第28話
「マシマシで良いのか?マシマシマシマシじゃなかったか?」
「っ!そ、そうだったな!当然だ、約束だからな!」
「ああ、約束だ」
俺は左手に気合を入れ、もやしと豚がチョモランマになっているインスパイア系ラーメンを出してやる。
「おおおおおお!」
「さあ、食え」
「うむ!」
ハスキーは嬉しそうに箸を割り、山の先端から摘んで、もぐもぐと食っていく。人間だからだろう、小さな口を一生懸命開けるが、どうやら満足いかないらしい。
「ダメだ!き、今日は客が居ない!い、良いだろ?」
「ああ、好きにしろ」
きっと狼の形態で食いたいのだろう。あの大きな口をガバッと開け、一気に頬張りつつも強靭なアゴで噛み潰す。肉の旨みとスープの濃厚さ、多少のしつこさはもやしが中和して、麺が全てをまとめあげる。あのラーメンと1つになったようなあの味わいを得たいのだろう。
いいだろう、変身するがいい、むしろ好都合だ。
ハスキーは背中を丸めて、力むように唸り声を上げる。
バリッ!バリバリバリ!
ミニスカのウエスト、ロングブーツ、ブラやパンツ、ニットまで全てを破きつつ狼に変身していく。
大きな口が良かったのか、始めからポニーサイズの狼に変身したかと思うと、大口を開けてチョモランマにかぶりついた。
『はふっ、うまっ、2杯目を用意しておけ!』
「ああ、2杯目だな」
ふっ、たどり着ければな。
次の瞬間、
『ぶはあっ!!!』
ハスキーは盛大に吹き出した。いや吐き出したに近い。狼が吹き出すのを初めて見た。吐き出した物は真っ赤になっている。
『な、な、なんはこへは!!』
「決まってるだろ?マシマシマシマシだよ、ブードジョロキアのなあぁ!!!」
ハスキーは自然と人型に戻っていき、一糸まとわぬ全裸で、床を転げ回りながら「辛い辛い」と叫びながらもがき苦しんだ。
残念だったな、水はきらしてるんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バスタオル一枚を巻いて、唇をルージュを引いたように真っ赤にして大人しく椅子に座るハスキー。その目は俺を虫けらでも見るかのように睨みつけている。
「こへはひろい……」
「正直すまんかった」
ちょっとやり過ぎたとは思う。
実際俺に食ってみろと言われても絶対に拒否する案件だ。それをだまし討ちで食わせたのだから。
……楽しかったが。
「はらははひすほのにはれた……」
「……なんだって?」
「傷物にされたと言ってるんだ!っ、つつ……」
「あー、いや、傷物ってほどじゃ」
ハスキーはガタンと立ち上がり、バスタオルの胸のところをペロンとめくる。
「みろ、これほ!!こんはに紫にはって!もうよへにもいへぬ!!」
「……」
「くちもほんなにはれて!、はだはにまへさへて、はずはひめられた!」
「いや、裸になったのは自分から────」
「はまらっしゃい!!!」
ダン!
ハスキーがテーブルを叩く。
「……」
「へきにんほほってもらう」
「責任って……」
「はらはほへっこんして、ひっほはんどをはいこうふるのは!!」
「いやいやいやいや」
たかがこの程度で結婚までさせられるのはあり得ない。
「なんはとひさま!!このひゅうとうをみて、はんともほもわないのか!!」
「わかったからしまえよ……」
狼にしょっちゅう変身してるからなのか、それとも一大事だからなのか、羞恥心が足りないんじゃないだろうか。必死に紫色に変色した乳首周りを見せてアピールしてくる。それにしても白くて綺麗な肌だ。逆側の先端はピンクで綺麗な色だ。
「ひろひろみふんじゃない!!」
「見せてんのお前だろうが……」
「ほにかふ、やふほふひろ。ひっほはんどをはいこうふると!」
「……」
嫌だ。心底嫌だ。
例え結果的にそうなったとしても、頭ごなしにやらされるのだけは絶対に拒否する。俺は自由が好きなんだ、日本でだってフレックス出勤が大前提で、そのために青春を潰してきた。異世界に来てまで道を決められてたまるかってんだ。
それにちょっとイライラしてきた。
俺は顔を真剣な表情にして、ハスキーを睨みつける。
「なら殺せ」
「……は?」
「俺は命令されては絶対にやらない。ランセルとも仲良くなったし、そう言う流れになるかもしれないし、結果的にそうなるかもしれないとは思っていた。でもな、お前がそこまで脅してくるなら、俺も開き直って前に出るしかねえよ」
「ほ、ほどひてなんか……」
ハスキーは少し怯んだように後ずさり、か弱い女みたいに胸をバスタオルで隠す。
「脅しと一緒だ。むしろそう言う言い方されると、是が非でも逆の方向に動きたくなる。……別にラーメン屋を辞めて、エステランザの国王のとこに行ってもいいんだ。支援してくれるって言われてるしな」
「ほ、ほれはほまる!」
「お前が困っても知るかよ。一応お前には恩がある。だから何かしてやりたいって気持ちはある。だけどな、お前がそう言うやり方でくるんなら、俺だって考えがあるぞ?」
ハスキーはいきなり泣きそうだ。つうか今まであれだけ強気で、裸を見せるほど強行策で来たくせに、ちょっと言い返されたらこれか?
……、ひょっとして、相手に強気に出られると弱いタイプ?
「待って……、ほねがい……」
「……」
俺が口を開かずに、冷たい目つきで黙って見てると、ハスキーはバスタオルが落ちるのも気にせずに、俺の膝にすがりついてきた。
「待って……、わらわがわるはった……。だからわらわをふてないで……」
「……」
「ほほにいはへてくれるたけへいいはら……」
「ならホールのバイトをしてもらうぞ」
「なんへもふるから……」
「給料もないぞ?」
「はにもいらはいから!」
「なら仕方ない、置いてやるよ」
「っ!ありはほう!!ありはほう!!」
ふふふ、無給バイト兼護衛兼モフモフ枠ゲットだぜ。
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