第32話 これからのこと
「私は、『黒葬』執行部対人課の慶蝶調という」
「よろしくお願いします」
「まず、君の名前は?」
「月野春奈」
「ほんとに?」
「え、はい」
「ふむ。能力に目覚めたのは今月なのかね?」
「はい」
「君はどこかからのスパイだったりするのかね?」
「……は?」
「冗談だ」
「はぁ……」
「『白』と名の付く組織は知っているかね?」
「……へ?」
などなど意味不明な質問を春奈は受けていた。というか、スパイがどうとか聞いていたが、もしそうだとしても首を縦に振るやつがいるんだろうか。
そもそも、なぜこんな質問をされているか、その理由は一つ。
「いいだろう。君を『黒葬』は歓迎する」
入社面接を行っているからである。
春奈のような超能力を使えるものを『
『
『黒葬』へ入社すれば、不自由のない生活を保障され、そういった輩から保護してもらえる。『
そして、もう一つの選択肢がある。
執行部への配属だ。
こちらは希望制である。自分の能力を、才能を、有意義に使いたいという人間も少なくないという。『黒葬』の仕事には危険を伴うためだ。
その代わり、給料としてとてつもない額がもらえたり、大抵の望みは『黒葬』側が叶えてくれるらしい。
春奈は執行部への配属を選んだ。
というのも、春奈が紅蓮に蹴り倒されて目が覚めてすぐのこと―—
「……ここは」
春奈が目を覚ますとそこはベッドの上だった。
「起きたか」
ベッド近くのイスに男が一人座っていた。
「!」
春奈が少なくとも腹部に大怪我をさせてしまった男だ。……であればなぜ春奈は倒れたのだろう。男も落ち着いていて、点滴などもなく男が大怪我したようには見えない。
「あぁ、俺の腹ぐちゃぐちゃにしたことはもういいぜ? 治ったからな。そういう体質なんだ」
……治った。この男も超能力者なのだろうか。
「俺は『黒葬』対人課の伊佐奈紅蓮」
「こくそー?」
「超能力者をシバく秘密結社だ。お前は月野春奈で間違いないな?」
「……」
春奈は小さくうなずいた。
「お前の目的は、だいたい検討ついてる。あの拘置所に
秘密結社だけあり、既に春奈の素性はバレていた。
――待て。
「
この紅蓮という男は、そういった。
まるで、今はいないかのように。
「……今はいないって意味だ」
「は?」
アイツは死刑囚だ。
春奈はベッドから起き上がろうとした。しかし、急に気分が悪くなりそれは叶わない。
「待ってよ。あいつは死刑囚でしょ! いないわけないじゃん! じゃあ何?! 脱獄???」
「端的に言えば、脱獄していた」
「……そんな」
「そして、それを職員たちは知らないふりをしていた。何者かが手を引いているとみて間違いない。どんな奴かはしらないがな」
怒りが込み上げてきた。拳を強く握りしめる。
「この件は俺達『黒葬』が追うことになった」
「!」
「少なくともお前は、『黒葬』が保護することになる。だが、ここからはお前が決める」
春奈は紅蓮を真剣に見つめた。
「『黒葬』保護下ではなく、『黒葬』執行部としてうちに来るか? そうすれば、
返事は決まっていた。
「やる……!」
「だが、勘違いはするな。『黒葬』や俺はお前の復讐に手を貸そうってわけじゃない。お前の勝手は許さない。一人突っ走って殺すなんてもってのほかだ」
紅蓮の表情は険しい。
「……もし、したら?」
「また、ぶっ飛ばす」
「……わかった。それで良い。ぶっ殺したいのは山々だけど、脱獄してるなんて論外。地獄に引きずり戻してやる」
「その息だ」
「……ねえ」
「なんだよ」
「あんたは何で私そこまでしてくれんの?」
「?」
「だって、言わくていい事でしょ? 死刑囚がいなかったとか」
「……『黒葬』は人材不足なんだよ。お前みたいなやつは利用した方が得だ」
「あっそ」
春奈にとっては、利用されようが構わない。あいつに復讐できるなら。
彼女の中の炎は未だ燃え続けていた。
◆
「おい紅蓮」
紅蓮は声を掛けられ振り返った。
そこには調が立ってた。
「お前のスカウトした月野だが、大丈夫なのかね?」
「……やっぱまだ、復讐する気満々でした?」
「あぁ。能力を使った、……というか使うまでもなくそんな感じだったがね」
「でしょうね」
紅蓮は身に染みてわかっている。
「あーゆーのは時間掛けるしかないと思ってます」
「それなら保護下でもいいんじゃないのかね?」
「あれは放っておいたら、多分勝手に動きますよ」
「……それくらいなら、事件に関わらせつつ現場で手綱を握った方が良いと」
「それがベストだと思います」
「……紅蓮にしてはよく考えてるほうだな。わかった」
「……まるで普段俺はなんも考えてないみてーな言い方ですね」
「……」
「お、紅蓮先輩じゃないッスか! どうしたんスか? 廊下で突っ立って」
「俺、普段なんも考えてねぇように見えるか?」
「え、見えるッスけど……」
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