第101話 『黄昏の4』
地下3階。広間の真ん中で『黄昏の4』アーケルトは、暇を持て余していた。
そのため、現状を把握すべく、余裕を持って考えを巡らせる。
持っている情報としては、ミーシャ曰く、侵入者は6人。
「『
となれば、地下2階へたどり着いたのは多くても4人。
まあ、その中に瞬間移動持ちがいて、本社に戻った可能性や、ヴォルフが『
最多で4人、最少で0人だ。
だが、今さっき、地下2階の篠崎から「1人と交戦中で、もう1人を逃がした」という連絡が入った。
篠崎の言葉を信じるならここへやってくるのは1人。ただ、地下2階は通路が二手に分かれている。あっちが最大数の4人いて、2、2で分かれて動いていたならば、話は別。篠崎の逃がした1人と、篠崎と会わなかった2人で最大3人が地下3階で降りてくる。
よって、地下3階へ来るのは1~3人ということ。
この辺を考えると、
――『
最悪を考え行動するなら、それが良い。アーケルトの魔術なら多人数でも対応できる。
といっても、ここで敵を逃がしたところで下には一応木原がいるし、地下5階へたどり着かれても儀式の祭壇へ行くには一つ
それで時間を稼げれば、『
色々考えなくてはならず、めんどくさい。
「あー……、ビヨンデさん死んだの痛ぇなぁ、クソ」
本来、彼に情報伝達役を任せる予定を組んでいた。『黄昏の3』ビヨンデがいれば、透過を使い、無敵状態で素早く各階を移動し、目視による情報共有ができたのだ。急ピッチで本命の儀式を始めたので、その埋め合わせができていない。
と、
――おいでなすったなぁ?
地下二階とここをつなぐ階段の方、そして通路から音がした。その直後、パーカーを着た少女が広間に現れた。
一人だ。
「おー、一人か? 嬢ちゃん」
――降りてくんのが1人なら、『
女、そして自分より年下ということで若干の抵抗があるが、まぁ仕方ない。
確実に仕留める。
少女はアーケルトを無視して、何か襟あたりにマイクが付いているのか、そこに口元を近づけ何かを話している。
「おっしゃ! 『
『
「あ?」
周囲を見渡すと、アーケルトの右方に少女は立ち、ぴょんぴょんとその場でジャンプをしている。
――こいつが瞬間移動の『内包者』か……? いや。
次の瞬間、少女は消え、
「『黒葬』執行部対人課 狐崎 空。お前を『処理』するッス……」
声は後方から。気づけば回り込まれている。
見えなかったが風を感じた。となると、瞬間移動ではない。
尋常でなく速いのだ。
人間の出せる上限速度を大きくぶっ超えたスピードで、少女はアーケルト周囲を攪乱するかのように動いている。
――待て待て待て待て……、やべぇぞ。
アーケルトは焦った。
少女の能力がアーケルトの想像する最悪のものならば。
――相性最悪だぜ、下手すりゃ……。
青ざめた。
「3速」
右方から声。
――マジで速ェ!
もう全く目で追えない。
周囲にいるのはわかっているが、どこを走っているのか、どっち回りで走ってるのかすら不明。天敵の可能性を感じ、ダラダラと冷汗が流れる。
――クソが……、勘弁してくれよ……。
心の中で悪態をつくが、少女に止まる様子はなかった。
そして、とうとうその時はやってきた。
少女はアーケルトを轢き殺すべく、一直線に駆けた。
その瞬間すら、アーケルトが気づくことはない。少女がアーケルトの死角を利用したのと、あまりに速かったためだ。
アーケルトは知る由もなかったが、少女は音速を超えていた。
そして。
「あぁ……」
アーケルトの魔術が発動した。
カウンター型の魔術。それは、アーケルトの半径10m以内に入った物を問答無用で貫く。
「――俺のよか遅ェのか……」
彼の魔術は音速を超える。
――雷撃だった。
魔術名『
音を超える速さで無慈悲にも敵を撃つ、雷の魔術。
つまり、
「くはッ……!」
少女はアーケルトの10m後方で雷に打たれていた。まあ、雷といっても上空から落ちる物ではない。アーケルトの元から放たれた電撃は空を泳ぎ、炸裂する。
アーケルトが振り返る。
少女は、呻いていたが、死んではいない。黒焦げになっていてもおかしくない威力のはずなのだが。
――ダメージは入ってるが、すげぇタフだな。なんかしてんな……?
となれば、連撃を敢行する。
「『
同じ対象に立て続けで電撃を浴びせるには詠唱がいる。
その隙に少女は、こちらから逃げるようにして駆けた。
だが、今回は目で捉えられるほどの速度だ。やはり直撃は効いている。
詠唱終了までに少女が半径10mから出た。これでは雷撃が届かない。
だが、逃がしたくはない。
「『
もう一度、『
その先には上へ昇る地下2階への階段しかない。
地下4階への階段がある方の通路なら追うが、これなら追わずに結構。
「……ふぃー、どうなるかと思ったぜ……」
アーケルトの魔術は自動のカウンターなので、攻撃をアーケルトが認識する必要はない。故に、彼女の速度が音速か、光速かなど判別が付かなかったのだ。
結果、こちらの攻撃が当たったことから光速には達していない。早くても音速止まりだろう。
問題なし。
「リベンジ待ってるぜ! 嬢ちゃん!」
______________________________________
~補足~
44話で『陣』生成現場へ向かった幽嶋の投石を防いだのは、アーケルトの魔術でした。
……と、44話でアーケルトの魔術の伏線を残したつもりが、アーケルトを『黄昏の5』と書いている赤っ恥なミスをしてました。修正です……。
最近はちゃんと推敲してから投稿するようにしているので、今後も温かい目で見守っていただけると幸いです。
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