熊退治 3
「いるなこりゃ」
森の手前で降ろしてもらい、そこらは俺達だけでここまで徒歩で来た。目の前には森の入り口。
反り立ちこちら側に迫るように生い茂る木々は、一箇所だけ鉄球が転がり落ちてきたかの様になぎ倒されている。
「とりあえずここに沿って歩いて行こう。なんか痕跡も見つかるだろ」
そうして歩くこと十分、森の中は昼間でも暗かった。
お化け屋敷を連想させるような暗さで、木の影からなにか覗いてるんじゃないかと小さな物音にも反応してしまう。
そして、
「う、だめだこれ。口で息してもくせぇ」
むせ返るような獣臭。
「匂いで探ってこうかと思ってたが····さっぱりわからんな」
残り香を辿って探そうとしていたが、あちこちから悪臭が漂い匂いの道がまったくわからない。
●●●●
さらにあるき続けて1時間ほど経った頃、穴を見つけた。
でかい。
斜面がごっそりと削れた大穴は、初めは何なのかわからなかった。穴の内側の壁面にこびりついた黒い毛はまるで針のように硬く、とても太い。
「これ俺の攻撃通るかなぁ。大技はやっちゃだめなんでしょ?」
「あぁ、夜に狩るつもりだからな。火を使うのは目立つ」
「じゃあお前が仕留めるのか」
心咲はコウモリなだけあって衝撃波を放つ。生き物に当てる場合肉の厚さで威力が若干弱くなってしまう。また、周囲に無差別に牙を剥くので人が多い所では使えないなどと相手や状況にによって左右されてしまうが、強力な武器を持っている。
だがここは森の中、人なんて俺達くらいだろう。高出力で放てる。しかし
「いや、俺の攻撃は痕跡が残らないから避けたい。外傷が全く無い死体見せてどーやって狩ったんだってなったら面倒だ・・・・ろ?多分見つけた。こっちだ」
俺には聞こえないが、心咲の耳はなにかの気配に気づいたらしい。
「服着てるけどどーする?」
獣人は変身すると体の形が変わる。その際に服が破れてしまうのだ。
「手足だけ動かせるようにしとこう。偵察するぞ」
さっそく俺達は靴と靴下を脱いでリュックへと放り込み、ズボンと上着の袖を捲った。そして自由になった手足だけ、鋭い鉤爪の生えたものへ変身させる。
準備が整った。近くの木に跳びつき幹に爪を突き立てて、枝が密集しているあたりまで登る。
「できるだけ跳び移るようなモーションはなしにしよう。やるとしても最小限に」
「りょーかい。ところでクマって木登れるって聞くけど見つかったら登ってくるんかね?」
木の枝の太い所を選んで進んでいるが相手は森の獣。気づかないとは限らない。
心咲は少し顔をしかめながら答えた
匂いが強くなっている。近い。
「多分登るどころじゃない。木ごとへし折って落としてくるぐらいの覚悟はしたほうがいいかもな。音だけでも分かるが相当でかいぞ。お前の完全体以上の体重があるかもしれない」
「マジか」
当然の事ながら、何かがぶつかったときの威力はその物の重さと速さで決まる。
完全に変身した時の俺の巨体は、物語に描かれているドラゴンよりはスレンダーだが、それでも鱗が覆っていたりとそこそこに重い。
そんな俺よりも重いとすると、ベアクロ一の一掻きで木もなぎ倒してしまうだろう。
心咲が少しづつ移動の速度を緩め、やがて止まった。そして下を指差す。
足音を殺して心咲のいる枝に移ると、ゆっくりと下を覗き込んだ。
焦茶の毛むくじゃらな塊がもぞもぞと蠢いている。
「これ狩るの?」
「これ狩るの。一旦離れよう。匂いがきつすぎる」
心咲は目に染みるようで、目頭を押さえながら枝から腰を浮かせた。
熊の通って来た道を引き返し少し距離を置いた。
「このくらいなら動いた時にすぐに追えるだろう」
心咲がそう言って枝に腰をおろした。
「んじゃ、飯にすっか」
別の枝に跨ぐようにして座り、リュックをあさり始めた俺を見て、心咲は目を細めた。
「あの悪臭のあとによく食べられるな」
「食べんの?」
「食べるけれども」
リュックから目当てのおにぎりを両手に持ち、心咲へ放る。
「おかかとー、しゃけー!」
「おしぼりは?」
「シュッ」
おしぼりを手裏剣のように飛ばし無事キャッチしたのを見届けると、自分の分を取り出した。
食事をしながら今後の予定を話す。
その間、熊に動きは見られなかった。
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