ゆけむりの向こうに・・・

勝利だギューちゃん

第1話

クリスマスも押し迫ったある日の夜。

僕は、彼女とデートすることになった。


おそらくは、最後のデート。


僕は、彼女に嫌われまいと、自分を騙して来た。

でも、それではよくない。

偽りの自分で好かれても嬉しくない。


なので、本当の自分を見てもらおうと。

それを見れば、彼女は別れたいというだろう。


でも、それでいい。


偽りの自分で好かれるくらいなら、本当の自分で嫌われたほうがいい。


夜6時


そろそろ彼女が来るころだ。


「ごめん、待った」

彼女が来た。


「今来たところ」

「本当に?」

「うん」


ベタな展開。

満面の笑みを浮かべる彼女・・・


でも、この笑顔を見るのも最後。


「いい店、予約してくれた?」

「うん。気に行ってくれると嬉しい」

「でも、いつもよりも、ラフな格好だね」

「ああ。時間がなくてね。とにかく行こう」


予約した店へといく。


高級レストランの前をいくつか通り過ぎる。


「レストランじゃないの?」

「うん」

彼女は残念そうに言う。


そして、目的の店に着いた。


「ここは?」

「ちゃんこ料理屋だよ」


ドアを開ける。


「いらっしゃい・・・あっ、よく来たね」

「ええ。取れてますよね」

店主に言う。


「いいところ、取っておいたよ。さあ彼女さんも」


僕は、彼女にアイコンタクトをして、店に入る。


「なじみなの?」

「うん。店主さんは、元力士でね。父がその部屋の後援会に入ってたんだ。」

「タニマチ?」

「それとは、違う」


タニマチ・・・難しい言葉を知ってるな。


座敷に通されて、程なくして料理が運ばれてくる。


「鍋?」

「そうだよ。これが本当の僕だ」

「本当の?」

僕は頷く。


「高級レストランとか、おしゃれめいてきたけど、本当の僕ではない」

「というと?」

「こうやって、鍋をかこんでの、さしつさされつ・・・それが僕の性に合っている」

彼女は何も言わない。


「見くびらないでくれる?」

彼女は、怒っているようだ。

予想はしていたが、やはり辛い。


「私が、そんな事、気がついてないと思ってた?」

「えっ?」

「ようやく、本当の君を私に見せてくれたね。ありがとう。すごく嬉しい」

満面の笑みを浮かべる。


「○○さーん、もっと追加して」

「かしこまりました」


先程の店主と親しげに話す彼女。


「君と同じだよ。私もなじみなんだ・・・って、この格好じゃ食べにくいね」

彼女はコートを脱ぐ。


すると、普段着の彼女がいた。


「私も同じだよ。これからも、よろしくね」


僕は、もしもの時のために用意しておいた、指輪を差し出した。


「ここでは、不釣り合いだけど・・・」


彼女は言った。


「ふつつかものですが、よろしくお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆけむりの向こうに・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る