熊退治 2
薄暗いうちに公園で体を人型に戻し、トイレで服を着る。
その後、途中で寄ったコンビニで待ち合わせの時間時間まで過ごし、無事に目的地のビル前に着いた。
木綿豆腐のような外見のビルは今にも崩れそうだ。
出入り口に取り付けられた大きなガラスの張ってある両開きのドアは曇っていて中が見えない。
ドアの前に白骨化したネズミっぽいのが転がっているし、きちんと使われている施設ではなさそうだ。
「なあ····ほんとにここか?」
「住所では合ってる。···来たみたいだぞ」
携帯で地図を確認していた心咲は、ポケットにしまうと呟いた。
「えっと、依頼を受けていただいた『ハンター』の『R&M』方ですか?」
振り返ると30代に見える男女と中年のおっさんが一人立っていた。
「はっ、こんな若ぇのに務まんのかよ。失敗しても俺は金出さねぇぞ!」
おいおい初っ端から喧嘩腰かよ、と身構えたが俺達に言っている訳では無いようだ。怒鳴りつけられたのは隣に立っている男性らしい。
まぁ、良く思われていないことに変わりはなさそうだが。
「おい黙れよ!どんな神経してんだ、目の前にいんだろうが!」
「ちょっと、やめてよ。お義父さんも落ち着いてください」
「····っ、責任はお前が取れよ!」
一段落付いたようだ。
「あー、大丈夫ですかね」
「すいません、お恥ずかしいところを···」
とりあえず偽名で短く挨拶を交わすとおっさんが
「ちっ、ボサっと突っ立ってんじゃねぇ。中はいるぞ」
と、鍵を持って扉の前へ進んだ。しかし、
·····鍵がささらない。
「クソがっ、このポンコツめ」
しばらくガチャガチャしてたかと思うと急にささりかけた鍵をガンガン叩き始めた。老朽化しているのか、扉はグラグラと揺れる。
おぉ、壊れるぞ?
鍵をいじり俯いたおっさんはネズミが視界に入ったのか、鍵を殴りながらネズミも蹴っ飛ばす。
祟られてしまえ。
一緒にいた男女を横目で見ると、困ったように「すいません」と会釈をしてきた。
しばらく悪戦苦闘しているおっさんをぼんやりと眺めていたが、ふと心咲が思いついたようにドアに近づいて行った。
「このドアもしかして····。ちょっと失礼します」
心咲がグッと左右のドアに力を入れて押すと、鍵は抜け全開になった。
見れば両開きのドアなのにドアストッパーがかかってなかった。
●●●●
「····このように被害範囲が短期間で広がってきているので一刻も早い討伐をお願いしたいのです」
現在の状況についてはあらかた聞いた。
なんでもその熊、7メートルもあるらしい。
人の食べ物、そして何より人間の味をしめてしまったようでかなり頻繁に人里に降りてくるようだ。
「その熊、国の方に連絡はしなかったんですか?聞いた限りじゃ隊をひきいて討伐するような危険度ですよ」
心咲が提案も兼ねて質問するがどうやらその手は一度行ったらしい。
「捜索隊は来てくださったのですが、途中でもっと大きな動物災害が起こってたとかで·····。
ほら、海岸に大きなトカゲが押し寄せてきた動物災害の。それで急に帰ってしまって」
その話なら記憶に新しい。
4月半ばに太平洋側の砂浜が封鎖されたやつだ。今は収まっているらしいが、撃ち捨てた死体の処理が長引いてるそうだ。
腐らせて病原菌が発生するのを眺めているのはだめなので、燃やして肥料にするとかなんとか。
なるほど、それで掲示板の依頼になっていたのか。
「だいたいわかりました。今日明日、見つからなければ来週の土日も視野に入れて捜索と討伐を行わせていただきます。よろしいですか?」
心咲が確認を取ると、そちらに任せると言ってくれた。
いつの間にか用意されていたお茶を飲み少しくつろいだ空気になると、若い男の方が話しかけてきた。
「君達若いのにすごいなぁ。俺なんて勤めてた会社潰れちゃってから親父の農場に泣きついてなんとかやってきてんだよ」
話をしていると、どうやらあのおっさんは父親らしい。隣にいるのは奥さんで、彼らの農場にも被害が出たそうだ。
そんな話をしていると、さっきまで眺めるだけだったおっさんが話しかけてきた。
「今日から動くっつうこたぁお仲間はもう来てんのか?」
「あ、俺らだけッス」
そう言った途端夫婦は顔を真っ青にして俺達を見てきた。
「ほら見ろ、やっぱだめじゃねぇか」
なぜか得意げなおっさんを無視して夫婦は詰め寄るようにしてまくしたてる。
「まて、待つんだ。君達だけ?嘘だろう?悪いことは言わない、やめといたほうがいい」
どうしたんだ急に。
「実は、」と旦那さんが話し始めた内容によると、どうやら俺たちの他にも討伐に向かった人がいたようで、町の若者だったり、プロのハンターが熊退治に挑んだそうなのだ。だが今のところ帰って来ない人がいたり、もしくは依頼を放棄されたらしい。
そんなのに黙って向かわせるつもりだったのか。じろりと見回すと、目を合わせないように顔を背けていた。
「まぁ別に大丈夫じゃない?」
「あぁ。自分達は問題ないので山に向かおうと思います」
彼らは驚いた顔をしてこっちを見た。断るとでも思っていたのだろう。
「すみません、ありがとうございます。近くまで送ります。よろしいですか」
まだ明るい時間に空を飛ぶ訳にも行かないので、ありがたく送ってもらうことにした。
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