協力者 2
「へぇ。じゃああんたもあの人身売買の事調べてんだ」
互いの目的が一致している事に気づいた竜達と木田は、まず情報の共有をした。
とは言ってもどちらも全てを話したわけでは無い。信用し合う必要最低限の内容程度だ。
その結果竜達が知り得たのは、出たとこ勝負も出来ていない自分達よりもずっと多くの情報を持っている事。
一方の木田は、竜と心咲が強い力を持つ獣人であることを知り得た。
情報によって取引現場や汚職者に気づけていても、武力をほとんど持たず手を出せないでいた木田は、竜達に協力を申し出る。
竜と心咲もまた、これ幸いと承諾した。
個々にゆっくりと歩みを進めていた歯車が噛み合い、加速する。
それが後に日本の空を轟かすことを、彼らは知る由もなかった。
●●●●
眼下を滑る黒い木々。人工の光が遠くで煌めいている。
俺は手に木田を掴んで、さっきまでいた森へ戻っていた。
話が纏まってから木田が今ある情報の一部をくれると言うので、木田の車を探しに来たのだ。
「ここらへんかな。あの橋の近くなんでしょ?」
「あぁ」
「つーかこんな真夜中の森に入って何がしたかったわけさ」
「この森を抜ければ向こうの町との近道なんだ。しかし驚いたな。まさか幻獣種だったとは。手とは別に羽が生えてきたんだから」
獣人の変身パターンは哺乳類、鳥類、爬虫類が確認されている。
学説やらの1つで聞いたことがあるのは、手足の本数が同じだから、だそうだ。
その考え方なら俺は背から第5、第6の腕が生えているわけだ。
獣人の変身を解くことによって翼も消えていくのだが、それで消えなければカイ○キーになってしまう。間違いなく目立つであろう。
そんなことを考えていると、背後からバサバサと慌ただしげに羽ばたく音が聞こえてきた。
「あ、忘れてた。ひまー、ソウー。どう、飛べてるー?」
「ダイジョーブ!なんで今まで飛ぼうとしなかったんだろう!風が気持ちーよ!」
「慣れたら楽しいですね!」
「よしよし。レイー。誰か落ちそうになったら鷲掴みにしてあげてねー」
「ウッス!」
実は木田との話が落ち着いた頃に、柊里と猛禽兄弟起きてきていたのだ。ひまは物音で気づいたらしいが、猛禽兄弟が目を覚ましたのは偶然だった。
そこで、俺達がいない間に練習させている飛行訓練の成果をついでに確認しようと連れてきているわけである。
心咲は留守番だ。
「木田。あれ?」
「あれだな」
車を見つけたので俺が先に着地し木田もどっかへやる。
「おーい!降りれるかー!?」
頭上を旋回する3匹に呼びかける。
着地は意外と難しいのだ。
「わかんなーい!あたしからいくねー!」
ソウとレイを宙に残して、柊里が降りてくる。
そして着地を……
「速くね!?」
俺への急降下。
「うわー!」
「スピード落とせ!前に向かってパタパタするんだ!」
「パタパタ……うわー!」
「あぁ、やべっ!」
バランスを崩した柊里きりもみ回転しながら落ちていく。
俺は、跳躍し空中で柊里を受け止めて勢いを殺すと、背から道路へ落ちた。鱗がアスファルトを削る。
腕を解くと、胸に抱いた柊里を覗き込んだ。
「あー怖かったー」
ケロリとしていた。
「びっくりするわ!減速しろよ!」
「したよ!しようとしたよ!失敗したけど!」
「はぁ……。今までどうやって着地してたんだよ」
「竹藪に突進してた」
「お前なぁ……」
帰ったらこいつの着地の練習をしなければならない。
「竜さーん!いきますねー!」
次はソウが着地するようだ。
ゆったりとした降下からじょじょ減速していき、地につく前に3度羽ばたいて着地した。
膝を着いてしまっていたが、かなり良かったと思う。
「上手いな。安定していたと思うぞ。ひまより」
「ふんっ」
柊里が後ろからタックルしてくるが気にしない。
「でもひまちゃんは翼が細いから、僕みたいに滑空しながら速度を落とすのは難しいんじゃないかなって」
「ソウくん…!」
優しいソウは柊里のフォローをする。
「いーや練習不足ッスね。毎回竹に突っ込んで行きますもん。直で地面に行ったの見たことないッス」
「レーイー!」
天然か、レイは日頃の練習内容をあっさりばらした。
「ま、要練習だな」
あんまり機嫌を悪くされるのもあれなのでウリウリ頭を撫でておく。
「……でも、着地って難しくない?怖いし」
「うーんそうだな。じゃあ今度天然の芝生にでも行くか。芝生だと転んでも痛くないって聞くし」
話していると、視界の端でビクビクしている木田に気づく。
「この姿が怖いのか?さっきまで一緒に飛んでただろうに」
「違う。お前の体がでかすぎるんだよ。竜、お前めちゃくちゃ目立つじゃないか」
「あぁ、そゆこと」
俺は上半身を人の姿に戻し、下半身は獣の姿のまま小さくしバランスを整えた。
「この格好、俺と心咲は半獣って言ってるんだけど、何かと便利だしできるようになっといた方がいいよ」
「へー、いいねそれ!やってみる!」
柊里がさっそく挑戦するようだ。
「へーんしん!……わわっ」
「おっと」
柊里が変身の度合いを失敗し全裸になりかけたので、翼で覆って隠してやる。
まぁ、俺の翼で挟むようにしているので、角度的に見えてしまっているのだが。
「エッチ」
「はいはい」
おとなしく目を瞑る。
「……終わったよ」
「ん」
翼を開いて柊里を顕にする。
「おぉー」
思わず声が出る。
爪先から膝までは鳥の足、そこから胸までは羽毛で覆われていて、背や肩から上は人の姿だった。人の姿の肩が華奢な色気を感じさせられる。
「わっ、ひまちゃんきれいだね!ドレスみたい!」
「でしょー!」
柊里は腰の燕尾が気に入ってるのか、くるくる回って尾翼が風を鳴らす。
「猛禽兄弟は……なんだ、面白みが無い」
「いやいや、竜さんと同じじゃないっすか」
猛禽兄弟は、どちらも腰から上を人の姿にしていた。
「ソウは着飾ると思ったのに」
「この鷹みたいな体だとひまちゃんみたいに映えなくって……」
考えてはいたらしい。
「でもでも、ちょっとこっち来て!」
そう言って、柊里が猛禽兄弟の手を月明かりのスポットライトへ引いていく。
そして2人を背中合わせで立たせると、腕やら取っては持ち上げて、ポーズを取らせる。
そしてちょこちょこ俺の後ろに回り込むと顔の前に手を回し、長方形を作って2人を収めた。
「どう、良くない?」
「そうだな。『月下、半裸の変態』」
「させたのひまッスよ!」
「あー!動かないで!」
顔を真っ赤にさせた猛禽兄弟は、羽毛で上半身を覆って、袖無しチョッキを着ているような格好となった。
「お、いいじゃん」
「あたしのおかげよ」
「よくもまぁ……」
レイは釈然としないようだが、格好で見ればさっきよりずっとおしゃれに見える。
「うお」
背後から強烈な光に照らされる。
その光源の車は俺の横で止まると、窓から木田が顔を覗かせた。
「俺は車でさっきのアパートまで行く。住所は○○○で合ってるか?」
「たぶん」
「たぶんってお前なぁ……」
呆れた顔をするも、すぐに席に座り直す木田。
「じゃあ、あっちで合流しよう」
「うい。あ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「
一瞬理解できずに首を傾げる木田だが、すぐに引き攣った苦笑を浮かべた。
「……別に逃げやしねぇよ」
「そ。ま、念には念をね」
「……先行ってるからな」
「ういー、気をつけてー」
赤い光が角に消えるまで見送って、くるりと振り返る。
「じゃ、夜の散歩もここまでにして、そろそろ帰ろうか」
「「「はーい」」」
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