第56話 因縁は血に染まる(2)
「はぁ……はぁ……」
殺り損ねた、と春奈は舌打ちをした。
突如として襲ってきた痛みで少しばかり威力が落ちたのだ。とはいえ、どてっ腹に直撃したのは事実。福田のあばらが二、三本折れていれば助かる。
春奈は、腰をさすった。
角度的にも間違いない、避けたはずの散弾が壁で跳ね返り春奈を背後から攻撃した。
初弾、春奈は避け損ね腹部にキズを負った。多分、弾数としては2発ほどがヒットしたのだと考えられる。残りの弾は壁に当たったわけだ。しかし、その弾は跳弾していない。
よって福田は、跳弾する弾性弾と威力の高い貫通弾を使い分けている。
先ほど受けた弾性弾の被弾箇所から血は出ていない。つまり、跳弾する弾性弾の場合は貫通弾ほどの威力がないということになる。
この弾性弾なら衝撃波でガードすることができかもしれない。しかし、貫通弾と弾性弾を見て区別することは無理だろう。下手にガードして、それが貫通弾だと致命傷になる。
――厄介……。
「根性あんなァ」
腹を抑えながら、福田が立ち上がる。
軽く呻いているところを見ると、やはり無事じゃない。
ダメージレースではこちらが優勢だ。
「でもな、被害者遺族ちゃん? 遊びは終わりだぜェ」
福田は両腕を前に出した。
――両腕から同時に撃てるのか……!?
「ほら行くぞ?」
『共鳴』によって、同時に前方二か所から『UE』が放たれたのを感じた。ブラフではなく、両腕から散弾を放っている。
春奈は姿勢を低くした状態で前へ転がりこむ。これで、弾の軌道からは外れた。すかさず、春奈は腕を振り、福田の首と胴体を切り離すべくかまいたちのように鋭い衝撃波を放つ。
福田は、上体を後方へそらし、衝撃波を見送った。その姿勢のまま、福田は再び両腕から弾を放つ。春奈は次は左方へ飛び、弾を躱――
「うぐっ!」
先ほどの両腕から放たれた散弾のうち片方は、弾性弾だったらしい。散弾が背後から春奈に喰らいついた。痛みに呻き、福田の追撃に反応が遅れる。
左方へ飛んで避けきれたはずの弾が、右肩に被弾した。激痛が走るが、血は出ていない。貫通弾でなかったのが幸運だった。
――このままじゃ、駄目だ……。何か……、何かないか……?!
イチかバチか、飛び込む?
アイツに負けるのだけは、絶対に嫌だ。
死んでも死にきれない。
負けるのだけは……。
『負け』
春奈の頭に思い浮かんだのは、紅蓮だった。
最初に紅蓮に会い、負かされたときを思い出したのだ。あの時、紅蓮は春奈の攻撃を優れた身体能力でかわし続けた。壁を蹴り、縦横無尽に飛び回って。
それは避けるだけでなく間合いを詰めるための攻防一体の動きだった。
トレーニングルームで紅蓮と模擬戦をしたとき、能力を足元に撃ち、大きく飛んで間合いを詰めた。しかし、これは極端すぎて紅蓮にいともたやすく対処されてしまったのを覚えている。
怒りに身を任せてはだめだ。
怒っているからこそ、復讐を成し遂げたいからこそ。
――紅蓮先輩、ありがとう。
春奈は、左方へ飛ぶ勢いを殺さず、足から壁へ激突した。
福田はそこに向けて、弾を発射した。
――殺しの
春奈は壁を思い切り蹴った。それと同時に下方へ向けて衝撃波を放ち、天井へ向かい加速。福田の散弾は空を切る。
次は天井に衝撃波を放ち、急降下。ワンテンポ遅れて、福田の散弾が天井に当たり破片がパラパラと春奈の頭に落ちてくる。次は右へ、左へ。
福田が狙いを定める頃にはもう春奈はそこから動きだしている。
「ちょこまかと!!」
少しずつ間合いを詰める。
先ほどから弾性弾がいくつか春奈に当たっている。致命傷にはならないものの痛みは激しく骨折も考えられる。長くはもたない。
それでも痛みに耐え、四方へ飛び回り、福田を攪乱し、距離を詰めていく。福田の顔には焦りと苛立ちが浮かび始めた。
「うざってぇなァ!!」
春奈は着地し床を蹴った。今度は上でも右でも左でもない。
一直線。
福田に向かって駆けたのである。
既に福田は春奈に向かって散弾を放ってた。このまままっすぐ福田に向かえば、春奈に散弾は命中する。
しかし、春奈は避けようとはしなかった。
「ッ!!」
春奈に散弾が当たる。
被弾箇所は身体のど真ん中。貫通弾であれば即死は免れない。
「――あんだけ、飛んで跳ねてればそりゃ弾性弾を選ぶよなァ!!!」
被弾したのは貫通弾ではなく弾性弾であった。
春奈は間合いを詰めるだけのために、飛び回っていたのではない。
福田に
無規則に駆ける春奈を貫通弾で捉えるのは難易度が高い。よって福田からすれば弾性弾を撃ち、徐々に削るのが得策と言える。事実、春奈は弾性弾でかなりのダメージを負った。
飛び回ることで福田は貫通弾よりも弾性弾を優先する。それを狙っていたのだ。
しかし、あくまでも『優先』。貫通弾の可能性もあった。
賭け。
その賭けに、春奈は勝った。
――即死さえ免れれば、一発叩き込めるッ!!
「なッ!!!」
春奈は福田の目の前に着地した。
拳を強く握り、そこに衝撃波をのせる。
紅蓮に当てた時は、私は人を殺めてしまったのだと後悔した。
しかし、あの時の迷いはない。
頭に父と母の顔が思い浮かぶ。
奪ったのはコイツだ。
殺したのはコイツだ。
コイツは生きてるべきじゃない。
「死ねッッッッッ!!!!!!」
春奈は全身全霊を込め拳を福田の
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