第25話
「えー、まずどっから話すかな。やっぱ俺の生い立ちから────」
「ぶっ飛ばすぞ、国王」
「がはははは、冗談だ。あー、まずはお前が異世界に来た理由か?」
「正確には何故ゴールデンブラッドが必要だったかだな」
「それは簡単だ、本物のアーティファクトを操れるのはゴールデンブラッドだけだからだ」
「……アーティファクト?」
「お前も持ってるだろ?アーティファクト」
「え?」
「剣だ、オリハルコンは神の金属だ」
「ま、マジか……」
俺は鞘に収まる腰の剣を見る。まさかこれが?
「ち、ちょっと待て!これはあのジジイにねだって貰っただけで、何の力もないと言ってたぞ!」
国王はまた笑い、
「お前自分で言ってたよな?、あのよ、いくら刃こぼれしても自動で修復されて、呼べば手元に戻って、ミスリルの剣をど素人のお前が切り刻める剣は普通って言わねえよ」
「……」
いや、まあ、そうだけども!!そうなんだけども!これじゃ俺の身を守れないじゃねえか!
「お前、ゴールデンブラッドだからか?自分が傷つくことに過剰に反応してるぜ?回復魔法のこともそうだ、普通、異世界に来て魔法って言って、いきなり回復魔法を徹底的に調べるか?」
「……」
その節がないとは言えない。
いやだって、輸血出来ないんだし!
「この世界じゃあ、輸血が必要な怪我をしたら、大抵誰でも死ぬけどな」
「……」
身も蓋もないことを言いやがる。
すると国王が顎をくいっとしゃくり、ハルモニアに指示を出す。ハルモニアは国王の後ろから、先端が3つに割れ剣のようになっている、緑色の光沢を放つ槍を持ってきた。
「これもアーティファクト、オリハルコンだな。名をイシスの槍と言う」
「マジかよ……」
そんなさらっと、立て掛けてあるホウキでも取って来させるようにアーティファクトって。拍子抜けするな。
「まあやってみりゃあいい。お前、このイシスの槍を呼んでみろよ」
「え?、あー、来い、イシスの槍よ」
何の気なしに言っただけだ。ハルモニアが持ってる槍を見ながら、言われるままに呼んだだけだった。だが、槍はハルモニアの手から消え、俺の右手に現れた。
「……マジか……」
俺だけじゃない、国王はこの結果を予想していたようなのでびっくりしていないが、ニケもハルモニアも目を大きく見開いた。
「な?別にその剣だけが呼べるんじゃない、ゴールデンブラッドはアーティファクト全ての権限を持ってる、ただそれだけだ」
「……どうやって調べた」
国王はニヤリとし、
「だから俺の生い立ちから聞けっての」
「せめて異世界に着いてからにしてくれ……」
国王は15の時に事故で死に、ガングリフに呼ばれた時にこのまま死ぬか異世界に行くかどっちか選べと言われたらしい。その二択なら生きる方を選び、異世界に行ったら神の名を持つ5つのアーティファクトを探し出せと言われたようだ。もし5つ揃えたら望みを叶えるし、地球でもう一度生を与えてもいいと言われたようだ。
ジジイ……、やっぱり蘇生できんじゃねえか。
そんで必死にアーティファクトを探し、見つけたのがこのイシスの槍の遺跡で、その遺跡からイシスの槍を見つけたと言う。ゴールデンブラッドうんぬんの話とかはその遺跡に文献があったようだ。
そこから紆余曲折あり、エステランザの姫と結婚して15年前に国王になったと言う。
「俺はもう諦めた。それに俺は選ばれなかった。まあ俺はゴールデンブラッドじゃねえしな。お前にやるよ」
「いや、やるって言われても……、いらねえよ」
するとハルモニアが口を開く。
「貴様、国王から賜るものをいらないなど、ましてや国宝の槍だぞ?」
「そう言ってもよ、俺別に戦わねえもん。俺はラーメン屋で安全に金を稼ぎたいんだよ」
最強チートもないのに何故戦わなければならないのか。だいたいこっちは怪我でも死ぬって言ってんじゃねえか。危ない橋は渡れねえよ。
「おっ、そうだった!俺にもラーメンを食わせろ!……へへっ、40年ぶりだな!」
「わかったよ、醤油でいいか?」
「馬鹿野郎!ラーメンって言ったら醤油に決まってんだろ!」
「だから醤油でいいかって言ってんじゃねえか……」
こいつ、ただ馬鹿野郎って言いたいだけじゃねえのか?
俺はラーメンを三杯生み出し、国王の机に並べてやる。国王は「これこれ!」と言ってから、ニケとハルモニアに食い方を指南している。
二人はラーメンの味に驚愕し、国王はうっすら目に涙を溜めた。そうか……、帰りたかったのに帰れないと諦めてからの、故郷の味だもんな……、そりゃあ感動もするか。
「あらぁ、とぉ〜ってもいい匂いじゃない?わたしにも下さらない?」
「……ラノベかよ……」
俺は一部始終を見ていた。国王はラーメンをブーっと吹き出し、ニケはラーメンどんぶりを床に落とし、すぐさま呪文を唱えるかのように右手を突き出し、腰を落とす。ハルモニアの動きは見えなかった。気づいたらいきなり現れた女の首元に予備の剣の刃を突き立てている。
女だ、女が俺の目の前に現れた。
いや、正確には元からここにいた。
それはもうラノベよろしく、槍が光を放ちながら人型になったのだ。
女は身体のラインが丸わかりで、Vネックどころじゃない、へそまでVの字に開いている薄手のドレスを身に纏い、その開いているVの字から、もう溢れるんじゃないかと思われるほど、巨乳の谷間を見せつけている。
髪は緑色に輝き、瞳の色も緑色だ。それはまるで槍の輝きの色にそっくりだった。
「あらぁ、いきなりなにぃ〜?20年も一緒に居たのにわたしに剣を向けちゃうの、ジンちゃん」
「これが……」
流石の国王も言葉を失ったようだ。
間違いない、これはさっきハルモニアの手から俺が呼んだイシスの槍だ。
「お前、槍だよな?」
俺が当たり前の質問をすると、イシスは首元に剣を突き付けられていることなど全く気にせずに、俺に振り返り俺の顎に指二本を当てて、妖艶に誘うような素振りをする。
「正確にはちょっち違うんだけどぉ、マサトちゃんのとぉ〜っても美味しい魔力で、わたし目覚めちゃった♪この辺にジンジン感じちゃうわぁ」
「いきなりど変態かよ!!」
イシスは腹の下の恥骨の上あたりを押さえて身をよじった。
「変態なんてそんなに誉めないでよぉ」
「しかもドMかよ!」
俺は顎から頬に撫でながら移動したイシスの手を振り払う。
「いったぁ〜い、わたしこれでも大地の神なんだけどぉ」
「嘘だろ……」
「ホントよ、マサトちゃん♪ジンちゃんも言ってたじゃない、オリハルコンは神の金属だって。普通の槍がこんなエッチな女の子になれるかしら?」
イシスはパチンとウインクをした。
いやエロい、エロいのは認めよう。だが女の子ってのは認めない。
するとイシスは一気に素に返ったような表情になり、
「今、なんか失礼なこと考えたかしら?」
「……気のせいだろ?」
「そうかしら?」
本当に神かもしれない。素に返った顔は物凄い威圧感を感じる。これが殺気と言うものか?!
「待て、待て待て、おい、お前、本当にイシスなのか?遺跡にあった石版に書いてあったことは真実なのか?!」
イシスは国王に振り返り、
「本当よぉ、当たり前じゃない」
「おい国王、なんの話だよ」
すると国王は俺を睨みつけ、
「ダメだ、言えねえ」
「……、なんだよ今更」
「もったいぶってるわけじゃねえ。お前の為だ」
「……どういう意味だよ?」
「そのうちわかる。お前の宿命だ……」
「そうよん、マサトちゃんが頑張れば見つけられるわよぉ。わたしの遺跡はもうないけど、バステトのはまだあるわぁ。知りたかったらそれを探しなさぃ」
「……」
イシス……、バステト?……、そんでラー?
エジプト神話か?
俺はハッとしてオリハルコンの剣を抜いて、イシスに見せた。山吹色の光がイシスの頬を照らす。
「っておい待て、ならこれはラーのつるぎか?!こいつも神なのか?!」
イシスはスッと目を細めたが、すぐに妖艶な雰囲気に戻る。
「その子は違うわ。でもぉ、ラーがマサトちゃんに話があるみたいよ?呼んでみたら?」
違うのか、やっぱこの剣はレプリカなのか、ただのオリハルコンなのか?
「呼んでみたら?」
「そう、マサトちゃんはまだラーと会ってないから、ホントは呼べないんだけどぉ、今ならラーは来てくれるわ、とぉ〜ってもおはなししたいみたいだし」
俺は意味不明ながらも、剣を呼んでみる……、って思ったが、
「いや、呼ばない」
「っ、なんでぇ〜」
「なんか面倒くさい気配がする」
「えぇ〜、ダメよぉ〜、わたし困っちゃう。ラーに怒られちゃうわぁ、呼んであげて」
「いや、絶対呼ばない」
間違いない、神らしきやつが話がある?呼んでほしい?そんなの絶対面倒事に決まっている!ただでさえイシスが現れただけでも、カオス度MAXなのに、これ以上増やせるか!!
俺は甘えるように駄々をこねる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます