第27話

タリアの街へ到着する。一応門番に通過の検閲を受けた時、ランセルは門番の兵士に俺が単身でタリアを守るためにエステランザ軍に立ち向かい、大立ち回りをしたって話を聞いたようだ。

それを聞いたランセルとジュジュは大号泣だ。


「閣下!1人のお身体ではないのです!無茶をしないでください!」

「あー、俺も頭に血が上っちまって……」


ランセルとジュジュにクドクドと説教されたが、


「それでも……、私は感激いたしました。…………、私は改めて閣下に生涯の忠誠を捧げます。閣下がどんなことを為そうと、ミッドランド再興を断念しようと、命をかけて閣下のお力にならせていただきたく願います」

「だから重いっての……」


そこまで言われると流石にキツイ。こっちは嘘の王子なのだから。


とりあえずランセルは帰し、ジュジュに通信機器を俺の家の客室に設置するよう指示し、通信技師と共に家に行った。

俺は閉店中の店舗へと向かう。


「……から、どこ…………る!!」

「………………ん!」

「…………け、…………ろう!!」


店舗内から女2人が怒鳴り合う声が聞こえてくる。


「はぁ……、今度はなんだよ」


俺が店の入り口をくぐると、そこにはマリとナタリー、それとマイアに、マリに負けず劣らずに超ミニのスカートを履いた知らない女が1人いた。

全員が俺に振り返り、


「マサト様!、ご無事でしたか!」

「ああ、問題なかった。マイア悪かったな」

「とんでもございません、それであの」

「あー、あとは俺に任せてくれ。今日の所は帰っていいぞ。明日仕入れの件でまた来てくれ」

「かしこまりました」


マイアは帰っていく。そしてマリがなかなかプンプンした顔で、


「店長!この人常連なんですけど、なんで店が休んでるとか、店長はどこに行ったとか毎日来て困ってるんです!」

「ほう……、常連なのか……。ってことはずっと来ていたんだな……」


見たことない女は俺を見たときから、まるで「見つかってしまった!」って顔で縮こまり、プルプルと子鹿のように震えている。


「お客さん、うちには良く来るんですか?」


女はうつむきながらも、チラ、チラッと俺の顔を伺いながら、


「あ、ああ、しかし無事なのだな……、ならば妾はこれで……」


女が歩き出そうとしたので、俺は入り口に立ち、片側の口角を上げてニヤリとして通せんぼをする。


「お客さん、せっかく来たんだ。とりあえず一杯食ってったらどうだ?」

「っ!そ、そうか?!貴様がそう言うならば食ってやらなくもないぞ?!」

「ああ、食っていけよ。その前にスカートから尻尾が出てるぞ?」


女はびくりと飛び上がるように自分の尻を確認する。


「なっ!そんなわけっ!……、な、い、……」


あるわけない。ライカンスロープは獣人ではないのだ。獣の特徴が混ざったりはしない。女は引っかかったと気付いて顔を青くする。


「てめえには言いたいことが山ほどある。帰すと思ってるのか、ハスキー」

「……」


そう、こいつはハスキーだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



当然俺だけじゃなく予想はついていただろうが、一目見てすぐにわかった。

事前情報が揃いすぎている。

ミッドランド王家の指輪を持っていたこと。

王家の血筋はライカンスロープだということ。

一人称が妾で、やけに偉そうだったこと。

狼なのに人語を使えたこと。

そして人型のハスキーを見た時にピンと来た。髪はツヤツヤした黒髪で、サイドにメッシュのように白い髪が一筋入っている。極め付けは瞳が青と黄色のオッドアイなのだ。ここまで情報が揃えば誰でも気づくと言うものだ。

ちなみに顔はロシア風美人って感じで、言動に似合わず、綺麗系より可愛い系だ。胸はイシスに負けず劣らず巨乳で、太もももむっちりとしているのに、太いと言う印象は受けない。服装は黒のタートルネックのニットで、露出はないが身体のラインが丸わかりなやつだ。下半身はこいつも良い年のはずなのだが、ギャルも真っ青なほどの、ベージュのタータンチェックの超ミニスカートを履き、膝まである黒のロングブーツを履いている。

一言で言えば、バリイケてる女ってことだ。


マリとナタリーを明日来いと言って帰し、店舗には俺とハスキーの2人が残った。


「なんか言うことはあるか?」


ハスキーはうつむき加減で話す。


「妾は嘘はついていない。面倒もあると言ったし、目的もあると言っていた」

「だな。でもこうも言った。絶対人里には顔を出さないとな」

「……」


こいつがジークフリードのラストサンだったのは口に出して確認するまでも無いだろう。こいつの返答だって認めているようなものだ。まあ、サンではなくドーターなのだが。


「で、お前の、いや、お前ら一味の目的がミッドランド再興か?あー、妖精も魔族と言えば魔族か?」


するとハスキーはキッと顔を上げ、


「違う。それは妾の願いだ。リステル様は関係ない」

「そうか。でもよ、こんなまどろっこしいことしないで自分でやったらどうだ?お前ならオリハルコンの剣がなくても出来るだろ?ライカンスロープなんだし」

「父は、……、妾も見たわけではないが、父は最後まで人でいることを貫いた。妾はそれを捨て魔族になった。だから父の後を継ぐことは出来ん」

「今から変身しない誓いでも立てろよ」

「ラーの剣にも認められていない」

「……、なら俺のこれ、貸してやろうか?」


確かにランセルは剣に異常な反応を示した。これがあればいいのなら、貸してやるのも吝かではない。一度は命を救われてるのだから。

だがハスキーは首を横に振る。


「貴様は知らないだけだ。ミッドランド国王となるものは剣に選ばれなければならん」

「ん?使うのは誰でも使えるだろ?」


実際エルザたち盗賊は俺の剣を使っていた。


「そうだ。だが剣には意思がある、戴冠の儀の際には剣を輝かせて見せねばならん。それがラーに選ばれた証だ……」

「ふむ」


思い起こせばそうかも知れない。このオリハルコンの剣にしろ、イシスの槍にしろ、俺が持った時のが輝きが強かった。それにエルザは、俺を襲った時、あんなに思いっきり振ったのに、木に刃先が少しめり込んだだけだ。この剣の切れ味を考えると、あの程度しか切れなかったのは不自然に思える。となると、俺だから剣の能力と発揮させているのかもとも取れる。


「ってことはジークフリードはラーに選ばれたのか?」

「当たり前だ」


そうか。ゴールデンブラッドじゃなくても、剣に選ばれれば、剣を存分に扱うことは出来るのか。


「なら俺はラーに選ばれたんだな?」

「いや、それはラーの剣ではない。それは間違いない」

「やっぱそうなの?」

「うむ。ラーのつるぎは妾をセバスが連れ、逃げ出す時にセバスが回収して魔族の国、ミッドバルドに持ち帰っている」

「……、セバス……」


偶然のかぶりとは恐ろしいものだ。俺はランセルに俺の出自のことを説明した時と同じ話をハスキーに聞かせた。


「馬鹿なことを。何故そのような」

「知らなかったんだよ!俺の故郷じゃ執事と言ったらセバスチャンなの!」

「セバスは生きているぞ?」

「マジかよ」


するとハスキーは、少し笑顔を取り戻し、


「安心せよ。魔族の国ミッドバルドは、大陸を船で渡り、ひと月ほど航海せねばならん。それにミッドバルドに渡る為の船着場は、この大陸の一番端だ。陸路でそこに向かうには2ヶ月はかかるぞ?来れるわけがない」

「……俺はお前のその言葉で、絶対来ると確信したよ……」


間違いなくフラグだ。こんな丁寧なフラグを立てやがって!しかも向こうから来るんじゃへし折りようもねえじゃねえか。


「ならなんでお前は俺が現れる森にいたんだ?」

「ラーのお告げがあったからだ」

「お告げ?ってか、ラーは本物の神なの?」

「当たり前だ。ラーは太陽の神、ラーのつるぎはラーの力をこの世に具現化したものだ」

「ならやっぱ人型になるんだな」

「人型?貴様は馬鹿か?剣はライカンスロープではないのだぞ?」

「……」


マジイラっとした。こいつに言われるのはなんか腹が立つ。


「なるんだよ!!つか、ならどうやってお告げを聞いたんだよ!!剣が喋るのか?!ああん?!」

「喋るぞ。だがその声が聞けるのは魔族の王、魔王リステル様だけだ。リステル様は万物の声を聞くことが出来る」

「どっかで聞いたことある設定だな!」

「何を怒っておるのだ、それより剣が人型を取るなど正気で言っているのか?」

「そうだよ!……説明も面倒くせえ」

「なら貴様の剣を人型にしてみせよ」

「これはラーじゃないから無理なの!」


ジン国王のところで起きた話を全部するのは面倒すぎる。この話は流すことにした。

ハスキーが俺が転移した場所に現れた理由は、ラーのお告げで、【次の年の春、力を持たぬ異界の来訪者が現れる。その者を生かすか殺すかでそなたの未来は変わるだろう】と言われたらしい。

そんで、気になってやって来て、俺たちの出会いのようになったらしい。


「もうバレてしまったのだ。仕方あるまい。貴様、ん、マサトと言ったか。マサトよ、ミッドランドを再興するのだ。妾と婚姻を結び、真のミッドランドの王となるがいい」

「ならねーよ」

「なっ!」


ハスキーはガタンと立ち上がり、大げさなほど驚愕の姿勢を見せる。


「お、王だぞ?ニセモノではないのだぞ?!」

「望んでないから」

「民も金も自由に出来るのだぞ?」

「別に自由にしたくねえし、そもそも今が一番自由だ」


そしてハスキーは急にニヤリとして、胸を突き出すように張ってきた。


「そうか、いやらしい奴め。だがミッドランドの王となるならば妾の身体も貴様、マサトのものだ。……、どれ、本来なら再興が成った暁となるのだが、再興すると約束するなら前払いをしてやろう。ほれ、どうだ?」


ハスキーは自信満々に胸を突き出す。そりゃ良い乳してるしスタイルも抜群だ。顔も文句なしだし風俗にいたら間違いなくナンバーワンだろう。

だがな、こちとら1000人以上は女を抱いてきたんだ、今更その程度の色仕掛けに引っかかりはしねえんだよ。

……、まあ、99.9984%はプロの嬢なのだが。


俺も立ち上がり、ドヤ顔で笑みを作って胸を突き出すハスキーの巨大な胸を、ニットの上からむんずと鷲掴みにする。


「ふふん、どうだ?妾の胸は気持ちよかろ?生で触っても────、っ!いたっ!イタタタタタタッ!!」


ざまあみろ、服の上から思いっきり乳首をひねり上げてやった。ハスキーは胸を押さえてしゃがみこんだ。


「き、貴様!女子の乳頭をつまみあげるな!!くっ、野蛮だ、下品だ!こんな奴はオーガ族にも居ないぞ?!」


下品と言うなら、抱いてみろと胸を突き出すほうが下品だろうが。

誰でもそんな安い挑発に引っかかると思うなよ?俺は鈍感系主人公じゃないんだよ。


「ミッドランドはいらねえ、だからお前もいらねえ。魔族の国にでも帰れ」

「なっ!」


ハスキーは本気でショックを受けたようだ。目に涙を溜めている。


「か、帰らんぞ!妾はまだラーメンを食っておらん!妾は客だ!次にあったらマシマシを食わせると約束したはずだ!」


そんな約束もしたな。

まあ良い、食わせてやろうじゃねえか。

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