第57話 因縁は血に染まる(3)
拳が当たる直前、インパクトの刹那、福田の身体が不自然に下がった。
――あれを避けれるはずがッ!!
タイミングも完璧だった。
――まさかッ!!
跳弾。
春奈が直進した時、その身に受けた弾性弾。あれが春奈の身体で跳ね返り、拳が直撃する刹那、福田の身体を後方へのけぞらせたのだ。
ここまでで多くの弾が跳弾していた。それが福田の方へ飛ぶようなこともあった。それを避ける動作はなかったことから、通常、弾は福田に影響を及ぼさないと考えて良い。
――もし、そのオンオフが切り替えれたとして、あの状況でッ……?!
「テんメェ……!」
福田は吐血した。
確かに直撃はしなかったものの、あれは無傷じゃすまない。こちらを鬼のような形相で睨みつけていた。
「うっ……!」
春奈も無事ではない。
真正面からクリーンヒットした弾性弾は、恐らく春奈の肋骨をへし折った。
春奈の呼吸は浅く、苦しいものとなっている。
両者は肩で息をしながら、にらみ合う。
お互い、手を伸ばせば相手に届く距離。
春奈も福田も、相手の命を奪うことができる即死技を携えている。
――もうどうしようもない間合い。
それを理解し、2人は動かない。
動けば、両者、少なくとも片方は死ぬ。
春奈は笑った。
「……笑うの……やめたの?」
「……負けらんねぇ」
福田が笑うことはなかった。
「負けらんねぇんだよ……。
福田はぼそぼそと呟いた。
まるで自分に言い聞かせるように。
「負けられない……?」
その言葉が春奈に火を付けた。
――負けられないのは
春奈は深く息を吸った。
「俺は負けらんねぇンだよォォォ!!」
「お前には負けられないッッッッ!!」
両者が同時に動いた。
春奈は思い切り前に右足を踏みだし、右腕を前へ出す。
福田は腕を動かし、春奈に照準を合わせる。
福田は腕から散弾を放ち、春奈は衝撃波を放つ。
福田はもちろん春奈に向けて撃った。
――しかし、春奈は福田へ向けては撃たなかった。
春奈の出した右の手のひらは福田へ向いてはいない。
先ほど前に出した右足は、踏み込みのためではない。
春奈の右方へ放たれた衝撃波は壁に当たり、その反作用で春奈は右足を軸とし、右腕から左へ向かって半回転した。
よって春奈は半身になり、福田が放った散弾は虚しくも空を切った。
「なッ!!」
しかし、ここでは終わらない。春奈のこのターンは回避行動ではないからだ。
回転の勢いを殺さないまま、もう半回転。
その時、左足は地面を離れていた。回転の勢いをのせた左足は、福田に向かい高度をあげながら伸びていく。
つまり――
「がはっ!!!」
ハイキックである。
その威力は福田の脳を揺らすには十分だった。
なぜ、その攻撃手段を選んだのか春奈は自分でもわからなかった。
勝つイメージとして、自然と思い浮かんだのがこの
殺せるようなものではない。まるで殺すことを良しとしないような攻撃手段である。
――あぁ、あの時か……。
紅蓮と初めて会ったあの日、春奈の意識を刈り取った決め手であった。
「……チッ」
紅蓮からは、
よろけ、呻きながら福田は倒れゆく。
演技ではないと思うが、気を抜かずそれを春奈はそれをみていた。
福田はぐったりと倒れた。
春奈は福田を見下ろした。
この時をずっと待っていたのだから。
両親の無念を晴らす、この時を。
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