第26話

4人にラーメンを再度出してやる。美味いものは人を黙らせる、話を仕切り直すにはこれが一番ベストだ。

国王、名を近藤仁、ジン=コンドー。俺のフルネームを教えたら大爆笑された。ラーメンをぶつけてやろうかと思ったが、ハルモニアが怖いのでやめておいた。


国王の話はとても興味がある。正確にはとても興味があったが、それは消え失せた。

だってよく考えてほしい。

オリハルコンは神の金属、アーティファクトでした。

古代の遺跡が存在していて、神を名乗る武器があります。

オリハルコンは神の顕現媒体で、ゴールデンブラッドの魔力を得れば現世に降りてこれる。

どうやらそれがガングリフのジジイに関係がある。

まだまだ情報はあるが、これだけでもう冒険の匂いしかしない。

やってられるか!俺はラーメンを生み出すことしか出来ないんだぞ?!いくら強い武器があっても、これから本気で修行したってハルモニアのような動きが出来るようになれるわけがない。だったら冒険の先の未来は、良くて大怪我や大出血、それは俺にとっては死に直結する。

せっかくあと300年もあるのに!

まるっきり寿命を伸ばした意味がない。幸い、金を稼ぐ手段はあるのだから、わざわざ死ににいく必要性がどこにもないのだ。


「ってことで帰るから。もう話しかけてくんなよ?」

「冷てえな、おい!」

「だって、お前らと関わっても俺にメリットないじゃん。むしろ損しかない」

「……槍をやるって言ってんだろ?」

「いらねえよ、そんな面倒な奴」

「ひどぉ〜い、これでも神よぉ?結構色々出来ちゃうのよ?」


イシスは自身の胸を両手で寄せ上げ、俺にアピールしてくる。


「あっ、間に合ってます」

「えぇ〜」


ふざけるんじゃない、神とか必要ないから!

確かにハスキーと出会った頃は護衛役が必要かと思っていた。だが今ではジュジュもランセルもいる、マイアだって協力的だ。ハスキーにはこの世界は命が軽いとか脅されたが、タリア内に居る内はそうそう危ないこともない、チンピラまがいのヤカラ程度はジュジュで充分対応可能だ。異世界に来た当初ならいざ知らず、今更神とか出てきても面倒以外の何者でもないのだ。


「ってことで帰るわ」

「俺は本当にこっちに来たやつを保護したり、支援したりしてんだ。お前は必要ないんだな?」

「ああ、必要ない。じゃあな」

「待て!、あー、じゃあとりあえず通信機器を持っていけ」

「っ!あんのか?!」


そういえばマイアが新事業が立ち上がっていると言っていた。


「んて言ってもよ、まだデカすぎて話にならねえけどな。んでもないよりはいい」

「あー、そうだな。無いよりは良いな」


俺も実物は見たことないが、女芸人が肩から下げてシモシモとか言ってる奴くらいデカイのか。あれが本当ならデカすぎて持ち運ぶ気になれない。


「ん?電池は?電気もあるのか?」

「電気はまだだ。まあもうすぐだろう。今の動力は魔力だ」

「まあ問題ないな」


どっちでも動けばいいのだから。


「ねぇ〜、本気でわたしを置いて行っちゃうのぉ」


イシスがおねだりするようにシナを作る。


「ホント間に合ってますんで」

「ひどくない?こんな扱い初めてなんだけど。あっ、ハジメテ……、あはっ……」

「……」


ど変態は必要ない。だいたいキャラが濃すぎるんだよ。毎日一緒とか疲れるに決まっている。こういう奴はスポットで充分だ!


「俺ぁ、連れてっても良いんだぜ?お前が居なけりゃそのうちまた槍に戻るらしいしな」

「いや、ホント要らないから」

「そうか」

「そいつよりランセルとジュジュを返せよ」

「あー、そっちはもう手配済みだ。ちゃんと竜車に乗って待ってるぜ」

「そうか」


国王の「たまには顔を出せ」とか「ラーメンだけでも持ってこい」とか言われたから、食いたきゃこっちに来いと言ってやった。

もちろん、来たら来たで面倒そうだからやっぱり出入禁止だと言っておいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「閣下、ご無事でなによりです」

「あんま無茶すんなよ、ランセル」


ランセルは少し恥ずかしそうにして、俺を待っていた。どうやら冷静に話を聞いて自分の早とちりとわかったようだ。


「あー、まあ、俺も悪かったよ。ごめんな」

「滅相もございません。しかし閣下が国王様とお知り合いだったとは思いませんでした」


なるほど、そういう事にしたのか。


「カリュームのスラムにいた時、時々金をくれたり支援してくれたりしたやつが居たんだよ。まさかそいつがエステランザ国王の使いだってのは俺も知らなかったんだ」

「そうだったのですね」


俺も嘘が上手くなったものだ。


「ジュジュも巻き込ませて悪かったな」

「店長閣下の御命令とあれば、何の苦でもございません」


よし、これで俺の手駒?たちは取り返した。


「って、これが竜車か……」


なんて名前かは忘れた。だがこの竜の形容の仕方は、恐竜のテーマパークの映画に出てきてた、すばしっこくて二足歩行のどう猛な奴、あれにそっくりだ。


「はい、竜車は馬よりも力があり、速度も出せます」

「なるほどね」


竜車は2台あった。1台は2頭立ての竜車、こちらは居住スペースが結構広めに作られている。行きの軍隊の馬車の3倍ぐらい長い。もう1台は、車の大きさはそこまで大きくないのに、竜が4頭立てになっている。

俺は中が気になって覗いてみると、


「でけえってこういうことかよ!!」


中にはびっしりと機械が入っていた。きっと通信機器だろう。なんだろう、戦争映画に出てくる無線機のような奴で、それの基地に置いてあるバージョンのように馬鹿でかい奴だ。とてもじゃないが携帯用ではない。


「ご安心ください、ミッドランド皇太子殿下。私たちが設置をさせていただきます」

「頼むわ……」


どうやら竜車の御者は通信機器の整備士の兼任らしい。4人もいるから大丈夫か。

しかし皇太子か。実際国はないし王を名乗ってないから国王と呼ばれないのはわかるが、いくら正当後継者の設定でも、国がなければ皇太子でもないと思うのだが。


「じゃ、帰るか」

「はっ」

「はっ」


俺たちは懐かしきタリアの街へと、6日の旅路を進み始めた。

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