野木沢宇宙の初日

 野木沢宇宙コスモは、サリシア中央国に降り立ち、冒険者達との登録を済ませた後に三人の男女と酒場で呑んでいた。コスモは十八才であり、この国で飲酒が許可されるのは十八歳からであったため、慣れない酒の味に、顔を顰める事ができたのだった。





 一緒に呑んでいるのは、彼のパーティ仲間だ。冒険者として登録したところで声をかけられ、彼らも駆け出しのパーティだと言うので、試しに参加したのだ。


 彼らは幼馴染らしく、今日揃って冒険者として登録を済ませたらしい。





「コスモって、異世界から来たのか!?」


 自分の素性を素直に明かしたコスモに、パーティのリーダーであるウィルコックが信じられないという顔で叫んだ。


「そう。神様らしき存在に、同じ世界から人物との生存競争に勝ち残って見せろってさ」


「てことは、他にも異世界から来た人が紛れ込んでるわけね」


「作り話としては、突飛すぎるな。仲間になったわけだし、とりあえず信じてやるさ」


 パーティの紅一点であるレゼと、回復魔術を得意とするトルキスクが、それぞれ声を上げる。


「なあ、お前の住んでた異世界ってどんな場所なんだ?」


「そうだな・・・。魔法もなければ魔物もいなくて、帝国よりも技術の進んだ世界かな」


「ということは、割と平和なのかしら?」


「世界の大半はね。一部では、人間同士が争ってるよ」


「技術が進んだって、どんな風に?」


「星の裏側まで難なく届く程の射程を誇る誘導兵器があったり、三百メートルを超える高さの建物が建設されたり・・・」


「・・・なんというか、スケールの大きさが段違いだな」


「貴方にとってここがそうであるように、私にとってはそれだけでも異世界だわ。その説明だけでも、既にお腹一杯って気分だわ」


 ウィルコックとレゼが呆れた声を上げた。


「大抵のことが科学で解明されてしまって、日常レベルでの不思議が淘汰されたロマンのない世界だ。確かにこちらより安全だし、便利ではある。とはいえ未知に挑む興奮は、一部の学者以外には得られないかもしれない。それに、社会機構が発達しすぎていて、俺には息苦しいな」


「豊かな生活と安全は、未知の興奮や自由とトレードオフなわけか。どっちが幸せなのかは人次第だろうな」


 トルキスクが、頷きながらそう彼なりの結論を出した。


「ねえ、もっと貴方の世界の話を聞かせてよ」


 レゼがコスモにせがむ。


「お前さっき、もうお腹一杯って言ってなかったか?」


 ウィルコックが茶々を入れ、


「うるさいわね。細かいことを気にする男は、嫌われるよ!」


「まあまあ。俺も聞きたいしさ」


 トルキスクが宥めつつも、ちゃっかりコスモを急かす。


 幼馴染だけあって、息のあった三人の会話に苦笑しながらも、コスモは三人に喜ばれそうな話題を脳内で検索し始めた。

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