第67話 『オリハルコン』

「どうしたんデス? 二人とも」


 幽嶋が明らかに様子のおかしい静馬と燈太に声をかけた。


「……建造物がすべて青いじゃないですか」


 静馬が口を開いた。


「えぇ。あれは何デスかね? 石材? 綺麗デスねぇ……」


「詳しくはわかりませんが、あれと似た物を現象課の調査で見まして。確証はありませんが、あの素材には『超現象保持者ホルダー』の能力、『UE』を無効化する力があるかもしれません」


「……マジ?」


 幽嶋は驚きのあまり、口調がいつもと違っていた。


『今の話は本当か?』


 獅子沢の声である。


「し、静馬さん! 確かめましょう!」


「……あぁ」


「おい、燈太も静馬もどうしたんだよ」


 紅蓮や他の社員も続々と燈太と静馬の周りに集まった。

 静馬がみなに経緯を説明し、近くに建っていた神殿のような建物の近くへ移動する。

 柱は青いあの素材で作られている。


「燈太、あの柱に触れて能力を使ってみろ」


「やってみます」


 静馬に言われ、一本の柱へ近づいた。柱に背を付ける。

 いつもの動作で能力を行使すると。


「……やっぱり。何の情報も得れません! 能力不発です」


「どれ……」


 幽嶋も柱に手を触れた。


「……」


 数秒後、驚いた顔をしてこちらを見た。


「……マジデスか……。使えませんね、ホントに」


「すげーなこりゃ……。対人課でぜひ欲しい」「ぱねーッスよ、これ」

『これは調査したい! 現象課長として!』

「青ーい!」「……『UE』全般の効果を受けないならツチノコに使えば……」


 各々が使い道や感想を漏らした。


「『オリハルコン』と言ったところか……」


 静馬が呟いた。


「アトランティスにあるとされる幻の金属でしたっけ……?」


「あぁ。まあ、これは金属ではないだろうがこの遺跡を『アトランティス』と呼んでいるんだ。それにちなんでこれを『オリハルコン』と呼ぶのはどうか。いかんせん、名前がないのは不便だからな。

 いかがです? 獅子沢指令部長?」


『なかなかいいじゃないか。みなに伝えておく』


 アトランティス大陸。超文明を持ちながら、海に沈んだとされている、あるかないのかわからない伝説の古代文明。

 消えた古代文明、失われた古代遺跡の代名詞。

 そういう意味で、ここを『アトランティス』と『黒葬』は呼ぶことにしたのだろう。


 しかし、こういう都市伝説もある。

 アトランティス大陸は南極なのではないかというものだ。南極大陸は大昔温暖であったという説があり、そこから生まれた都市伝説だ。

 もちろん、アトランティス大陸が実際あったかも不明で、ましてそれが南極というのは全くもって根拠がないのだが、


 ――ここ、ほんとにアトランティスなんじゃ……


 そう思ってしまう。

 超文明を支えたのが『UE』で、オリハルコンとして存在した『UE』を無効化する石。ありそう……。


「どうした、燈太」


「あ、いえ……!」


 考え事をしていた燈太は静馬に声を掛けられ、我に返った。


「……そういえば、静馬さん。前、トンネルでみたあの部屋は平行世界で作られたものって言ってましたよね」


「あぁ、言ったな」


「ということは、この『オリハルコン』は平行世界の物なんでしょうか?」


「ふむ……。この『アトランティス』自体が平行世界から来たという可能性もあるな。しかし、平行世界と言っているんだ。こちらの世界に同じ素材があっても不思議ではない」


「なるほど……」


 例の部屋では、壁のほかに見たこともない民族衣装や読めない文字が存在していた。もし、それと同じものがこの遺跡から発見されれば、ここはあの『部屋を作った世界』からやってきた遺跡となる。

 そういったものがなければ、『オリハルコン』は『こっちの世界』にも、『部屋を作った世界』にも存在していて、『こっちの世界』での『オリハルコン』は『アトランティス』の中にあった、というだけになる。


 もし、ここが平行世界から来た遺跡なら伝説上のアトランティス大陸とは別物……ということになるだろうか。


 やはり、さらなる調査が必要になる。


「……でもよ、これぶっ壊していいのか? ぶっ壊さねぇと持って帰れねぇよな?」


 紅蓮が疑問を口にした。


「いいわけないだろう、不死身猿め。想像絶する歴史的価値を持っているかもしれないんだぞ」


「あ? じゃあ、意味ねーじゃんかよ」


「すべての建物が『オリハルコン』で出来ているなら『オリハルコン』は大量にあったということだ。建物に使われていないものがあるかもしれない。それを探せ」


「まあ、計画通りみんなで調査するのがいいでショウ」


『こちら、獅子沢だ』


 全員が突入できたので、ここからは集団で調査をしていく運びだ。班はほぼ解体され、現在全員の連絡機器に獅子沢の声が届いている。


『佐渡ならびに坂巻の発見により、『導き』にある「組織を強靭にするもの」におおよその検討が付いた』


 間違いなく『オリハルコン』は『黒葬』にとって必要なものだ。通常業務もそうだが、予言にある、白と名の付く組織との戦いに役立つかもしれない。


『やることは佐渡の言う通り、ある程度手分けをして建築に使われていない未使用の『オリハルコン』を探せ。今のところ危険はないが、研究員を一人にすることはないように。油断はするな、以上』


 獅子沢がそう締め、『アトランティス』の本格的な調査が始まった。

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