神波湊の初日

 神波湊は、近江商人の血を引く家系に生まれた。両親は、フランチャイズシステムに寄ったコンビニ経営を行っていて、彼女も将来は起業することを目標としている。


 そんな彼女がスタートとして選んだのは、当然と言うべきか交易都市メルカルだった。





 地球では見られないような商品を、興味深げに眺めながら露店の集まる通りを歩く。


 彼女としては、この交易都市で店を構え、商売によって生活基盤を確立したいと考えていた。しかし、それには元手が要る。商品の仕入れ先が要る。そして、何よりも店舗が要る。


 そんなことを考えながら、当てもなくふらふらと彷徨っていると、いつの間にか露店の通りを抜けて店舗の立ち並ぶ区画へと辿りついていた。





 隙間なく並ぶ店舗群。そのうちの一つに、張り紙が出ていた。


 ”短期間のお手伝い募集。日当は5000ペカ~”


 二ホンと貨幣価値の感覚にほぼ差異はないという化身の言葉を信じるなら、日当5000円以上だ。条件としては、そう悪くない。


 気がつけば、ミナトは店の中へと入っていた。


 並んでいるのは、様々な石だった。宝石のように綺麗だが、それだけではない気配を感じる。


 じっと見つめていると、目利きのスキルが意図することなく発動した。どうやら、物品を見つめることがトリガーらしいと、ミナトは理解する。


 目利きの結果だが、これら石はパワーストーンのようなものらしく、魔術の触媒として使われる代物らしい。


 店においてある石全てがそうなのか、調べようとしたところで背中から声をかけられた。


「らっしゃい。お気に召すものはあったかしら?」





 振り向くと、ぽっちゃりしたおばちゃんが笑顔で歩み寄ってきていた。そこでようやく、ミナトは本来の目的を思い出した。


「いえ、表の募集の張り紙を見て・・・」


 全てを言い終える前に、おばちゃんが口を挟んできた。


「ああ、募集を見てくれたんだね!販売担当の亭主が、足を骨折しちまって困ってたんだ。助かるよ!」


 どうやら、陽気で気さくな人らしい。これなら、やっていけそうだと、心中でこっそり安堵する。


「じゃあ、早速仕事を覚えてもらおうかね」


「い、今からですか?」


「善は急げさ」


 そう言って笑うおばちゃんに、ミナトはどうにか愛想笑いを返した。

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