第43話 ガンマンインザスカイ
対人課の鑑心、生物課の飛鳥は地上よりもはるか高く、雲の上にいた。
飛鳥は『
正確に言えば、自身に対する重力の操作である。重力加速度を下方でなく上方へ作用させることで飛び、方向転換もそれを用いて行う。
そして、自分と同程度の重さかつ触れていれば、自身以外にも能力を行使できる。
飛鳥は鑑心の後ろから胸あたりに腕を回し、飛んでいた。
もちろん、人にみつかってはまずいので最大限高く、雲に隠れながら移動している。
「風が強ェなァ」
「確かに、そうですね。やっぱ狙いにくいもんですか?」
「視界も悪ィしなァ」
今日は曇りだ。もし鑑心が発砲するとしても、ある程度下降する必要はあるだろう。
空に人が浮いているのはどうあがいても目立ってしまうため、あまりしたくはない。
「あ、そろそろですっ!」
「了解ィ」
本社を出てからはスマホなどの通信機器を使うことができるようになっていた。
スマホで確認すると『UE』を観測した場所はこのあたり。
飛鳥の直下は今現在使われていない米軍基地だ。『UE』の正体が何にせよ人気が少ない場所で良かった。
「ガン爺さん! どうでしょう? こっから見えますか?」
鑑心はスナイパーライフルに取り付けられた。スコープを覗いた。
「いンや、雲で見えねェ」
「じゃあ、高度落としますか!」
「……指示したら上昇」
「へ?」
「俺が言うまで落下させろォ。指示したらすぐにこの高さまで上昇せえ」
「わ、わかりました!」
飛鳥は指示通り、重力を下向きに、つまり正常に作用させ自由落下した。
鑑心はずっとスコープを覗いたままだ。
「上げろォ」
鑑心の声を聴き、上昇する。ほんの数秒である。雲を抜けるか抜けないかのギリギリですぐに上昇した。今ので見えたのだろうか。飛鳥にはほとんど何も見えなかった。
「見えました?」
「……ありゃ、なんちゃらの魔術団だなァ」
「『極夜の魔術団』ですか?!」
『極夜の魔術団』はテロリストだ。葛城からもしかしたらということで説明は受けていたが、本当に自分が関わることになるとは思いもしなかった。
彼の専門は飛ぶ類のUMAの捕獲である。
「真っ赤なフード被ってンのはあいつらくらいだろうよォ。人数は6だな」
「ど、どうします?!」
「どうって、そりゃァ……」
鑑心はライフルを構えた。
元々、『極夜の魔術団』とドンパチする許可はおりていた。指令部と連絡がつかずとも問題はない。
鑑心は間違いなくやる気だ。
「えと、もう一度下降しますよ」
「いらねェ」
「え?! ここからじゃ、見えないってさっき……」
「降りると、撃った後場所が割れちまうだろォ。だからここで良い」
鑑心はスコープを覗いているが、目の前には雲しかない。確かにあちらから見えるのは問題だが、当たらないなら意味がないのではないか。
「先の下降で位置は確認した。まだ覚えてらァ」
「ほとんど一瞬でしたけど?!」
「――舌噛むなよォ」
発砲音。
鑑心を抱えているため反動が飛鳥にも伝わる。
「左に3m移動」
「あ、はい!」
目測で3mほど動く。
「次弾」
動いてすぐに鑑心は再び発砲した。
「前方に3m」
「はいぃ!」
発砲。
「あ、当たってるんですか?!」
「知らね」
「えー!」
「ほれ、左に3mァ」
◆
「?!」
地上。
儀式のため『陣』を生成していた時、いち早く奇襲に気づいたのはシャルハットだった。
「どうした」
その場にいるのは『暁部隊』からは『暁の2』『暁の3』
『黄昏部隊』からは『黄昏の1』、そして『黄昏の2』のシャルハット。
『白金遊戯の会』から、木原、篠崎である。
「……銃撃されてますねぇ。ほら」
シャルハットの魔術『
陣を生成中の『暁部隊』の二人、おまけに『白金遊戯の会』を守る形で行使しておいて正解だった。
「どこからだ」
激突音のすぐ後にカランという音が響いた。
二発目である。
「……上からっぽいですねぇ」
「見えるか?」
「ぜーんぜん」
ヘリやらなにやらの音はしない。『黒葬』の『魔術内包者』が飛び、上空から銃でこちらを狙っているのか。
それにしてもかなりの腕だ。一発目を弾いた場所の直線上にはシャルハットの頭があった。
二発目はシャルハットの真横。
一発目の正確さからすると二発目は誤射ではない。シャルハットが狙撃され倒れた時、それに駆け寄った者を仕留める弾だろう。
「こりゃ、ガッツリ
しかし、今の狙撃からこちらが完璧には見えていないことはわかった。
「どうしましょ。『
「お前の
「まさか。魔力切れもあり得ないですね。あっちの弾切れが先じゃないです?」
「……なら、ほっとくか。本命はこっちじゃない」
「ですねー」
本命。それは現在進行形で行われているであろう『黒葬』の本社強襲だ。
『黒葬』側の連絡手段は断っている。よって上空に潜むスナイパーは本社が攻撃されていると知らないはずだ。本社強襲組のため時間を稼ぐのが得策だろう。
「ま、降りてきたらこっちも手を出しますけど」
「当たり前だ」
銃撃は止まない。
「……シャルハットさん」
「どうしました、木原君」
「この壁以外の魔術は使えないんですか? 使えるならそれでなんとかなりませんかね?」
「使えることは使えますけど『
邪魔者を処理する『黄昏部隊』の隊員はそれぞれひとつの極めた戦闘用魔術を持っている。
各々、鍛錬を重ねたことで、魔力の変換を最小にとどめ、詠唱の短縮化を実現した。シャルハットの『
すべての物理攻撃を弾く究極の盾。本来ならば莫大な魔力と長文の詠唱を伴う。
「じゃあ、彼に任せてみては?」
「彼?」
木原が指さすは、篠崎である。
「俺ぇ?」
「君は魔力を使ってナイフを飛ばせるだろ? 狙えない?」
この射程で、見えない相手に攻撃を仕掛けるのはどう考えても無駄だ。届いたとしても当たらない。
「やらせて良いです?」
「勝手にしろ」
とりあえず『黄昏の1』から許可は下りた。
「じゃ、どうぞ」
どうせ減るのはせいぜい篠崎の私物のナイフだ。
「いいねぇ。人だろぉ?」
「ま、人じゃない?」
「鳥に当てたことはあるけどよぉ。飛んでる人に当てんのは初めてだなぁ!」
「だろうね」
篠崎は木原と会話したあと、懐からナイフを取り出した。
「魔術師さんよぉ。的はどっちだぁ?」
シャルハットは指を鳴らした。
弾丸が直撃した『
「あんがとよ」
「ちなみにですけど、投げてる際にあなたを守る壁は消えますので、撃たれても自己責任ということで」
「そっちの方がスリルあんなぁ!」
篠崎は大きく振りかぶる。
「オラァッ!」
ナイフは一直線に空へ向かう。弾の軌道にかなり正確だ。
「……サーカスにでも就職しては?」
「そしたら人に投げれねぇじゃんかよぉ!」
篠崎は笑い、シャルハットの近くを離れた。もう『
勝手にやらせておこう。討ち落としたらラッキー、撃ち殺されたらアンラッキーだ。
篠崎は弾丸が飛んできた軌道に沿ってナイフを投げ続けた。
◆
「……鑑心さん?」
発砲後すぐに指示をだしていた鑑心だったが、今回はなぜか指示を飛鳥に出さない。
スコープからも目を離した。
「……50m右」
「ご、50?」
「急げェ!」
鑑心が初めて声を荒げた。最高速で移動を開始する。
動き始めて二秒ほど。何かが雲を貫いた。
「いんなァ」
「な、なにがですか?」
続いて二度ほど何かが雲を貫く。
「な、ナイフ?!」
「下からこっち狙ってンなァ」
少しの誤差はあるものの、銃撃をしていた位置に向けてナイフが飛んできている。
「ど、どうしましょ!」
「あー? ナイフ投げてくるってぇことは、死んでねェってことだァ」
「そ、そうなりますね!」
「でェ、ナイフ投げてきてるからよォ、下降しなくともだいたいの場所はァ掴める」
「つ、つまり?」
「喧嘩売られちゃァ買うよなァ?」
「やっぱり!」
「右に3メータァ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます