セツナ 1

 交易都市メルカルのとある宿の一室に、セツナはいた。


 すぐ側には、首を斬り落とされて絶命した体と、覆面をした男性。男性は、つい先程まで体と繋がっていた、被害者の頭部を持っている。


「よし、上出来だ。セツナ、ずらかるぞ」


Ja了解!」


 男が、被害者の頭部を袋へと放り込みつつ、窓から飛び降りる。セツナもそれに続き、窓から飛び出す。


 芝生の上に五点着地を決め、男を追って走り出す。


 翌日、メルカルの宿で殺人事件があったと、ちょっとした騒ぎになった。





「なかなかいい稼ぎになったな」


「情報料を引いても、十万ペカずつの収入だったしね。おかげで、銃が一丁手に入ったわぁ」


 そのニュースを他人事のように聞きながら、同じメルカルの別の宿でセツナは相棒とハイタッチしていた。


 相棒の名前は、ゾロス。駆け出しの賞金稼ぎだ。セツナは、彼とパーティを組んで賞金首専門のブラックリストハンターとして活動していた。理由は、手っ取り早く金を集めることができるからだ。


 魔物を数十匹狩って素材で稼ぐよりは、手配されている人間を狩った方が実入りは大きい。


 もちろん、魔物と勝手が違う上に、手配されるような輩は総じて危険なため、リスクは高い。また、依頼とはいえ殺人には違いないため、倫理感が立ちはだかるのもあって、賞金首専門という冒険者はかなり少ない。(手配された人間に危害を加えても、罪には問われない)


 そして、二人はその少数派だ。セツナの目的は金だが、相棒が賞金首を狙う理由を彼女は知らない。


 パーティ結成のきっかけも、高額の賞金がついていた賞金首の抹殺依頼を、何の気なしにセツナが見ていたところを、ゾロスに声をかけられたというものだ。





 この一週間で既に、セツナのペアは二人の賞金首を葬っている。一人は、奴隷商人との取引を行っている人さらい。昨夜始末したのは、麻薬売買を行うグループの頭目だ。


 稼いだ額は、合わせて二十八万ペカ。そして、セツナはようやく拳銃を一丁手に入れたのだった。


 リボルバー式の六発装填。ゾロスに案内された中古品を扱う武器屋にて、安く手に入れた一品だ。


 実際に射撃して、異常がないかは確認してある。弾も相当量を買い込んでおり、今手元に残っているのは三万ペカほどだ。それでも、セツナは全く後悔していなかった。


 グリップや銃身、あるいはトリガーを眺めながらうっとりするセツナに、ゾロスが呆れ気味な視線を向けている。


 しばらくの間、ガンスピンの真似事をしたり抜き打ちで構えを取ったりして、感触を楽しんでいたセツナだったが、


「よっし、それじゃあ試し撃ちしてくるわ」


 と言い残し、弾丸の入った包みを抱えて宿を飛び出していった。





 向かった先は、メルカルの北にある荒野。そこに生えている枯れ木を目標に定めて、まずはシングルアクションの姿勢で引き金を引く。いつものサバゲーとは違い、反動で腕を持っていかれる。命中はしなかった。


 もう一度、銃を体の中央に構えて引き金を引く。今度は備えていたため、先程よりも腕は跳ねなかった。


 しかし、弾は当たらない。


「FPSやサバゲーのようにはいかないか。射撃スキルなんかがあれば楽だったんだけど」


 そんな呟きを漏らしつつ、残りの四発もシングルアクションで撃ちきる。命中は僅かに二発だった。


 続いて、ダブルアクションで六発射撃する。命中は三発。わずかにシングルアクションより命中弾は多いが、実戦で使えるレベルには程遠い。


「ま、練習あるのみかな。弾も多めに買ったし」


 そう言いつつ、一発一発弾をチャンバーへと装填していく。シリンダーを収納し、再びシングルアクションで六発。次にダブルアクションでまた六発。


 セツナは腕に疲労を感じるまで、そのローテーションを繰り返し続けた。

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