私立の中学に入れたいと望んでおり、そのためにはもっと売れなくてはならないと、バトルロイヤル参加を決意する。

 年季の入ったSFマニア。普段は穏やかな口調だが、SFの話になると熱くなる。その知識を活用して、譲たちの作品の設定に関して様々なアドバイスをする。


・霞目ジンキ

 一九八一年生まれ、三二歳。本人いわく「『エヴァンゲリオン』の初放映時はシンジと同い年だった」。

 デビュー四年目。それ以前はニートだった。

 得意とするジャンルはシュールで破壊的なコメディ。自分を世界一不幸な人間だと思いこんでおり、その強烈なコンプレックスを小説の形で昇華している。常に厭世的で、他人を嘲笑するような言動を取る。

 収入とプライドのために小説を書いている。本が売れなくなってニートに逆戻りすることを恐れており、このバトルロイヤルで知名度を上げようと考えている。しかし、譲たちと交流するうち、しだいに心境が変化してゆく。


・桶川譲

 一九九二年生まれ、二〇歳。大学生。『涼宮ハルヒの憂鬱』でライトノベルの魅力に目覚めた世代。

 前年にデビューしたばかり。デビュー作は軽妙なラブコメ。

 四人の挑戦者の中で最も焼津を敬愛しており、彼と同じ土俵で戦いたくて、バトルロイヤル参加を決意する。知識でも経験でも筆力でも他の参加者に劣っていることを自覚しており、何とかその差を埋めようと奮闘する。

 美少年ではあるが、内気なオタクであるため、友人は少ない。その一方、小説に関しては激しい情熱を秘めている。


・大上修羅

 一九九六年生まれ。こんなペンネームだが、一七歳の女子高生。本名は決して明かさない。譲と同時期にデビューしたが、すでに人気シリーズ『ラルゴニア戦記』をスタートさせている。

 得意とするジャンルは、重厚な設定と男勝りの迫力ある戦闘シーンが売りの本格異世界ファンタジー。だが、バトルロイヤルではあえてそれを封印する。

 学校では無口で目立たない存在で、いじめられた経験もある。譲たちと話す時には不自然に陽気な口調になり、自分のことを「ボク」と言い、語尾に「××っすよ」とつけたりする。わざとらしい演技で自分のキャラクターを創っているのだ。軽薄な口調だが、重いトラウマを抱えた少女。

 来年は大学受験だが、受験勉強をさぼって小説を執筆しているため、両親に快く思われていない。


【あらすじ】


 桶川譲は二〇歳。ライトノベル作家志望の少年である。紅葉書房の学園小説大賞に応募した小説が優秀賞に選ばれて出版され、念願のプロデビューを果たす。

 翌年の一月末。紅葉書房の新春謝恩パーティに出席した譲は、同じ紅葉書房のファンタジー小説大賞を受賞した大神修羅に出会う。骨太のバトル・ファンタジーという作風と、そのペンネームに反して、修羅はまだ高校生の少女だった。

「桶川さんの作品、ボク、感心しちゃったっすよ」

 などと言う修羅。おかしな口調に面食らう譲。

 パーティでは抽選会も行なわれていた。譲は幸運にも豪華ホテル・ペア宿泊券が当たるが、いっしょに行く相手がいなくて落胆する。


 会場には、大物ライトノベル作家の焼津俊文も来ていた。デビューして二〇年、この業界に君臨してきた大ベテランだ。譲は小さい頃に焼津の小説を読んだのがきっかけで、小説家を目指すようになったのだ。

 あこがれの先輩作家を前にして、緊張する譲。しかし、修羅はいきなりこんな挑戦的なことを言い出す。

「ボク、小学校の頃から焼津先生のファンだったっす。でも、最近の先生の作品には、昔のような覇気が感じられねえっす。正直、失望してるっす」

 顔を歪める焼津。慌てて割って入る編集者。


 パーティの後の二次会の席で、譲と修羅、それに同じくライトノベル作家の霞目ジンキと田端平四郎がテーブルを囲んで歓談する。

 修羅はさっきの発言の真意を語る。彼女は本当に焼津のファンだった。それゆえ、最近の彼がマンネリ化した長いシリーズものをだらだら続けるだけで、大きなヒットを出していないことが悔しくてならなかった。それで焼津先生に発憤してもらおうと、あえてあんなことを言った。先生のためを思ってのことだった……と言うのだ。

 しかし、先輩作家にあんな口を利いて、この業界から干されたらどうする?……と心配する譲たち。

 そこに酔った焼津が現われる。

「俺はお前たちヒヨッコに同情されるほど落ちぶれちゃいない。俺の心配をする前に自分たちの心配をしろ。この入れ替わりの激しいラノベ業界で、あと何年、生き残れるかをな」

「俺はもう五二だ。しかし、言っておくが、お前たちに道を譲る気は毛頭ない。俺はまだまだ書き続ける。いくらでも追ってこい。だが、追ってくる奴は実力で蹴落とす!」

 焼津は「お前らを叩き潰してやる」と宣言し、ある勝負を提案する。

 年末に発売される五冊の文庫。その中からどれが一番面白かったかを読者に投票してもらい、中からベストワンを選ぼうというのだ。投票権があるのは、五冊すべてを読んだ者のみ。本のオビには応募券をつけ、それを五枚集めると、プレゼントに応募できることにする。

 有利不利が出ないよう、シリーズものの一編は不可。読み切り作品で勝負する。最も多くの票を集めた者が勝者だ。

 作家同士の名誉をかけたバトルロイヤル。

「どうだ、受けて立つ者はいるか!?」

 その挑戦に、「受けます」と言って一番に立ち上がったのは修羅だった。ジンキと平四郎も立ち上がる。譲も成り行きで参加することになった。

「ハンデをつけてやってもいいぞ」

 と言い放つ焼津に、修羅は「全員、異世界ファンタジーは禁止」というルールを提示する。驚く譲たち。異世界ファンタジーは確かに焼津の得意分野だが、修羅の得意分野でもある。あえて自分にとって不利な条件で戦いに挑もうと言うのだ。その裏には、焼津が新しいジャンルに挑戦するのを見たいという修羅の想いがあった。

 その提案に、編集部も乗り気になった。売り上げをアップする絶好のイベントだ。人気をあおるため、隔月小説誌『ザ・ブローアップ』に、出版予定作品の第一章のみを順次掲載してゆくことになる。

 六月末発売の八月号に焼津、八月末発売の一〇月号に平四郎とジンキ、一〇月末発売の一二月号に譲と修羅という順番だ。そして一二月号の発売直後、五人の作品が店頭に並ぶことになる。


 しかし、ベテランの焼津を倒すのはやはり難しい。譲、修羅、平四郎の三人は連絡を取り合い、月に一度、平四郎の家に集まって作戦会議を開くことにした。年末の決戦に向けて、お互いのプロットや、これまでに書いた部分を見せ合い、叩き合って、より優れた作品にしようというのだ。

 容赦ない批判が飛び交う熱い会議。彼らはその中で、対立したり、感心したり、学び合ったりしながら、しだいに結束を深めてゆく。


 さらに、「群れるのは嫌いだ」と言って会議への参加を拒んでいたジンキも、途中から参加するようになる。彼はバトルロイヤルに勝つため、他の参加者の手の内を探ろうと考えていたのだ。

 譲の提出したプロット『バースト』は、ジンキから批判を受ける。最後に世界を救うためにヒロインが犠牲になるのが納得いかない。主要人物の死で読者を感動させるのは、お涙ちょうだいの安直な手法だと言うのだ。反論する譲。議論を交わすうち、だんだんプロットが改良されてゆく。

 一方ジンキも、他の三人と熱い激論を戦わせるうち、自分の考えが浅はかだったことを悟る。彼は姑息な手段で勝つことを考えず、正々堂々と全力を出しきろうと決意する。

 打倒すべき敵は焼津――しかし、他の三人もまた、戦わねばならないライバルなのだ。


 譲と修羅は親しくなり、デートするようになる。二人ともオタクであるため、話の合う友人が周囲にいない。まして異性とつき合うのも初めて。生まれて初めてのデートに浮かれる二人。


 六月末、焼津の新作長編『凶眼の真羽』の第一章が『ザ・ブローアップ』に掲載される。そのレベルの高さに衝撃を受ける四人。

 焼津は本気で自分たちを潰しにかかっている。ただ一位になるだけでなく、圧倒的大差をつけて勝つ気でいる。あらためて焼津の実力を思い知らされ、萎縮し、とまどう四人。

 中でも打ちのめされたのは譲だった。『凶眼の真羽』の設定は、偶然にも、譲が構想中の作品『バースト』と傾向がかぶっているのだ。似たような二作品を読まされた読者は、両者を比較するに決まっている。今からでも違うプロットを考えるべきか?


 そんな中、譲と修羅の関係を知ったジンキが、二人を批判する。「リア充には本当に面白い小説は書けない」というのが彼の持論だった。

「俺は恋人はいない。友人もいないし、金もない。新人賞に入選するまではニートだった。そして今でも童貞だ。俺はそんな自分のみじめな境遇を、コンプレックスをバネに、小説を書いてきた。俺の願望を、恨みを、あせりを、憤りを、小説の形で叩きつけてきた。言ってみれば、不幸は俺の燃料だ。だから幸福なお前たちは、絶対に俺に勝てない!」

 譲は「そんなことはない」と反論するが、修羅は動揺していた。自分は小説に一生を捧げると誓ったはずだ。大好きなラノベ業界に生きることが夢だった。今度のバトルロイヤルは、この業界で生き残れるかどうかの試練。それを前にして、恋になんかうつつを抜かしていていいのか。


 譲も迷っていた。どうすれば票を集められるのか。どうすれば人気を取れるのか。そもそも、読者はラノベに何を求めているのか……?

 最近の流行りの傾向を分析した譲は、それらの要素をたっぷり盛りこんで、『バースト』とは別のプロットを書く。これなら絶対に当たるはずと。

 だが、対策会議でそれを提出したところ、修羅たちからさんざんに叩かれる。読者を意識するあまり、人気作品の亜流のような、オリジナリティに乏しい話になっていたからだ。

「あなたはそんなにまでして読者に媚びたいんっすか?」

 と軽蔑する修羅。

 デートの最中にも小説観の違いで議論になり、ついに二人はけんかしてしまう。

 その後、修羅から別れを告げる電話がかかってくる。今は小説に専念したい。恋などしている暇がないと。


 譲を迷いから救ったのは、打ち合わせのために行った編集部で偶然に出会った焼津のアドバイスだった。

 彼は三〇代でデビューするまでに、様々な苦労があったと語る。それでも小説家になるために努力してきたのだと。

「君はラノベに何を求めている? アニメ化されて儲かることか? それとも読者からの賞賛の声か? あるいは勝負を勝ち抜いて得る栄誉か?」

「売れることは大切だ。読者を喜ばせることも大切だ。だが、それらはすべて二次的なものだ」

「小説家にとって最も大きな報酬は、金でも栄誉でもない。確かに傑作を書き上げたという満足感だ」

 それで譲の迷いはふっきれる。彼は最初に予定していた『バースト』でバトルロイヤルに臨むことを決意する。

 焼津に勝つことばかり考えていたのが間違いだった。自分は、自分の好きな小説を力いっぱい書けば良かったのだ。

 譲は書く。主人公とともに冒険し、主人公とともにヒロインを愛する。

 物語のクライマックスで、譲は当初の予定通り、ヒロインを死なせることにする。これが自分にとっての正しい結末だ。読者の期待に応えてヒロインを生き残らせたら、受けはいいかもしれないが、テーマとしては破綻する。

 小説家にとって大切なのは、良い作品を書くことだ。それを貫くためには、鬼にならねばならない時もある。

 譲はヒロインが死ぬ場面を書きながら、主人公に感情移入するあまり、号泣してしまう。


 修羅も同様に苦しんでいた。譲と別れたことを後悔していた。

 彼女はその苦しみを小説にぶつける。ヒロインの姿に自分を重ね合わせ、胸に渦巻く思いをヒロインに代弁させる。


 九月。ジンキと平四郎も、それぞれ悩んだ末に作品を書き上げ、入校を終えた。ほっとする四人。

 譲はあらためて修羅にクリスマス・イヴの夜のデートを申しこむ。一月のパーティの抽選で当てた豪華ホテル・ペア宿泊券が、まだ残っているからと。

 恋が破局を迎えることを恐れる修羅に、譲は言う。

「君の小説の登場人物はみんな勇敢だろ。なのに、君は傷つくのがこわいのか」

「将来、どうなるかなんて分からない。この恋も破綻を迎えるのかもしれない。でも、傷ついたってかまわないじゃないか。僕たちは小説家だ。小説家にとって無駄な体験なんてものはない。どんな体験も将来の作品への肥やしになる。この恋から生まれてくる作品だって、あるかもしれないじゃないか」


 一一月初旬。発売日の数日前、彼らはブローアップ文庫編集部を訪れ、発売予定の焼津の作品『凶眼の真羽』の見本をいっしょに読む。

「やった! 第二章ではテンション下がってる」

「でも、次の章への引きがうまい」

「かーっ、ちくしょう! ここの描写がぞくぞく来るぜ」

「何でこの人、ここまで人間心理に踏みこめるんだ。やっぱりキャリアの差か」

「おいおいおい、何だよこのバイオレンス・シーン。ここまでグロいの、ラノベで書いていいの? 反則じゃん」

「ラノベに反則なんてものはないっす。焼津先生は本気を出してるだけっす」

 批評しながら読み進むうち、彼らはどんどん寡黙になっていった。最後の数章は完全に勝負を忘れて一読者となり、物語にのめりこんでいた。

 読み終わった時、彼らは心地よい脱力感に包まれていた。もう勝敗なんかどうでも良くなっていた。

 自分たちは全力で自分の作品を書き上げた。焼津も力を出しきった。ただそれだけだ。


 クリスマス・イヴ。ホテルに泊まった譲と修羅は緊張していた。

 修羅はやはり「……っす」という口調が抜けない。せめて二人きりの時ぐらいは普通に喋ってくれ、と言う譲。しかし、修羅はそれを拒否する。

「譲さんは分かってないっす。これは本当のボクっす」

 彼女は小中学校時代のつらい体験を語る。内気な性格だったため、学校ではよくいじめに遭った。両親は冷たかった。暗い子供時代、彼女は空想に逃避していた。この世界は自分がいるべき世界ではないし、ここにいる自分は本当の自分ではない。ライトノベルの主人公のように、いつか平凡な日常から抜け出し、こんな世界からおさらばして、本当の自分に生まれ変わるのだと。

「ボクを助けにきてくれる王子様なんていなかったっす。だからボクは、自力であの灰色の世界から這い上がってきたっす。努力して、努力して、努力して、自分を変えていったんす!」

「だから譲さんには本当のボクを見てほしいっす! 陰気で内気でのろまで泣き虫で何もできないいじめられっ子の畑中昭子なんかじゃない、この大上修羅を!」

 その言葉に打たれる譲。彼は「愛してるよ、修羅」とささやき、彼女を抱き締めるのだった。


 一か月後、新春謝恩パーティの席で、アンケートの結果が発表される。

 結果は予想通り、焼津の『凶眼の真羽』が一位。しかし、力を出し切った譲たちに悔いはない。

 ただ一人、結果に満足できなかったのは焼津だった。二位以下を大きく引き離すつもりが、実際は僅差で、ほとんどドングリの背比べだったからだ。

「こんなものはイラストによる誤差だ」

 優勝の弁を求められ、焼津は言う。『凶眼の真羽』についたイラストレーターは、人気、実力ともに、譲たちの本のイラストレーターより上回っている。読者投票にはイラストの魅力も影響される。それを考慮に入れると、自分は負けていた可能性もあったと。

「俺は納得いかない。だから提案する。今年もまたこれをやろう。今度こそ、お前たちを大差で引き離して勝ってやる。どうだ、やる気はあるか!?」

 いっせいに腕を振り上げ、「おーっ!」と叫ぶ譲たち。彼らはまた新たなバトルに情熱を燃やすのだった。



【バトルロイヤル参加作品】


 作中では五人の作者がそれぞれ長編ライトノベルを書く。物語の中で、その内容は断片的に語られる。譲たち四人の挑戦者の作品は、最初は漠然とした構想のみだが、議論を重ねることで完成形に近づいてゆく。


●焼津俊文『凶眼の真羽』

 一六歳の不良少女・真羽は、見つめるだけで他人や自分の肉体を変形させるという能力を持っている。その力は、彼女の母親から受け継いだものだ。真羽の母は日本を陰で支配する魔術結社の一員だったが、一七年前に脱走し、真羽を産んだのだ。以来、真羽はその能力をひた隠しにして生きてきた。

 ある夜、彼女の恋人の健彦が、バイクの事故で少女・律子に大怪我を負わせてしまった。歩けなくなった律子を見舞った健彦は、一生をかけてあやまちを償うと誓う。その誠実さに打たれ、しだいに健彦に惹かれる律子。

 真羽は健彦を重荷から解放するため、その能力を使い、律子の足を再生した。現代医学では考えられない奇跡に驚く医師たち。だが、その行為は魔術結社の注意を惹いてしまう。

 結社は真羽を手に入れるため、彼女の母や、健彦、律子らに魔手を伸ばしてきた。様々な魔力を有する怪人が襲ってくる。母は真羽を守るために壮絶な死を遂げる。

 真羽は母の仇を討つため、そして愛する健彦を守るために、ただ一人、結社に全面戦争を挑む。健彦の心がすでに律子に傾いていることを知りながら……。


●田端平四郎『なぎさジャンクション』

 夏休み、女子高生の汀は両親に反発して家出する。たどり着いたのは山口にある祖父・宇吉郎の家。宇吉郎は引退した物理学者で、自宅で新しい機械を研究していた。それは空間から無限にエネルギーを取り出せる装置だった。

 その装置の暴走により、空間の歪みが起き、汀はパラレルワールドに飛ばされてしまう。その世界では一〇年前に第三次世界大戦が起きており、日本の社会体制も崩壊、盗賊団やギャングがはびこる無法の国と化していた。

 そこで汀は、その世界の自分――ナギサと出会う。幼い頃に両親と死別し、無法の大地で生き抜いてきたナギサは、汀と顔は同じでも、似ても似つかぬ乱暴な性格に育っていた。

 装置が暴走した際、汀といっしょに部品の一部もこの世界に飛ばされてきていた。宇吉郎ならそれを使って、元の世界に戻る装置を作ってくれるかもしれない。だが、この世界では宇吉郎は山口ではなく東京にいるのだ。

 ナギサと汀は装置の部品を持って、ナギサの運転するバイクで東京に向かう。荒廃した道路。行く手を阻む悪党の群れ。

 攻撃的で口が悪く、男顔負けの戦闘力を持つナギサと、引っ込み思案で争いごとの大嫌いな汀。旅の途中、二人は性格の違いから何度もけんかになる。だが、それでもしだいに心を通わせてゆくのだった。


●霞目ジンキ『こんな終わりもいいじゃない』

 二〇二九年。宇宙規模の異変「第二相転移」により、地球は一七〇年後に破壊されることが判明した。太陽も惑星もすべて破壊されるため、どこにも逃げ場はない。しかし、世界にパニックは起きなかった。遠い先のことなので、人々には実感が湧かなかったのだ。

 それから一七〇年後の二一九九年。いよいよ滅亡の日が迫っていた。その時代の人間は、幼い頃からずっと、世界は二一九九年に終わることを知っており、それを当たり前のこととして受け入れていた。

 破滅は一瞬で訪れる。痛みさえ感じる暇はない。だから恐れる必要はない――多くの人はそう考え、穏やかに最後の日々を暮らしていた。

 一五歳のリュウイチもその一人。ガールフレンドのカナと、地球最後の一週間をどうやって過ごそうかと頭がいっぱいだ。

 しかし、そんな平和な世界でも、やはり死を恐れ、みっともなくあがく人間がいた。彼らは徒党を組み、「リーパーズ」と名乗って各地の集落を襲い、殺人やレイプなどの残酷な行為を楽しんでいた。

 リュウイチの友人カンジは、最後の日にいっしょにいてくれる女の子がいなかった。彼は自暴自棄に陥り、リーパーズに身を投じようとする。

「どうせみんな死ぬんだ。人殺しをしたって、女を犯したって、罰せられることはないんだから、何をやってもいいじゃないか」

 リュウイチとカナは、カンジが悪に走るのを止めようとする。最後の日を血で汚したくないから。誰もが笑って穏やかに終末を迎えられるのが理想だからだ。だが、リュウイチたちの懸命の説得も、カンジには届かない……。


●桶川譲『バースト―太陽からの使者―』

 ある日、太陽から放出された火の玉が日本に落下し、少女・悠美を焼き殺す。それはプラズマで構成された不定形の生命体だった。生命体は悠美の分子構造を再現し、肉体はもちろん記憶までコピーする。

 悠美に擬態して活動する生命体。彼女の行動がおかしいことに気づいたクラスメートの充は、その謎に迫る。

 実は太陽は知性を持つ巨大なプラズマ生命体だった。惑星上に自分とは異なる生命が存在することを知った太陽は、それを調べるため、分身を地球に送りこんできたのだ。分身は小さいが、その力がすべて解放されれば、地球を焼き尽くすほどのエネルギーを秘めている。もし地球上の生命が邪悪なものであるなら、容赦なく絶滅させる――それが太陽の意思だった。

 悠美の秘密に気づいたアメリカ軍は、プラズマ生命体が人類にとって危険な存在であると判断し、彼女を捕獲しようとする。成り行き上、悠美を守るために奔走する充。

 軍の攻撃を受けるうち、悠美の中のプラズマ生命体は、人類を邪悪な存在と考えて抹殺を検討しはじめる。その一方で、生前の悠美の記憶が残っており、充に好意を抱くようになる。

 高圧線に触れた拍子に、プラズマ生命体は二人の悠美に分裂する。かたや人類滅亡を企む冷酷な悠美。その内部に封じられていた莫大なエネルギーを解放し、近づく戦車や戦闘ヘリを次々に破壊してゆく。放射されるエネルギー量は刻々と増加し、大都市を滅ぼす。このままでは世界が焼き尽くされてしまう。

 もう一人の悠美――充を愛してしまった悠美は、世界を救うため、自分の分身に戦いを挑む。二人の悠美は炎の塊となって激突し、壮絶な戦いを繰り広げる。


●大上修羅『ロスト・チルドレン』

 内気で無口で目立たない中学生の少女・チカは、ある日、この世界から存在を抹消されてしまう。

 両親にはチカの存在が見えなくなる。それどころか、自分たちに子供がいたことすら忘れてしまう。クラスメートや教師や近所の人たちも同じ。みんなチカの存在を認識できなくなる。

 そこに全身が青い謎の男たちが現われ、チカを追い回しはじめる。恐怖に襲われて街を逃げ回るチカ。「助けて! 誰か気づいて!」チカの必死の叫びは誰にも聞こえない。人々には彼女の姿はもちろん、青い男たちの姿も見えないのだ。

 そこに祐樹という少年が現われ、チカを助けて秘密の隠れ家に案内する。そこにはチカや祐樹のように存在を抹消された子供が大勢いた。親兄弟や友人たちから忘れられ、戸籍や写真などの証拠すら消されてしまった子供たち。チカもその仲間入りをする。

 彼らは身を寄せ合い、スーパーやコンビニから食料を盗んで、必死に生き延びていた。だが、一人、また一人、青い男に捕らえられてどこかへ連行されてゆく。

 ついに祐樹までもが捕らわれた。チカは彼を救うため、そして青い男たちの謎を解くため、彼らの根拠地に潜入する。

 そこで彼女が知ったのは、この世界は大きな「物語」であるという事実。その物語は大規模な編集作業の最中であり、消しゴムで書き損じを消すように、「作者」は不要な部分を抹消しているのだ。まず子供を、次に大人を抹消してゆき、最終的に必要な人間だけを残すのである。

 自分たちの存在は世界にとって不要なのだと宣告され、衝撃を受けるチカたち。それでも彼らは黙って抹消されることを拒み、最後の瞬間まで抗うことを決意する。

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