第66話 突入!『アトランティス』(4)

 第三突入班。班員は生物課より藤乃静華、現象課より佐渡静馬、そして、坂巻燈太である。

 この三班は、一、二班により内部の安全が確保され次第突入する非戦闘員の研究チームである。生物関連は藤乃、その他のデータ解析は静馬とハイドが行うだろう。

 燈太は、専用の機器がなくとも能力を使えば身の回りの環境、気温から湿度ありとあらゆるデータを取得できる。基本的には静馬とハイドに協力する形になるだろう。


「嫌だなぁ……」


 藤乃はそうつぶやいた。


「え?」


「え、あぁすいません。独り言です……」


 心の声が漏れていたようだ。


「……いやぁ、その、シンプルに入りたくないなって……。何があるかわからないですし、私は実地調査より、暖かい部屋で研究とか……してたいと……思うんですよ……ね」


 こんな人だったっけ……? とはいえ、彼女は生物課研究班なので、普段は研究職なのだろうから実地調査に気乗りしないのはわからなくもない。通常、実地調査を行うのは生物課調査班の仕事である。

 燈太のようにわくわくするのが普通ではない。モチベーションは人それぞれである。どれが良いとか悪いとかそういうのはないと――


「おい、弱音を吐くな馬鹿たれめ。それを言ったら俺も研究職の人間だ。そもそも研究とはだな、自分の足で調査してこそだ」


「いやぁ、でも……」


「これだから、デスクワーカーは……。しゃきっとしろ」


 この班が一番雰囲気悪いのではないだろうか。いや、静馬のせいだが。


「ま、まあまあ。実際何が起こるかわからないですし……」


「そうならないよう、宇宙船にチンパンジーを乗せるがごとく、不死身猿を投下したのだろうが。過剰な心配は、かえって危険だ」


「はぃ……気を付けますぅ……」


 消えるような声で藤乃が返事をした。


「え、えーと、あっ、そうだ! 藤乃さんて、確か『超現象保持者ホルダー』でしたよね! 確か、植物の声が聴こえるっていう……」


「え、はい」


「実際、どんなことが聴こえるんですか?」


「そ、そうですね……。例えば、『水が欲しい』『日の光を浴びたい』とかそういうのが聴こえますね。この能力があると、どんな新種の植物でもとりあえず育てることができます」


「なるほど……。『アトランティス』には植物が生えてますかね?」


「ど、どうですかね……。本部室で私は『独自の生態系があるかもしれない』と言いましたけど、それは昔から『アトランティス』があった場合です。それだと、何千何万……それ以上の間、氷で閉ざされてきたということになりますから……。まぁ、その場合だとなぜ今までここを発見できなかったのか、という疑問が浮かびますけど……」


「ふむ」


 静馬が口を開いた。


「あれほどのバカでかい地下空間と建造物群……。今の今まで発見できなかったというのはやはり考えにくいだろうな。『UE』が発生し、それと同時期に発見されたことが偶然でないなら、やはり出現した・・・・というのが濃厚だ」


「仮に、瞬間移動のようなものだとすれば、移動元で生息していた生物が中にいてもおかしくないのではないでは?」


「可能性はあるだろう」


「……やはり、長期調査が望まれますね……」


「全くだ」


 ――あれ、なんか仲良くなっている……。


 やはり、研究職ということで気の合うところはあるのだろう。


「長期調査だと、安全を確認してからのんびり中へ入れたんですけどね……」


 あっ。


「まだ、言うか貴様」


「あっ! いや、その……えと」


『こちら第三突入班担当、獅子沢晴音だ。もう数分しないうちに突入となる。順番は佐渡、藤乃、坂巻で降下だ』


「……了解です」「は、はい!」「了解しました!」


 獅子沢……。確か、指令部長だ。

 それにしてもナイスタイミングだった。




 数分後、信号弾を確認し、順番通り、静馬、藤乃の順で降下していった。


『坂巻。思い切り、飛び込め。パラシュートのタイミングはこちらで指示する』


「わ、わかりました!」


 燈太は思い切り、穴に身を投げた。

 

 何が待つ。この『アトランティス』に何がある。


 降下数秒後、左右は開け、天井が見えた。そこには青白く発光する苔が生えている。直下には古代遺跡ともいうべき光景。


 幻想的な光、美しい建造物群、息を呑む光景だろう。


 しかし、燈太は一つの考えに支配された。


「あれ……どこかで……。気のせい……?」


 その考えが浮かんだのは無数に並ぶ建造物群を見た時であった。建造物は、一つ一つ造形が異なっているがある共通点が存在している。

 色だ。鮮やかな青色。

 建物に見覚えがあるのではない。

 あの『青』にひっかりを感じた。

 

 建物を作っている青色の素材。多分、石材。

 あれをどこかで……。


『パラシュートを開け』


「は、はい!」


 パラシュートを開き、速度を落としながら、地面へ落ちていく。

 どこだ。どこでみた。

 青色。

 建築物。


 ――青色の壁。


「……あ、あぁ、そうだ……!」


 着地すると、燈太は駆けだした。

 向かった先は、燈太より先に降りた静馬・・の元へである。


「し、静馬さん!」


「あぁ……」


 静馬も理解、いや思い出した・・・・・ようだ。


「こ、この建物を作ってる青色の素材って」


「似ている……」


 そう、あまりにも似ているのだ。




「あのトンネルの中で見た部屋の壁と……あまりにも」




 静馬と燈太で調査をした幽霊トンネル。

 トンネルの壁の中には部屋があり、その部屋の壁は真っ青だった。

 みたこともない材質で出来た壁。


 2人はトンネルの中で多くの超常現象に遭遇した。

 その超常現象を考察していく中でたどりついた『真っ青な壁』についての見解。


 それは、


 あの『真っ青な壁』が『超現象保持者ホルダー』の能力を無効化し、『UE』による超常現象を一切受け付けないというものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る