ミナト 2

「先ほども言ったが、俺は三日に一回しかここへは来れない。往復分のエネルギーを回復するには、そのくらいの時間が必要だからね」


「・・・つまり、その空白の二日間の間、私の店番を任せるという事でしょうか?」


「頭の回転が速いじゃないか。そう、その推測の通りだよ。報酬は、一日当たり最低五千ペカを保証しよう。そして、俺が不在の間に君が出した利益のうち、三割を能力給として追加で支払おう」


「・・・なかなか好条件といえます。でも、販売を完全に一任していいんですか?見た所、値札が付いていないので、価格は全て交渉次第とみたのですが」


 ミナトが、商人としての能力をフル活用し始めていた。


「ああ、構わない。ニホンでの値段よりも高い値段で売って、確実に利益さえ出してくれれば何も言わない」


「承知しました。ただ、基本給が五千ペカというのはちょっと。宿屋暮らしなので、五千ペカだと、一日の出費とトントンなんですが」


「なら、店番の日はここに泊まればいい」


「・・・はい?」


「だから、俺がいない日はこの和室を好きに使っていいと言っている。少々手狭だが、どうせ荷物はほとんどないんだろう?水回りは一切ないが、近くに銭湯代わりの施設はあるし、そう悪くないと思うが?」


「・・・」


「ついでに、防犯設備も宿よりは整ってるぜ?」


 ミナトはまたも悩んだ。マテリアルキャリアーなる物を買うには、可能な限り収入を貯蓄へと回す必要がある。宿の宿泊費用が一日二千ペカ。食費を引けば、一日に貯蓄に回せる額はたかが知れている。


 しかし、ここで半住み込み生活を送れば、宿代二千円がそのまま貯金へと回せる。銭湯の利用料を考慮しても、間違いなく得だ。


「わかりました、それでお願いします」


「商談成立だな。じゃあ、明日から頼むわ」


「お任せください!能力給の件、お忘れなく」


 ミナトは、そう告げてしっかり念押しをした上で、売上アップの為の手段を考え始めた。








 そして翌日。


 張り切って売るぞと意気込んでいたミナトは、早速躓いていた。


「・・・暇だ」


 客が来ない。


 そもそも、珍品区に訪れる人は物好きばかり。主婦や一般の冒険者などはこの地区には寄りつかないのだ。


 主婦にウケそうな便利な小物の類や、冒険者向けなカップ麺なども、肝心の客が来なければアピールするチャンスは訪れない。





 いっそ、人通りの多い地区の方へ行って、デモンストレーションでもするか?あるいは、露店区に出張して、より多くの人に現物を眺めてもらうか?


 ・・・いや、どちらもダメだ。露店区に出店するには事前に申請と手数料が必要だし、デモンストレーションにしても、無許可でそんなことをしていいのかわからない。そもそも、店を放置しておくわけにもいかない。それこそ、こういった珍品を求めてくる人を逃すわけにはいかない。


 宣伝に人を雇おうにも、ミナトの今の手持ちでは日雇い何人かが限界。





「うあああああああっ!」


 ミナトは、畳の上に大の字になるや否や衝動のままに吠えた。


 もういっそこの二日間はあきらめて、二日後のノリトさんが戻ってくる日に私が宣伝に出ようか?などと考えていると、表で声がした気がした。


 耳を澄ませる。


「えっと、ごめんください。店の方いらっしゃいませんか?」


「は、はい!?ただいま!!」


 慌てて上体を起こし、返事をする。ノリトに貰ったスニーカーに爪先を引っ掛けて店へと顔を出す。


 商品棚の向こうには、ニホン人と思しき黒髪ロングの女性が佇んでいた。

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