第42話 重なるハプニング

 黒葬本社。


『では、開けますよー』


 ハイドからの通信が聴こえる。

 南極にいる『アトランティス調査隊』は今まさに、『アトランティス』突入を試みているところだった。


「――葛城さん! 都内で『UE』反応です!!」


 指令部の一人が声をあげた。


「?!」


 葛城はいったん『アトランティス調査隊』とのマイクを切る。

 国内の指示との混同を防ぐためだ。


「そ、それも二か所です!」


「勘弁してよ……」


「どうします?!」


 カレンが指示を求める。


「――鑑心、遊佐を向かわせろ」


 険しい目つき、黒く長い髪を持つ、妙齢の女性が口を開いた。

 彼女は指令部長の獅子沢ししざわ 晴音はるねだ。


「今回は二か所で『UE』反応なんだろう? 偶然とは考え難い。一か所に絞って腕利きの二人を向かわせるべきだ」


「りょ、了解しました!」


「対人課にはあと、調と新人がいたな、そっちは待機だ」


 獅子沢は普段、課長のオペレーターをしている。今回の『アトランティス』の調査においても作戦の考案を行い『第三突入班』の指揮を執る予定だった。

 それほどまでに優秀な部長だ。

 このハプニングにおいてもその能力は全く衰えない。


「カレンちゃんは南極の指示へ戻って! 私は飛鳥君たちに指示を出す!」


「わ、わかりました! あれ……?」


 カレンが固まった。


「カレンちゃん?」


「連絡取れません……っ!」


「何だと?」


 獅子沢の顔が一段と険しくなった。


「南極どころか通信ができなくなっています!」


 停電はしていない。

 ここは地下だ。地中にある通信環境を整えているケーブルに何か問題があった可能性も考えられるが……。


「……部長、これは二か所の『UE』観測と関係が……?」


「……タイミングとしてはそうだろうな。鑑心、遊佐を早く向かわせろ。作戦変更だ。もう一か所は、に任せよう」


?」


「すぐ来るさ」


 獅子沢の言うことを理解できない葛城だったが、


「――ドーモ」


 突如として、幽嶋 れいが現れたことでその意図を理解した。

 幽嶋は能力で瞬間移動ができる。通信が切れたことに気づき本社に戻ってきたというわけだ。


「来ると思っていた」


「来ますトモ」


「麗、通信機器が死んでるのはここだけか?」


「? ……あぁ、ナルホド。相変わらず、人使いが荒いデスねぇ」


 幽嶋は消え、数秒後にまた姿を現わした。


「本社だけですねー。外では普通にスマホ使えマシた」


 本社だけ電波が届かなくなっているということか。


「ふむ……」


「ここ結構特殊な場所にありますからね……」


「……本社が電波妨害を受けている可能性もある」


「こ、『黒葬』に電波妨害ですか……?」


「いや、あくまで可能性だ。ここの正確な場所は地下ということ以外社員ですら知らないんだ。『UE』の影響でケーブルやらに異常が発生したという方が遥かに現実的だ」


「どう……します……?」


「なんにせよ、『UE』の方は動く他ない。麗は単独、遊佐は鑑心とペアで『UE』観測地にそれぞれ向かえ」


「了解しました」


「葛城、遊佐と鑑心には細心の注意を払うよう伝えろ。今のところこっちと連絡が取れないからな」


「……私は細心の注意とやらを払わなくて良いんデスかね」


「言わなきゃできないようなら課長は遊佐に譲ってやれ」


「テキビシー」


「カレン、麗に場所を教えてやれ」


「は、はい!」




 葛城は飛鳥と鑑心のいる対人課オフィスへ向かった。


「電波が飛んでいないようだが? 大丈夫なのかね?」


 オフィスについてすぐ、調にそう聞かれた。


「都内で『UE』が観測されたんですけど、多分その影響かと思います。その観測地点に飛鳥君、鑑心さんの二人向かってもらえます?」


「了解です!」「――うィ」


「私は?」


 春奈だ。


「春奈ちゃんは留守番。今回は飛鳥君の能力が一番手っ取り早いの」


「りょーかいでーす」


「飛鳥君。連絡が取れなくなっているから、無理はせずにね」


「お任せください! 撤退には自身あるんで!」


 鑑心は立ち上がると、オフィスのロッカーへ歩いて行った。


「――今日はコイツかァ……」


 ゴルフバッグを取り出した。中に入っているのはスナイパーライフルである。


「リボルバーじゃァ、届かねェ・・・・もんなァ……」


「届かない……? なんでです?」


 春奈が疑問を口にした。


「狙うのがよォ、上から・・・だからなァ」


 鑑心はそう春奈に告げたが、春奈はまだ首をかしげていた。

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