山中の集い 3
森の廃工場に戻ってきた心咲は、男達を置いていった建物を除き込み「やっぱり来たか」と呟いた。
3人の男達の内、生き残っていたのはたった一人だったのだ。その犯人は、血の匂いを嗅ぎつけて来た大きな山犬の群れだった。他の二人は手足を食い千切られ、すでに肉塊と化していた。
残った男は必死に身を捩るも、自由の効かない手足ではどうすることも出来ず、山犬にジリジリと距離を詰められていく。
山犬は残った男を仕留めんと、身をバネのように力ませ飛び掛かる。
「いぃぃぃぃぃ!」
しかし…
目をぎゅっと閉じ顔を背けた男は、備えていた衝撃が襲わないことに気付き、恐る恐る目を開く。
「ひっ!」
そこには、鼻先に触れそうなほどの近くで制止する山犬の頭があった。そして、山犬がどけられるとそこには、悪魔のごとき風貌の獣人、心咲が立っていた。片手に捕まれた山犬は、首がおかしな角度に折れ曲がっている。
周囲の山犬は心咲を取り囲み、唸りながらゆっくり距離を詰めていく。
心咲は手に持っていた山犬の死骸を落とすと、両腕を大きく上げて、悪魔が体現したかのような翼を広げた。
それは廃屋の電灯を覆い隠し、大きなシルエットを際立たせる。
『キャン!』と短い悲鳴を残して背を向けた山犬達を見送った心咲は、男に体を向けた。
『さて、お前にはいくつか聞きたいことがある』
心咲は声を響かせて男に問いかける。
『まずこれは、どうやって手に入れた?』
どこから取り出したのか、心咲の手には拳銃があった。
●●●●
「ふぅ、ただいま」
「おー、おかえり。遅かったね」
心咲が扉を開くと、竜のボリュームを抑えた声が返ってくる。
「柊里寝てるからねー」
心咲が見れば、竜に膝枕をされた柊里がスヤスヤと寝息を立てていた。
「飯食って安心したみたいよ。つーかなんだそれ、大荷物だな」
部屋に入ってきた心咲は、パンパンに詰まった大きなカバンを2つ脇に抱えていた。それをどさりと床に置く。
「それ足で持って飛んできたの?」
「あぁ、流石にキツかった。さて竜。いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
「え、じゃあいい知らせかな」
竜がそう言うと、心咲は2つあるカバンの内1つをガバリと開けた。
「うそやん!」
そこには大量の札束がギッシリ。言わずと知れた万札だ。
「はっはっは。奥を漁ったらあったんで根こそぎ詰めてきた」
「うわー、戦利品じゃん。ま、ろくな事に使われる金じゃ無さそうだし俺達が幸せに使っちゃいますか」
こんな大金を前にしても2人がどこか落ち着いているのは、ハンター稼業の方でこれ以上の金を貯金しているからだった。それでも嬉しいことには代わりないようだが。
「さて、喜んでいるところだが悪い知らせだ」
心咲がもう1つのカバンから取り出したのは、一丁の拳銃だった。
「あぁ、男達が持ってたやつか。本物?」
「本物だな。しかもただの銃じゃない。恐らく警察が使っているものと同じだ。」
竜の表情が少し険しくなる。
「……盗品、かな?」
心咲はさらにカバンから頑丈そうな大きいケースを取り出した。
「きれいに箱詰めされたものも見つかった」
竜はケースを開いて、閉じる。
「まじかー……………」
「まじだ」
つまりこの件には警察、国家組織が絡んでいることに他ならない。
「ふぅ……ごめん」
竜は迂闊に手を出したことを謝った。
「今後気をつけるように。…国家ぐるみか。俺達みたいな存在は、今じゃなくてもそのうちどこかで鉢合わせてたのかもしれないな。竜」
心咲は小さく呟くと、竜の名を呼んだ。体制こそ崩しているものの、その目は真剣だ。
「この事件については、長くなりそうだがキッチリ方をつけるべきだ」
「わかってる。手伝ってよ?」
「あぁ」
柊里を今こうして匿っている時点で、もう大きな渦に飛び込んでいる事を自覚した竜は、柊里の髪をそっと撫でた。
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