第22話
麺屋正人はリニューアルオープンした。開店日の張り紙の効果か、口コミが凄いのか、例のごとく大行列が出来ている。途中からジュジュは外に出て、行列を捌いて人数制限に動いた。おかげで13時ラストオーダーは守られ、13時半には客はハケた。
「ふぅ、やっと一息つけるな」
「ですね店長。ここで一回休憩を取れるのは凄く嬉しいです」
「これなら続けられるか?」
「はいっ!」
21歳だと教えてもらったマリと会話をする。マリはスラッとした体型のブロンドの髪の女だ。足が自慢なのか、唯一のミニスカートを履き美脚を披露する。一応バイトリーダーみたいな位置に居るらしい。うん、普通の女との会話も良いもんだ。今までは盗賊だったり、役所の職員だったり、風俗嬢だったり、普通の町娘ってのが居なかったからな!
「店長、どうぞ!」
「ん?ああ、ありがとう。ナタリー」
5人のうちの1番の巨乳娘、ナタリーが冷たいお茶を持ってきてくれた。ナタリーはVネックのTシャツを着ていて、思いっきり自身の優れた点をアピールしている。
まあ、厨房は立ち入り禁止なので、ジュジュが用意したのを持ってきただけだろうが。そのジュジュは一生懸命どんぶり洗いをしている。
後の3人は、女性用休憩室に行っている。
それにしても、俺の周りには女要素が足りてないと思う。
普通、ラノベの主人公であれば、序盤からなんだかんだで女が付き纏ってきたり、変に絡まれて付いて来たり、魔物から助けて仲良くなったりとか、様々なシチュエーションで出会いがあるはずだ。
だが俺はと言えば、初めて会った女には殺されかけて殺し、あとはぶっきらぼうな商業ギルドの女とか、クソなフルネームを連呼する役所の女とか、そこそこ高い金を払ってるのに戦車みたいな体型で上に乗りたがる嬢とかそんなんばっかりだ。
「まさか……、俺はモブ……?いつから主人公だと思っていた……?」
いやいや、なりゆきだけど王子スタートとか、しょぼいスキルがこれから化けるかもとか、ある程度の条件は揃っている。まさかモブなわけがない。
「なら、俺がフラグをへし折ってる?」
盗賊のエルザも抱いていたら未来は違ったのだろうか、ギルドの職員も夕飯に誘っていたら?役所の職員だって愛を囁けば?あの戦車女……、ない、こいつだけはない。むしろ奴は自分の重量でフラグのポールが折れるはずだ。
「ん?」
何やら不穏な空気を察すると、マリとナタリーがこっちを見ていた。マリは震える体を自ら抱くようにして怯えた姿勢を見せ、ナタリーは両手を腰に当て蔑むような目で俺を見ている。
……、忘れてた、独り言を言っていた。どうやら癖になっていたようだ。
「あー、えっとな────」
「店長、キモーい」
「私……、精神疾患な方はちょっと……」
「……」
なるほど、フラグとはこうやって折れていくのか。
それにしてもマリさん、流石にメンヘラ扱いはどうかと思うぞ?お前ら、俺が一応ミッドランド王子って設定なのを覚えているのかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
すっかり【店長は見た目はまあまあだが中身はメンヘラ】扱いが定着した。
そうかと思うと最年少、15歳のミリルに「お小遣いくれるならあたしが遊んであげよっか?」なんてアホなこと言ってくるクソガキにげんこつを落としたりしながら毎日をこなしていると、あっと言う間に1ヶ月が経っていた。ちなみにこの世界の成人は15歳らしいが、見た目と言動はやはり子供だ。まともに相手してられない。
このオーダーストップ制は大成功だった。客も慣れて来たのか注文と食事を終えるのが早くなり、回転もあがり売り上げも伸びている。今では1日110万エル、金貨にして11枚の売り上げをコンスタントに上げている。
疲労も抑えられ、従業員たちにも余裕が見える。これならば軌道に乗ったと言ってもいいだろう。
だが、軌道に乗れば何かしらトラブルがやってくるものだ。
ガラの悪い奴が「みかじめ料を払え」みたいに言ってくるのはザラで、その時は全部ジュジュが対応した。領主であるランセルの名前も出し、時折ランセル自らも出張ったりして、輩は毎回追い払われている。
だが、俺のラノベの知識から見れば、こんなのは序の口だ。きっと1番面倒な奴等が来るはずだ。
「店長ー、なんか偉そうな格好で、偉そうな態度の人が来たんだけど」
「ほら来た、貴族か?」
予想通りだ。ミリルは心底面倒そうな顔で俺に告げてきた。
「それが、名乗ることは出来ないけど、顔を出した方が身の為だとか言ってるんだけど」
「……、ジュジュ、行け」
「かしこまりました、店長閣下」
「……」
やってられん。どこのどんな貴族か知らないけど、こちとらこの街の領主の後ろ盾があるんだぞ?そうそうなことでは負けねえだろ。
だが……、貴族らしいそいつも消えたが、夜になってもジュジュは帰って来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから1週間経つ。
流石に気になって仕方ないが、ランセルの領主の館に行っても門は閉ざされていて誰も出てこなく、ジュジュがどこに住んでるかもわからない。仕方なく営業だけは続けてると、昼休憩の時間にマイアがやって来た。
「マサト様」
「マイア、まさかジュジュのことがわかったのか?」
マイアは青い顔で店に入ってきた。こんな顔で来られれば何も言われなくても予想は付くと言うものだ。
「はい、ジュリサイド様と御領主様はエステランザ王家に拘束されました」
「っ!はあ?!!」
いきなりだ、いきなりの展開すぎる。貴族の使いがやってきて、それの対応をさせたらいきなり王家に拘束?!急展開すぎるだろ!
「近々、エステランザ王国軍がタリアに到着します。目的はマサト様の身柄の拘束です」
「……、ミッドランド関連か?」
それしか思い当たらない。ミッドランドの王位継承者が現れ、謀反を企んでるとかそんな事態しか想定出来ない。
「いえ、詳しくご説明致します」
マイアの話だと、1週間前にここに来たのはエステランザ王家の使者だったと言う。ジュジュはまずはランセルの元へその使者を連れて行き、ランセルに対応させた。ランセルは王家の使者となれば適当にあしらう事も出来ずに、一緒にエステランザ王国の首都まで同行したようだ。そして王の謁見の間で剣を抜き、王国に取り抑えられたと言う。
「無茶苦茶じゃねえか!第一、なんで王国に行く必要がある?!そんでなんで暴れるんだよ!」
「それが」
マイアは更に顔を暗くし、
「王国は、マサト様の身柄の保護を申し出てきたようです。御領主様はそれだけはさせないと粘りましたが、エステランザ王国に叛意があるのかと使者に問われ、仕方なく王様に直談判の為に首都の王城に出向いたようです。そしてそこでも王様の気持ちは変わらなかった為、実力行使に出たようなのです」
「バカなのっ?!やっていい事と悪いことがわからねえのかよ!」
「……私の情報ですと、御領主様は【閣下は我等の最期の希望の太陽、何人足りとも触れさせぬ】と……」
「あのバカ……」
「きっと御領主様はマサト様が生涯監禁、隔離されると思ったのでしょう……」
「……」
馬鹿野郎が……
俺はミッドランドの王子でもなんでもねえんだぞ?!
それを……
自分の体を、30年かけて築き守ってきたものを……
あのバカ……
「いかが致しますか?明日には王国軍が到着致しますが」
「……」
逃げたい、思いっきり逃げたいが。
ジュジュの懸命にどんぶりを洗う姿が、ランセルが口の周りを茶色くしながらチョコレートラーメンを食う姿が、2人の笑顔と俺の前で膝をついて頭を下げ、忠誠を誓う姿が脳裏に浮かぶ。
「クソが……」
「マサト様お急ぎを。同行は出来ませんが馬車と従者は用意してあります」
ダン!!
俺は店の壁を殴り、マイアの顔を睨みつけ
「いらねえよ」
「っ、ですが」
「あったまきた。俺に任せとけ」
「マ、マサト様……」
俺は首からぶら下げているドッグタグと銀色の笛を握りしめ、脳を戦闘モードに切り替える。
「……ぶっちゃけ怖ぇ。でもな、義理を欠いた営業マンに待ってるのは総スカンだ。後ろに引けねえなら前に出るしかねえんだよ!」
「おお!言葉の意味はよくわかりませんが、とにかくすごい自信だ!」
「……」
お前は与作かよ……。
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