一応学生

「なー良、心咲ー。お前ら最近付き合い悪くねぇ?」


 放課後、さっさと帰ろうとしていた俺達に声をかけてきたのは智也だった。


「ここのところ会うたびに言われてる気がするな」


「でもたしかに、しばらく智也遊んでなかったかも」


 中学生の頃は仕事を土日絞っていたため、平日は毎日のように遊んでいた。

 しかし高校に入学してからはナオ、ひま、レイ、ソウの面倒を見に早く帰っていたため、まったく遊んでいなかったのだ。智也の不満はそれだろう。


「でも智也、高校入ってからできた友達いるだろ。そいつらはいいのか?」


 心咲が問うとそれについても考えていたようで、最近つるんでるメンバーと一緒に遊ぼうと言うのだ。


 うーん、ひま達どうしよ……


 心咲はそんな俺の考えを見透したように「1日くらい大丈夫だろう。お前はどうしたいんだ」と、智也が聞き取り辛いよう、小声で言った。


 俺か。俺は……少し興味がある。

 春に入学してからというもの、今まで高校生らしいことがなにも出来ていない。せっかくなら学生らしい交友もしてみたいのだ。


「夜ご飯も食べてくん?」


「そーなると思う」


「わかった。行ってみる」


「良は決定だな!心咲はどーすんだよ」


「まぁ、行くよ」


「オケイ!じゃあ他の奴ら呼んでくるから校門で待っててな!」


「おー」


 俺の適当な返事に振り向きせず、智也は教室へ戻って行った。


「ひま達に連絡入れとかないと。

……あー、ナオに会いたくなってきた」


「早すぎ。もう少し子離れしろ」


 俺達はそんなことを話しながら、生徒の波に流されるように校門へ向かった。



●●●●



深川由香里ふかがわゆりかです〜」


藤沢ふじさわみるです!」


小川朱里おがわあかりです。よろしくね」


 俺達は今、近所のファミレスに来ていた。智也が連れてきたのは女子3人、男子1人だった。


 残った背の高い男の子が名乗っていない。


 心咲が視線を向けて促すと、


「あー、浅井陸あさいりくだ」


 居心地悪そうにボソッと呟いて済ませた。


 それもそのはず、女子3人の心咲を見る目が恐ろしいのだ。



 今更だが、心咲はモテる。

 俺も中学時代は学年に2,3人自分のことが好きな子の話しは聞いたが、心咲はその遥か上をいく。

 

 本人が名前を知らない女の子から好意を寄せられるのは当たり前、ファンクラブまであった。


 俺や智也をオカズに心咲がメインディッシュの小説をうっかり拾ってしまった日には、校舎裏で校長が焼いていた焼き芋の灰になってもらった。


 

 あぁ、思い出したら頭が痛くなってきた。


 とにかく、心咲はめちゃくちゃイケメンだ。しかも顔だけでなくスペックもイケメンで、今も合コンのような空気を出す女子達の質問攻めを上手に会話に繋いでいた。


 なるほど。女子がいるとこうゆう感じになるのか


 中学生の頃は俺、心咲、智也の3人でならファミレスに来ていたが、その時はゲームだったり男でしかしないような話ししかしなかったので、こういったシチュは初めてだった。









 


 10分はたった。女子3人は話し続け、心咲がそれに答える形が続いている。


 長い。もう帰っていいかな。ナオに会いたい。


 頬杖を解き顔を上げると、野郎2人と目が合った。


 まじまじと眺めていると、陸はいかにも野球部な感じがした。


「えーっと、陸?」


「あぁ、良だっけか。なんだ」


「野球?」


 日に焼けた肌に短く切られた髪を見た、偏見的かつ雑な質問だ。俺は心咲のようには話せないが、男同士だし問題ないだろう。


「よく言われるが陸上だな」


 彼は俺の不躾な問いに気を悪くした様子もなく、爽やかに笑って答えた。


「ふーん……ん?」


 ももを叩かれた。隣に座っている心咲だ。助けろということらしい。


 話しに加わってるんだったら舵取りしろよ。お前ならできる。とか思ったが、聞いていればどうやら女子の趣味の話しに受け身になってしまっているようで、切りづらいようだ。


 女子に押されっぱなしの心咲はめったに見れない。


 面白いのでしばらく観察していたら今度はつねってきた。それも、ももの皮膚の一部が変身しかけるくらい強い力でだ。


 痛くはないがそろそろ止めようか。後が怖い。


 すーはーすーはー、よし。


「そこのメニュー表取ってくれん?お腹減ってきて……」


「そうだね!須崎君どれにする?」


「ここのドリアおいしいんだよ〜」


「ピザだったら一緒に食べられるんじゃない?」


 お手上げである。


 その後ドリンクバーで席を立ったら、戻って来たとき心咲の左右は女子で埋まっていた。


 もう笑うしかない。



●●●●



 9時過ぎ、アパートに寄った俺達は疲れ果てていた。特に心咲が。


 扉を開くとひまが出迎えてくれる。


「あれ?今日来ないんじゃなかったっけ」


「そうだったんだけど、晩ごはん残ってない?実はあんまり食べれてなくて……」


「俺も、腹が減ってる」


「心咲まで……よし、わかった!明日の朝の足しにしよう思ってたけど、存分に食べな!」


「すまん、助かる」


 レイとソウはもう自分達の部屋にいるらしい。


 靴を脱いでるとナオが小さな足で駆け寄ってくる。俺はナオを抱き上げると頬ずりした。


「おーっ!会いたかったぞー!」


「たった1日で大げさな……。なんかあったの?」


「あぁ……」


 俺と心咲は用意された簡単な飯をうめぇうめぇと食いつつ、ひまは今日あったことを話してくれた。


 ひま達は今日レイの為の黒いウィッグや化粧品を買った他、なんと木田にもらったマップの下見してきたらしい。


「まじで!?え、大丈夫だった?」


「うぅ、ごめん……」


 恐らく、ようやく自分達にやれることができたと飛びついたのだろう。


 うなだれるひまの頭に手を置くと、上目遣いに見上げてきた。


「そんなに焦んなくってもいいって。土日にみんなで一緒に見に行こう。おつかれ、ありがとね」


「……うん」


「じゃ、俺達はそろそろ行くよ。ほい、ナオ」


 俺はずっと抱いていたナオをひまに渡して立ち上がる。


「明日は来れる?」


「明日もし引き止められたら心咲だけ置いてくるから大丈夫」


「おいこら」


 そんなやりとりにひまはクスクス笑っていた。


 レイのウィッグの話しが気になったが、その日はアパートをあとにした。

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