第59話 揺れる少女(1)
春奈は倒れている福田を見た。
「これで全部終わりだ……」
復讐も。
因縁も。
『黒葬』にとってこいつは敵意を持った侵入者だ。正当防衛。殺して誰かに文句は言われないだろう。
責務と私情が重なっている。
覚悟は決めた。
拳を握る。
「ガハッ!」
福田が急に痙攣し、身体がはねた。
突然の出来事に衝撃波を放つのではなく、一歩飛びずさり、構えてしまった。
「……待ってくれ」
福田は苦しそうに声を出した。
蹴りのキメが甘かったか、意識が福田に戻っていた。
動かれる前に殺すべきだ。
「ッ?!」
その時、『共鳴』を感じ、身体に異変があった。急に力がみなぎってきたのである。
「今、……君に『器』ごと力を渡した。これで、僕、……いや
『器』というのはわからないが、確かに衝撃波を撃つために使っている『UE』が増えていることが直感的に理解できる。しかし、どういうつもりなのか。
明らかに口調や雰囲気が違う。演技? いや、そんなチャチなものでないような気はする。
「ぐッ!!!」
春奈は福田の腕にかかと落としを決めた。
「動いたらその場で殺す。……遺言ならさっさと言え」
春奈は、ただ冷たくそう言った。
「はぁ……はぁっ……。俺は多重人格者なんだ」
多重人格者。
そういえば、先ほどそういう素振りを目にした。
「はぁ?」
春奈は福田の顔面を蹴りつけた。
「だからなんだッ?! じゃあ、何か? 俺のせいじゃないって?! ふざけんな!! お前さえいなけりゃ、私は……ッ! お父さんもお母さんもッ!!」
「そ、そんなことを言うつもりはない……ッ!」
床に這いつくばり、鼻血を流しながら福田は春奈をみた。
「今、人格を一つに統合したんだ……。俺がどんなことをしてきたのかすべて理解した。すべては俺の責任だ……。
――君とご両親には本当に……謝っても謝りきれないほどに悪いことをした……。本当にすまなかった……」
春奈は更に顔を歪め、続いて福田の腹部を思い切り蹴り飛ばした。
「げほっ……」
無意識のうちに力を使っていたのだろう。福田は壁へ激突した。
「謝るな……、謝んなよッ!! ふざけんなッ!! なんだよ……っ。死ねッ! 何が多重人格だ!! 死んじまえッ!」
「俺は……罪を償いたい……。死刑でもなんであっても受け入れる……。ただ、できることはしたいんだ……」
福田は、血を吐きながら弱弱しい声でそう言った。
「『極夜の魔術団』と『白金遊戯の会』について全部知っていることを話す……」
「ッ!!!!」
今の言葉が更に春奈を苦しめることになる。
ここまでは、福田に対して憎悪の思いはあれど「殺さなければ殺される」という自己防衛、『黒葬』にとって排除すべき相手という一種の使命感、大義名分が存在していた。復讐をしてはならない、すべきでないという良心を殺しておくことができた。
しかし。
春奈は理解した。
もう、
相手は完全に無力だ。能力を失っている。
それでいて、『黒葬』について有益な情報を話すというのだ。
『白金遊戯の会』というのはともかく、『極夜の魔術団』というテロ組織があるのは対人課で聞いている。
殺すのは『黒葬』にとって間違いなく不利益。
ここからの殺しは完全なる私情。
――だが、それを知るのは自分だけである
現在は連絡系統が死んでいる。今の会話は聞かれていない。もし、福田を殺したとしても誰も春奈を責めることはできないだろう。
良心と、『黒葬』に身を置き、調から聞いた紅蓮の話。
全ての要因が春奈を苦しめる。
春奈は涙を流していた。
「何でッ……。私だけ……ッ、こんな苦しい目に合わなきゃいけない……っ」
「……勝手なことを言っているのはわかっているんだ」
福田はそう言い、両腕をあげながら、壁にもたれかかった。
「もし君が、どうしてもというなら殺せ……」
福田は、春奈を見つめた。
「俺にはそれを止める権利も、今となっては止める力もない……」
春奈は、顔を歪めながら福田を見る。
「ただ、それでもッ……! 罪を償わせてほしいんだ……。できることをしてから死にたい……」
春奈は福田へ一歩足を進めた。
「……」
福田は目を閉じた。
――突然、スマホから着信音が鳴った。
このタイミングで連絡系統が復活したのだ。
耳障りな音を止めようと、スマホを出し、電源を切ろうとした。
しかし、画面を見て、電源を切るのをやめ電話にでた。画面に表示されていた発信者。それは
『俺だ!
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