第68話 遺跡の謎

 調査を開始して1時間が経過した。


 現在、燈太は静馬、空とともにピラミッド状の建物を調査している。


「ここもか……」


 静馬が、そうつぶやいた。

 みてきた限り、建物にはある物がなかった。


「なーんで入り口がないんスかね……」


 すべての建物において入り口がなかったのである。


「これは何のために作られたんですかね……?」


「まったくわからん。入れないのであれば、住居としては成りたたない。かといって、壁画や文字、そういったものもないとなると、後世に何か残すべく作られたものでもない……」


「となると、ただの芸術作品とかでしょうか?」


「そうだな……。だが、『オリハルコン』を使っていることが疑問だ。足元の道はレンガ作りなのだから、何らかの意図があるかもしれん」


「作った人は『オリハルコン』の凄さを知らなかったんじゃないッスか?」


「『UE』が発生して『アトランティス』は現れた。これを作った人間と『UE』を発生させた人間が同じであるなら、それはなさそうだが」


「うーん……。開けゴマッ!」


 空は建物に向かって、そう唱えた。


「入口とか出てこないッスかね……」


「出るわけないだろうが」


 歩いていると、しゃがみこんでいる藤乃を見かけた。


「何されてるんですか?」


 燈太は声をかけた。


「この光る苔も一応、植物なので声を聴いてみてます」


「この苔って……」


「新種です!」


 いきなり立ち上がった藤乃に燈太一歩下がった。


「有名なヒカリゴケは発光ではなく、あくまで周りの光を反射しているだけなんです! でも、この苔は自ら発光しています! 青白く! これは新種ですよ!」


 燈太が下がった一歩を藤乃は詰めた。


「そもそも、なんで光ってるんでしょうか。ホタルだったら求愛行動。深海魚は餌となる生き物を呼び寄せるため。この苔が光る理由がわからない! 研究が必要です!」


「え、えと、何か聞けました……?」


「はい、もちろん! 普通の苔と同じように光と水で空気で育っているみたいです! どこから来たのかはわかりませんが、なかなか興味深いですよ!」


 この人普通に実地調査向きでは……。


「名前つけていいのかなぁ……」


 そう言いながら、またしゃがみこみ苔の観察を始めた。


「彼女はいつもああデスからほっといて大丈夫デスよ」


「うわっ!」


 幽嶋が後ろに立っていた。


「一度集合し、情報を共有しマスよ。最初の広場に集合です」


 そう言うと、幽嶋は消えた。


 ◆


「未使用の『オリハルコン』は見つかんなかった」


 紅蓮の報告だ。


「ちなみに『オリハルコン』についてだが、俺の能力もダメだった。『オリハルコン』に触れてる状態で指を切ってみたんだが、治癒が始まんねぇ。まあ、手を離したらキズは塞がったけどよ。

 つまり、俺は触ってる間だけ治癒力が常人になっちまうってわけだ」


「紅蓮先輩も転んで『オリハルコン』に頭ぶつけたら死ぬんスね……。気を付けて欲しいッス」


「ぶつけねぇよ」


「気を付ける必要はない」


「くたばれ」


「いいから、続けてくだサイ」


 空と静馬が軽口を挟み、それを幽嶋がなだめた。

 紅蓮は静馬を睨みつけた後、話を続けた。


「あと、服とか薄いもの越しだと『オリハルコン』の特性は有効だったんだが、金属を挟んで触れると、特性は発揮されなかった」


「えーと、単に『オリハルコン』と手の距離の問題ではないでしょうか?」


 藤乃が疑問を口にする。


「いや、それはない」


『私ハイドが立ち合いましたが、しっかりと確認をしました。金属というのが重要なようです。極端な話、アルミホイルを挟んで触れても能力は使えるかと』


 そういえば、トンネルの『例の部屋』で燈太は壁には触れていなかった。しかし、あの部屋は一面が真っ青、床も『オリハルコン』である。床には靴越しに触れていた。能力を使えなかったのは納得がいく。


「俺からは以上」


『では、この私、ハイドから一つ。皆さまもお気づきの通り、すべての建物には入り口が見られません。よって、このハイドは電磁波レーダーによる建物の内部調査を行いました』


 入口がないのだから、中を知る手立てはそういう科学技術に頼るしかない。


『なぜかどの建物にも球状の空洞が存在していました。ぽっかりと』


「空洞?」


 静馬が疑問を呈す。


『はい。この空洞がなんのために使われていたのかは不明です。空洞と外界をつなげるパイプのようなものや、扉、そういったものは一切存在していませんから』


「ふむ……」


『遺跡というよりは、美術館に近いかもしれませんね』


 なぜか空洞がある『オリハルコン』製の無数の建造物。そこには入り口も何もなく、壁画や文字、そういったものも見受けられない。

 住むこともできなければ、何の情報も取得することはできない。

 美術品とするならば、空洞の存在が引っかかる。


「あ、すいません」


 燈太は手をあげて、声を出した。


「ちなみに、電磁波レーダーの原理っていうのは、電磁波の反射で中を調べるといった感じですか?」


『えぇ、そうですね』


「あ、それなら後で自分もやってみて良いですか? 反射は僕の能力で解析することができるので」


 ツチノコを探索する際、やったあれだ。電磁波は物体にぶつかると反射するわけだが、物の位置によって反射し、波が帰ってくるまでの時間が異なる。その違いを使って内部状況を把握する技術である。

 反射した電磁波は能力で把握することができる。そして、その情報の変換は能力がオートでしてくれるのだ。


『なるほど、あとでやってみましょう! オリハルコン越しで可能かという実験にもなりますし』


 来たからには何かしら役に立ちたい燈太であった。


『ハイドからは以上です』


「では、私から」


 幽嶋が名乗り出た。


「静華さん曰く、今のところ生物はそこら中に映える光る苔だけのようデス。あと、ネロはよく鼻が利きマス。彼女にも色々と調査してもらいましたが、特に気になるものはありませんでシタ」


「ざんねん」


 ネロはそう言いうなだれ、藤乃が「まあまあ」とネロを元気づけていた。


「私も能力で色々なところをみて回りマシタが、オリハルコンは見つかりませんでシタ。ま、この『アトランティス』は端から端まで数キロはあるっぽいので引き続き調査が必要デスね」


『こちら、指令部獅子沢。各々報告をありがとう。一度休憩をはさんだ後、引き続き調査を続行してくれ』


『アトランティス』の調査はまだ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る