第24話

「おう、良く来たな」

「……とりあえずランセルは無事なのか」

「がはははは、心配すんな。お前との話が終わったら一緒に帰してやるよ。帰りたいならだけどな」

「はあ……」


こいつが国王か。

エステランザ王国国王、年の頃は50代くらいか。

初めはだだっ広い謁見の間に通され、大勢の騎士や魔導師?みたいな奴に囲まれていたが、国王が「良く来た。まずはゆるりと休まれよ。明日また出頭せよ」と偉そうに言って終わり、次の日の朝メシを食ったあと、この書斎のような狭い部屋にハルモニアと一緒にやってきた。

ここには俺、ハルモニア、若い女、国王の四人だけだ。


「陛下、流石にこれは危険では?此奴は私の剣を小枝でも斬るように粉々にしたのです」

「ほお?!総ミスリルの剣をか!」

「はい」

「そりゃあ難儀だったな。新しいのは国庫から買やぁ良いが、打てるやつがな……」

「はい、ミッテランまで行かねばなりませんので」

「あー、国王様?俺がそれを弁償しろって……」


ハルモニアにはそう言われたので一応言ってみると、国王はまたがははははと笑い、


「おうそうか、払えるのか?一億エルはするぞ?」

「っ!い、一億?!」

「当たり前だ、だが金でなんとかなるだけマシってもんよ。……お前の剣はそうじゃねえだろ?……なぁ、同郷よ」

「っ!!!!」


無理だ。ポーカーフェイスではいられなかった。同郷?同郷?!

確かに言われてみれば、国王は日本人っぽい顔はしている。この異世界、黒目黒髪なんて普通にいるし、逆にピンクや青い髪のやつなんて居ないから、日本人かどうかの判別が難しい。


「がははは、やっぱりな。安心しろ、ハルモニアもこのニケも俺が日本人だと知ってるからよ」

「…………、おっさん、勇者か?」

「あー、違う。まあ言ったら勇者のなり損ないってとこか?なあ?ニケ」

「勇者の爪の垢でも飲んだら良い」

「がはははは!ならこいつのを貰うか?!がはははは!」

「……」


ついていけん。

あのニケってやつもキャラ作りすぎだろ?!

なんだよ、眉一つ動かさないクールビューティの真似しといて「爪の垢でも飲め」とか国王に言うとか!そんなキャラ、まんまラノベじゃねえか!

ダメだ、ペースが持っていかれまくりだ。なんとかこっちのペースで進めないと。


「……、なんでこんな面倒なことをすんだよ」


国王は笑顔ながら、睨むように首を傾げて、


「ああん?面倒にしたのはお前だろうが。俺はわざわざニケを使いに出したんだ、ちゃんと俺が日本人でお前と同郷だから話がしたいと説明させる為にな。それをお前が領主なんて使いやがって……。お前がさっさと顔出せばそれで終わりだろうが」

「……」


確かに。

もし本当にこの女がその説明をしたなら、俺は素直に従ってここに来ただろう。異世界初の日本人、しかも先輩とあらば聞きたいことは山ほどある。そうすれば簡単な話だったかもしれない。いや間違いなく簡単な話だった。


「しかし良くランセルの野郎を騙せたな?あいつ、お前がミッドランドの忘れ形見って本気で信じてるぞ?」

「あー、色々あって……」

「全部話せ」


国王は威圧するかのような態度でそう言ってきた。俺は自然と顔をしかめる。


「……」

「馬鹿野郎。ギブアンドテイクだろうが。俺は山ほど情報をやるんだぞ?たかだかお前の数ヶ月程度の経験話をもったいぶるんじゃねえよ」


これまた正論だ。

情報を与えるのは危険とか考えてたけど、ぶっちゃけその段階は通り越している。国王も自力で俺のことを調べて、日本人だと確信を持ったから迎えを寄越したわけだし。それに情報は欲しい、喉から手が出るほど欲しい。


「かいつまんで話せばいいか?」

「ダメだ。どんな細かいことでも全部話せ。……、んだな、小説を書くように丁寧に、隅から隅まで話せ」

「……時間かかるぞ?」

「かまわねえよ、時間はクソほどある。……、さあ、じっくり行こうじゃねえか」

「どうでも良いけどまるで山賊みたいだな。もっと王様らしく話せないのか?」

「ん?がはははは!!人前じゃあちゃんとやったろうが!それで充分だろ?!がはははは!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺は話した。

隅から隅まで。

自分が主人公のラノベでも読むかのように。

何をされ、何を思い、何をしてきたのか、包み隠さず全て話した。

時間にしたら2時間は話していたと思うが、国王は飽きもせず真剣な表情で最後までキチンと聞いていた。


「なるほど、やはりな」

「やはり?なあ、俺が選ばれた理由を知ってるのか?」


国王は椅子の肘掛に肘をつき、右腕で頬杖をついている。


「知りはしねえ。だが予想はつく」

「……、なんだよ」

「お前、実は自分でも予想はついてるだろ?」

「……」

「お前、ゴールデンブラッドだな?」

「……」


そう、俺はゴールデンブラッド、黄金の血と呼ばれる血液型だ。まさかとは考えたことはある。俺が日本にいる時に、自分が特別と思えることはこれしかない。確かにもしかしたらと予想はしていた。

普通、血液型にはABOとABがあり、それにRHプラスとかマイナスがそれぞれついている。

それが、現在地球に43人しか確認されていないRH null、つまりRHプラスとかマイナスが存在しない血液型、それがRH nullゴールデンブラッドだ。

何故それがゴールデンブラッドと呼ばれるかは、RH抗体の無い血液型、しかもO型は、誰にでも、どんな血液型にも輸血出来るのだ。それを海外のある学者が発見した時に、黄金の血と名付けたことにより、そう呼ばれている。


「……なんでわかった?」

「勘だ。って言っちまうのは簡単だが、理由はある。一つはガングリフが選んだと言うこと、一つはお前が医療関係を真っ先に調べたこと、一つは危機感が異常に強いこと、一つはオリハルコンを既に持ってること。まあ、こんな感じだ」

「……」


2番目はわかる。ゴールデンブラッドは、誰にでも血を提供出来るが、誰からも貰うことは出来ない。輸血が必要な事態になった瞬間、俺はもう死ぬしか無いのだ。

だが、1番目と4番目がわからない。


「わからねえって顔してやがるな。まあ、医療関係はわかるな?回復魔法で自分の怪我が治るか知りたかったんだよな?お前の場合は命取りだ、そりゃあ1番知りたい情報だろう。もう知ってるのか?」

「ああ、知ってる。回復魔法じゃ輸血は出来ない」


そう、この世界の回復魔法は万能じゃない。

性病や病気や怪我、そう言うのを手術等なしで治すことは出来るが、術師がその知識を持ってなければ効果はないし、減った血液は輸血か自身の回復力で補うしかない。手足が千切れても元通りに出来るが、縫合の知識を持ってなければ、回復魔法は無意味だ。もちろん、輸血も必要になる。


「その通りだ。お前は大怪我したら終わりってことだ」

「……」

「……、何故ゴールデンブラッドが狙われる?まさか輸血タンクにする為じゃないよな?」

「もちろん違う。だがそれは話の核心に触れちまうな」

「……話せよ」


国王はニヤリと笑い、


「核心をいきなり話したらつまんねえだろ」

「……うるせえ」


国王はまた大声で笑う。もったいぶりやがって……。


「まだ俺の生い立ちとか、俺がどうやって国王になったとか────」

「いいから」

「がはははは!せっかちな野郎だ」


仮にも国王に対して、俺の言葉使いはどうかと思うが、国王自身がこんなやつなのと、初の同郷ってので遠慮がなくなっている。


「さて、茶……、ってのもつまんねえな。ニケ、ワインを持ってこい」

「てめえ……」

「ワインの飲み過ぎで肝臓が死ねばいい」

「がはははは!肝臓はやべえな!気をつけるとするか!」


どうやらさっさと教える気はないようだ。

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