協力者 3
「へぇ。案外身近にあるもんだな」
アパートに戻った竜達は、木田のノートパソコンに映し出された地図を確認していた。
マップに刺されているピンは、県内で数えても10箇所以上ある。
「場所だけはどこにあるのかわかってるんだ。ただ攻め込もうにも人数が少なくてな……」
木田は歯がゆそうに顔をしかめる。
「1人でやってるかと思ってました」
「流石に1人でこれだけの情報は集められないよ」
ソウの素直な疑問に、木田は苦笑して答える。
「そっちもグループで行動しているのか」
「あぁ、一応な。……そうだ、お前たちのことどこまで話していい?」
「そうだな……。素顔や年齢に関するものは無しにしてくれ。〈力の強い獣人に協力してもらえるかもしれない〉程度にしてくれ」
「わかった」
「あとこの地図なんだが……」
木田と心咲はとんとん話を進めてゆく。
途中から話に置いてかれた竜、柊里、猛禽兄弟は、地図を眺めて各々の気になる箇所を指さしながら過ごしていた。
やがてノートパソコンの地図のデータをアパートのパソコンへ移したところで、心咲が竜達の方を見ると、
『……すぅ……』
「仲良しじゃないか」
そう言った心咲は静かに目を細めて笑った。
胡座をかいて座った竜の背には抱きつくようにして柊里がのしかかり、左右はレイとソウがもたれかかっていた。竜の組んだ足の上には、いつの間にかナオが居座り毛づくろいしている。
3人とも眠っていて、竜は身動きが取れないようだった。
「気づいたら寝てたんよ……」
全方向ガッチリ固められた竜は困ったように笑う。
(どうやら俺は誤解していたのかもしれないな……)
木田はそんな竜達を見て、敵地のように過剰に警戒していた自分を反省した。
緊張がだいぶとけ、ぐーっと伸びる木田の視界の端に時計が目に入った。
それに気づいた心咲も時計に目をやる。
「3時か。だいぶ遅くなったな」
「そろそろ俺は帰るかな」
「あ、まじで?俺今動けんし心咲送ってったって」
「いいよ別に。車下にあるし」
「ああ言ってるし、下までは送らせてもらおうか」
「そうか、悪いな。んじゃ竜。またな」
心咲と木田は部屋を出ると、エレベーターから降りた時、ふと口を開いた。
「あ、場所がわかったからには早速いくつか潰してみようと思ってるんだが、なにか勝手に触らない方がいいこととかあるか?」
緩んだ意識に不意打ちであった。木田は『潰す』とあっさり口にした心咲に、それができるだけの実力を持っている竜達に、顔を僅かに引き攣らせた。
「好きにしてもらって構わないが……。あ、さっきも言ったが、地図のマップのピンの色あるだろ」
「赤が人身売買、青が薬物、黒が違法武器庫だっけか」
「あぁ。それなんだが、その中でお前達に勧めるってのも変かもしれないが、青と黒は手が出しやすいと思う。刑事がこんなことを言うのもなんだがお前達、人を殺し慣れてるだろ」
「まぁ、否定はしない」
心咲は肩をすくめて見せた。
「それについてとやかく言うつもりは無い。でだ、なぜ薬と武器庫の方を勧めるかってことだが、人質を取られずに気兼ねなく暴れまわれるだろう?」
「なるほどな」
「あと、人身売買のところはいつも必ず使われているとは限らないんだ。そんな頻度で誘拐やらをしていても目立つだけだからだろうな。人が出入りしているかどうかはこっちでアンテナ立てとくからその時電話する。
ただ……受け入れ先。今あのアパートの部屋を借りているって言ってたよな。そのうち足りなくなるんじゃないか?」
「あー、そっちはゆくゆくどうにかする」
心咲の頭の中では、どうやら解決案がいくつか浮かんでいるらしかった。
「そうか。あ、襲撃する時には予め連絡して欲しい。できれば同行しておきたいんだ」
「了解」
「じゃ、俺はもう行くぞ」
「あぁ。居眠りしないように気をつけて」
「おう。んじゃーな」
車を発進させた木田は、心咲が見えなくなると深く息を吐いた。
「居眠りだって?できるわけがない」
とんでもない奴らと出会った。
頭の中ではそのことでいっぱいだった。
竜と心咲。あの2人に目を向けられると、それだけで自分の命が彼らの手のひらにあるようにさえ感じた。
初めの、あの尋問が響いたのだろうか。
どちらにせよ、
「……疲れた……」
木田は気を取り直すと、妻と娘の待つ家路を急いだ。
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