来栖川明人の初日

 特殊能力者とならず者が集まる島、デジュル。


 その集落の一つで、今喧嘩が起こっていた。喧嘩自体は、この治安の悪い島では日常茶飯事だ。しかし、その喧嘩の様子は些か変わっていた。


 八名のならず者が、たった一人を包囲していた。それだけなら、数に頼った一方的な暴行の現場だ。


 しかし、今回の場合は囲んでいる方が怖気づいていた。その理由は、倒れ伏して動かない六人にあった。


 そう、包囲している側は元々十四名だったのだ。その内の六人を、囲まれている側の男が倒しており、その所為で数では圧倒的優位にあるはずのならず者たちが、怯んでいるのだった。





「うらあぁぁぁぁぁっ!」


 雄叫びと共に、包囲される側の男、来栖川明人が角材を片手に突撃する。


 これを迎え討つべく繰り出された拳を難なく躱し、角材でフルスイング。立っている敵は七名となった。


 続いて、鉄パイプを振りかぶって接近してくるガタイの良い男の懐へと、恐れを知らないかの様に飛び込む。そうして、鉄パイプの間合いの内側へと入りこむと、右のボディアッパーを繰り出す。残りは六名。


 前後からタイミングを計って向かってくる相手のうち、片方へと自ら接近し、角材で一撃。さらに振り返りざまにもう一人へとスイング。残り四名。


 一人が、持っていた石を投げつける。それを、アキトは首を軽く曲げて避け、逆に足元から石を拾って投げる。見事に額に命中し、相手が怯んだところで、右のリバーブローを見舞う。残り三人。


 そして、次の相手へとアキトが突進しようとしたところで、三人は背を向けて逃げ出した。





 その背を追うことなく、唾を地面に吐いてアキトは倒れた者たちの懐を漁る。


 手に入ったのは、粗末なナイフといくらかの小銭のみだった。


 舌打ちを一つ残し、アキトはその場を後にした。

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