第23話

久しぶりにオリハルコンの剣を腰に差し、首にはハスキー呼び出し用の笛を下げ、店に店休日の張り紙をマリたちにさせて、俺はタリアの街の門の外で軍隊を待つ。

俺の背中にはタリアの街の兵士が20人以上集まり、俺を見つめている。兵士たちも領主が拘束されて不安なのだろう。だが、タリアもエステランザの一部なのだから、王国軍相手に戦うわけにも行かず、それでも多少はいつもより多くの門兵を用意してるあたり、何かしら思うことがあるのだろう。

大丈夫だ、奴等の目的は俺のはず。軍隊をタリアの街に入れるわけにはいかない。ランセルは身体を張って俺を守ろうとした。ならば俺も身体を張ってランセルの大事なものを守らなければならない。


すると軍隊が行軍する足音が聞こえ始め、目視でも軍隊が見えるようになってきた。

おいおい、俺1人捕まえるのにこんなに連れてきたのかよ、ぱっと見1000人以上はいるぞ?やる気マンマンってか?

1番先頭で馬に乗る男が右手をあげると軍隊はピタリと止まった。

そして馬に乗った男はパカパカとゆっくり馬を進ませ、俺の前までやってくる。


「貴殿がマサトフリード=トゥル=ヴァン=ミッドランドか?」

「そうだ。ランセルたちを返せよ」

「……それは出来んな、謁見の間で暴れたのだぞ?返せるわけがない」

「そうかよ」


俺はゆっくりと剣を抜く。男は俺を見ると眉間にシワを寄せ、馬から降りた。


「貴殿、……何か勘違いしてないか?」

「ランセルを返せないんだろ?なら俺の答えはこれしかねえよ」

「……私はエステランザ王国近衛騎士団団長、ハルモニア将軍だぞ」

「だからなんだよ」


また男は首をかしげる。

やるしかない、どのみち全員相手にするわけにはいかないんだ、やるなら1番偉い奴をやるしかないんだ。


「……、やはり何か勘違いを────」

「うるせえ!!」


俺は剣を振り上げ走り出す。

ハルモニアと名乗った男は、はぁ、とため息をつき、首を横に振りながら剣を抜く。


「仕方ない、少し稽古をつけてやろう」

「ああああああ!!」


俺はなりふり構わず、袈裟斬りにハルモニアを斬りつける。それをハルモニアはまるで小手先であしらうかのように、手首の返しだけで俺のオリハルコンの剣を受けようとする。


キン!


「っ!な、何っ!!」


ハルモニアの剣は中ほどから斜めに切れ、地面に刃先が落ちた。驚愕するハルモニア。


「ああああ!!」


ハルモニアが短く残った刃の剣で、俺のオリハルコンの剣を受けるたびに、剣は短くなっていく。


「バカな!ミスリルの剣だぞ?!」


だからどうした!こちとらオリハルコンだ、なめんじゃねえよ!


「くっ、仕方ない!」


ハルモニアは剣の柄を俺に投げつけ、俺はそれをもろに胸に食らう。


「うっ!」


痛みで一瞬止まった瞬間、ハルモニアは消えた。


「っ!がはっ!」


消えてはいなかった。その一瞬の隙に俺の後ろに回り込み、俺の手を捻り上げ、俺は地面に押し倒されて背中から押さえつけられている。

つえー、つえーなんてもんじゃねえ。

剣自体が俺のがすごいだけで、動きは比べるまでもない、まるで子供扱いだ。ハスキー笛を吹く暇もない。


「この、馬鹿者が!私のお気に入りの剣を粉々にしおって!少しは頭を冷やせ!」

「うわっぷっ!」


俺は地面に押さえつけられたまま、頭から水をかけられた。


「……」

「落ち着いたか馬鹿者!、話を聞け!」

「……」


俺が身体から力を緩めると、ハルモニアはすくっと立ち上がり、俺の拘束を解いた。


「な、なんで……」

「だから勘違いをしてると言っている!あのランセルと言う領主と言い、貴様と言い、タリアの街の住人は話が出来ない者ばかりか!」

「……は?」


ハルモニアはまたため息をつき、


「剣は弁償してもらうぞ?!全く、とんでもないガキだ!」

「……」


も、もしかして、俺、やっちゃいました?

なんかこのセリフどっかで聞いたことあるな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



タリアからエステランザ王国の首都、エステランザまでは都合6日の道のりだ。

ハルモニアは常勝将軍ハルモニアと言い、剣の腕で負けなしで、国内だけではなく隣国でも物凄く有名なのだそうだ。その剣を叩き切った俺は、ハルモニアの部下たちにモテモテになった。


「やるじゃねえかお前!」

「流石ミッドランドの王子ってか?!」

「見所あるぜ!俺たちと一緒に修行しねえか?!」

「……」


ヤバイ、普通に良い奴らだ。

つうか、なんか一人で激昂してた自分が恥ずかしい。だって、国王は話をしたいだけで拘束する気もないし、話が終わった後に保護が必要ないと言うなら普通に帰って良いらしい。ただそれだけだと言う。

言い訳をさせてもらえば、俺のせいでランセルとジュジュが捕まり、あいつらは俺の為に体を張り、マイアが、さも大事のように事を報告してきた。そんで、なんとなくラノベのようなイベントがやって来たと思い込み、ここは主人公らしく、全ての貴族や王族を敵に回しても力でねじ伏せるみたいな展開ばっかりが頭に浮かび、それしか考えられなくなっていた。

こんなんじゃ、ラノベを読んでた時に主人公のことをラノベ脳とか言ってた自分を笑うしかねえな。一緒じゃねえかよ。


俺の顔は相当若く見られるようだ。それは若返ってるとかそう言うのではなく、日本人は外国人から見ると幼く見えるってアレと同じ事だ。鏡で自分の顔を確認したことがあるから、若返ってるわけではないのは確定しているしな。


道中は、一人で熱くなって襲いかかった恥ずかしさで一人になりたかったので、馬車を貸し切りにしてもらって移動した。向こうからしても俺に逃げられるのは困るだろうから都合が良かったのだろう。

食料や水は軍の物を分けてもらえたので、ラーメンは出さなかった。ここで出しても面倒になるだけだ。

そんなこんなで、俺は軟禁状態で首都に連行された。

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