第55話 因縁は血に染まる(1)
春奈は迷い続けていた。
自分のしようとしている
「……は?」
指令部から指示で、春奈は受付へ向かっていた。
このとき、既に調は『barBLACK』へ着いているはずだ。というのも、春奈と調が離れることで、対人課オフィスは空になる。そのため、優先度が高い入り口担当の調を先に行かせ、春奈はオフィスを空ける準備をしてから向かった。調を少し遅れて追う形である。
受付へ続く廊下を進み、そこにいた男――福田薫――をみて春奈は唖然とした。
春奈の迷いの先。そこへ至るまでにまだ時間がある。決断はまだ先の話。
――そう考えていた。
突然現れた因縁の相手。
次の瞬間には、春奈の中から迷いは消えた。
「福田ァアアアアアアアア!!!」
腕を地面に対して垂直方向に振り、能力を使う。鋭い衝撃波が福田へ向かい飛んだ。
「なんだテメェ?!」
福田は何かを察知したのか、大きく飛んだ。
殺り損ねた。
「ぶっ殺す!」
「はぁ?! サイコパスか???」
ブチッと頭の血管が数本逝った。
感情に任せ第二波を撃とうと思った矢先、福田はこちらへ手を向けた。その瞬間、あることが脳裏をよぎった。
――同じ能力……?!
それは直感か。……いや、葛城あたりから説明を受けたことがある。
『共鳴』。
同じ性質の『UE』を前にすると自分の『UE』が反応し、直感的にそれを感じ取ったり何か影響を受けるというやつだ。
『共鳴』という未知の感覚は沸騰寸前の頭を幾分か冷やした。
春奈は横っ飛びしながら、前に向かって広範囲の衝撃波を撃ちだした。同じ能力なら威力に大きな差異はないはず。最悪避けきれずとも打ち消せる。
そう考えた。
「クッソ……!」
福田の攻撃は春奈の衝撃波を貫通し、そのまま春奈の腹部を掠めることになった。少し遅れて痛みがやってくる。
「うおっ!」
福田は春奈の放った衝撃波にぶつかり後ろに倒れこんだ。
春奈は腹部に手を当てる。手には血が付いていた。
――押し負けた……!
同じ性質の能力ゆえに、福田の力も目には見えない。しかし、『共鳴』によって福田飛ばしている力を感じることができた。
福田のそれは散弾。貫通力のある小さな弾をいくつも――多分、10発前後――同時に放っている。
春奈の能力の衝撃波は面積に反比例し威力が下がる。大きな衝撃波を撃てば、威力は低くなり、小さくすればかまいたちのような鋭さを持つのだ。
この「面積に対し、威力が反比例する」という法則が福田の能力でも同様とするなら、極々小さい面積の弾を数発同時発射するというのは相当な脅威である。
春奈は衝撃波を一度に複数放つことはできない。
よって、大きな衝撃波でガードするしかないのだが、それがこのありさま。福田の散弾は能力によってガードすることはできない。
しかし――
「ぶっ殺すには、問題ナシッ!!!」
もし、福田が散弾でしか力を放出できないとしたら、攻撃をガードできないのは福田も同じである。
春奈は構えた。
それに対し、福田はへらへらと笑いながらゆっくりと起き上がった。
「感じたぜェ……。てめぇも『魔力』を撃てんのか」
「『魔力』……?」
「まぁいい。てかお前誰なんだよ。知ってるやついるか?」
「……誰に聞いてんのさ? イカれてんの?」
なぜか一瞬で福田の笑みは消え、何か悲しそうな顔に変わった。
「お前が殺した両親の娘だ。裁判の時みたろう?」
そういうと福田の顔から悲しみは消え、また気色の悪いしたり顔へ戻った。
なんのつもりかは知らないが、いちいち勘に触る。
「そうか、復讐ってやつかァ? なるほどなぁ」
「思い出した? あんたは私のお母さんもお父さんも殺し、挙句、刑務所からも逃げだした。だから、私がここで殺す」
「……あぁ、そうだ! 思い出した! お前の母親が死に際こんなこと言ってたぜ」
春奈は目を見開いた。
「あー、なんだったか……。確か――」
次の瞬間、福田は手を春奈に向け、散弾を放った。
「ッ!」
春奈はまた横に飛んだ。
「言ってても覚えちゃいねーよ、バァカ!! テメェも俺に遺言は期待すんなよな!」
「クソ野郎がアァァァァァァァァ!!」
春奈はこのとき、同じミスは犯さなかった。放つ衝撃波は足元へ。
能力をガードに回さず、避けることに能力を行使した。
「ほんとッ! クソッ! 死んじまえ!!!」
散弾を躱しきると、受け身を取り体勢を立て直す。そして、地面と平行に鋭い衝撃波を足狙いで放った。
福田はそれを、ジャンプし避ける。
福田も『共鳴』の恩恵か、見えぬ攻撃をうまく避けた――つもりだろう。
「バーーーーーーカ!!!」
春奈は拳を握りしめ、ジャンプし無防備な福田に向かい衝撃波を放とうと腕を振りかぶる。衝撃波は拳より二回りほど大きいようなサイズにした。この大きさならまともに当たれば、ただでは済まない。
このとき、春奈が振りかぶり攻撃を行おうというにも関わらず、福田は笑みを崩さなかった。
衝撃波を放つ直前、背後で『共鳴』を感じた。
「がッ……は……!」
腰より少し上あたりを思いっきりぶん殴られるような衝撃。
背後から飛んできたことを考えると、
――跳弾したのか!!!
しかし、
「止まるかッ!!!」
痛みをこらえ、腕を振り切る。
「グハッ……!!」
福田は吹っ飛ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます