第100話 再戦へ

「――了解デス。皆さん、私は本社へ一度戻りマス。何かあったら呼んでクダサイ」


 幽嶋はそう言い、地下二階へつながる階段前で姿を消した。


「行くぞォ」


 残されたのは鑑心、空、燈太のみ。

 階段を駆け下り、地下二階へとたどり着いた。


 地下二階はいきなり二手に道が分かれていた。なかなかおかしな構造をしている。


「うちが右、ガン爺、燈太クンは左でどうッスか?」


「構わねェ」


 二手に分かれ行く。

 恐らく、空が1人なのは能力の都合上、単独の方が良いという判断だろう。

 鑑心と共に、燈太が走っていると先に開けた場所が――


 ――何かが飛んでくる……!


 それがわかったのは能力のおかげだった。だが、べらぼうに速い。避けられな――

 しかし、その飛来物が直撃する前に銃声が鳴り響いていた。


「……気ィ付けろォ」


 鑑心はいつのまにかリボルバーを抜いていた。

 地面に転がっているナイフをみて察するに、恐らく撃ち落とした。……とんでもない早抜きと精密さだ。


「おいおいおいおい! まぁーた相手は、ジジイかよ。俺はいつから介護士になっちまったんだァ?!」


 開けた空間には様々な物が置いてあった。ソファー、イス、テーブル。

 そしてこの広間の中央には、ドレッドヘアの男が立っていた。

 この外見、確か『白金遊戯の会』、殺人鬼の篠崎。ナイフを飛ばす魔力使い。

 春奈と同じ、人工的な『超現象保持者ホルダー』だ。


「あー、おめぇかァ……」


 鑑心はナイフを見て、そうつぶやいた。


「あ? 俺は知らねぇぞクソ爺。なんだ、ボケてんのかぁ? 孫じゃねぇぞ?」


「……燈太ァ。回り込むようにして先行けェ」


 鑑心はそう燈太に小声で言った。鑑心の目は篠崎を見たままだ。

 燈太は、小さくうなずいた。

 鑑心の言葉を信じ、大きく迂回する形で先にあるであろう、地下へ続く階段を目指す。


「逃がすと思って――」


 篠崎は燈太にそう言いかけ、やめたようだった。

 数十秒後、燈太は何事もなく広間を抜けることができた。鑑心に感謝しつつ先を急ぐ燈太だった。


 ◆


 空は、燈太達と別れると、指令部のオペレーターであるカレンの指示で廊下を能力を使い突っ切った。

 途中に魔術師がいても轢き殺す勢いである。

 といっても、特に誰もいなかったため地下三階へ続く階段へと到着した。


「階段発見。カレンちゃん、左側の状況はどうッスか?」


『左に行った二人は殺人犯の篠崎と会敵したみたい。多分あと少ししたら坂巻がそっちに行くはずだけど』


「ふーむ……」


 鑑心への加勢は恐らく必要ないだろう。『皆既食エクリプス』を使われたら加勢に行く意味もない。……あ、篠崎は魔術師じゃないので使えないかもしれない。

 ともかく加勢しないとなると、悩むは、燈太と合流してから下へ行くか、先に一人で行くかのどちらかだ。

 どうしたものか。


『狐崎は、加勢を考えなくて良い。そして、坂巻を待たず、すぐ下に降りましょう。彼は戦闘員じゃない以上、狐崎が先行した方が良いわ。最速で地下5階を目指す上ではこれが最善』


「っ! 了解ッス!」


 流石、指令部最年少社員。


「頼りになるッスね!」


「……そういうのいいから!」


 空は、駆ける。


 ◆


 高校生くらいのガキが小走りで広間を抜けていった。


「いいんかァ? 行かして」


 目の前に立つジジイは篠崎に対しそう言った。


「っるせぇなぁ」


 今、このジジイから目をそらせば死ぬ気がする。そんな直感。

 そう思って、ガキは逃がした。


 ――多分、ガキの方へナイフ投げたら、先に俺が死ぬなぁ。こりゃ。


 そして、このジジイの持っているを見て、思い出した。

 魔術団と共に『陣』生成を手伝った時、上空にいたスナイパーのことを。顔は見えなかったので確たる根拠はない。だが、さっきの発言と言い、多分コイツだ。


「いいねぇ……。リベンジマッチって訳かぁ?」


「リベンジィ? いつ俺が負けたのよォ」


 ナイフを両手で持ち、いつでも投げられるように準備はしている。

 あちらも、銃を腰あたりで構えて動かない。

 撃ってこない以上、こっちのナイフの速度、威力は理解しているようだ。とはいえ、こちらもナイフを銃で撃ち落とすという神業を見ているため隙を見せるわけにはいかない。


「いいんかァ? 先に撃って」


 ――クソ爺が……


「撃ってみ――」


 発砲。

 予備動作が一切なかった。

 篠崎の身体はもちろん反応できていない。足を動かす余裕はもちろんない。


「っぶねぇ!!!」


 篠崎は本能的に持っているナイフを、掴んだままで加速させていた。ナイフで身体を引っ張ったのだ。銃弾が脇腹を掠ったものの致命傷は避けた。ソファーの裏に転がり込むと同時にナイフをジジイに向けて飛ばす。

 発砲音。老人はまたもこちらのナイフを撃ち落としたようだ。


 篠崎はソファーなどの障害物があるここを選び、現在防衛しているわけだが、その選択は正解だった。


「さぁて……」


 ナイフを投げるために表に出れば、ぶっ殺される気がしてならない。

 どうするか。

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