第65話 突入!『アトランティス』(3)

『第二突入班担当の時雨沢カレン……です』


 班員は、対人課から狐崎空、生物課よりネロと巨大な狼のシールで構成される。二人と一匹である。


「無事で良かったッス!」


『一応ね……』


 空は何度かカレンにオペレーターを担当してもらっているし、歳が近いのでよく話かけている。だから、声色でわかった。

 カレンは怯えている。

 多分、あっちで相当怖い想いをしたのだ。

 カレンは16で空は18。一応お姉さんだ。


「もうちょっとの辛抱ッス」


『? 何がもうちょっとなのよ』


「帰ったら『極夜の魔術団』はうちらが何とかするッス……! 絶対!」


『狐崎……』


「……あ、寂しくても泣いちゃダメッスよ?」


『泣かないわよ!』


 空は、イヤホンからの大音量で耳がキーンとなった。


『ったく……。信号弾が上がり次第突入するんだから、おとなしく待ってなさい』


 カレンはそう言い、通信を切ったようだ。


「すーぐ怒るんスよねぇ」


「カレンとは仲良し?」


 ネロである。


「カレンちゃんスか? 大事な友達ッス!」


「トモダチ、いいコト!」


「まぁ、もっと仲良くしたいんスけどねー」


「? もう仲良さそう」


「そうッスか?」


 なんだか、カレンに苦手意識を持たれているような気がしなくもないのだが、ネロからはそうは見えないらしい。


「へっくち」


 ネロはくしゃみをした。


「寒い……」


 ネロはシールに近づき、ふかふかの毛の中に顔をうずめた。ネロとシールは『リンクバーグ島』という島出身らしい。シールのような珍しい生き物がいた島と聞いている。

 ネロは褐色の肌をしているし、島は南の方にあるんじゃなかろうか。であれば、この寒さは空達よりも辛いだろう。

『アトランティス』内部は少しくらいマシな場所だといいのだが。


 ◆


 指令本部室。

 カレンが『第二突入班』を担当している。この班は『アトランティス』内部になんらかの危険があることを想定して、研究員を投入する前に内部での戦力をあげる意図がある。

 つまり、『第二突入班』は戦闘員である。

 空は対人課としてバリバリの戦闘員。

 ネロとシールだが、数回オペレーターを担当したことがある。

 まず、ネロはとても鼻が利く。そして、野生の勘ともいうべきか危機管理能力が高く、そこに関しては執行部トップクラスと言って過言ではない。

 相棒のシールの方はというと、狼のような鋭い牙を持ち、身体の大きさはライオンより一回りほど大きい。それでいて、ネロの言うことには従順であり、極めて知能も高い。

 生物課調査班の任務である危険生物の生け捕り、駆除のどちらにも対応できる優秀なコンビである。


 コンビ……。少しあこがれるものがある。なんとなくだが。


「カレンちゃん、第一班は問題なしよ。信号弾を現地で確認できたなら順次突入で」


 一班担当の葛城だ。


「了解です」


 ふう、とカレンがひと息ついていると


『――カレンちゃんスか? 大事な友達ッス!』


 そんな通信が聴こえてきた。指令部からのマイクは指示の混乱を防ぐため、切っていたがあちらのマイクはオンになっているようだ。


「……聞こえてるっての」


 カレンは、人と仲良くするのが苦手だ。

 カレンは小さい頃から自分で何でもできた。大学も飛び級で卒業した。

 その結果、他人への頼り方、他人との距離感、友達の作り方、そういったものを学ぶ機会がなかった。

『黒葬』に所属してからは、職場に自分より優秀な人間があふれていたことや、自分ではうまくいかないことが増え、ある程度成長しているとは思う。それでも、苦手なものは苦手だ。

 もう少し正直になりたいとは自分でも思う。


『あ、カレンちゃん! 信号弾上がったッス!』


「了解。まず、狐崎から降下。ネロは待機で」


『行くッス!』『はーい』


 小型カメラからあちらの状況はリアルタイムで確認できる。狐崎は『アトランティス』へ飛び降りた。


「……ありがと」


 これは先ほど、気を使ってくれたお礼だ。励まされているのは、カレンでもわかった。


『へ? なんか言ったッスか??』


「パ、パラシュート!」


『え、あ、了解ッス!』

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