第二章 麺屋正人、閉店致します……

第19話

マイアは取り乱して申し訳ありませんと謝ったあと、せめて0ひとつでもつけるべきだとうるさかった。が、俺は当初の予定通りの価格でやることにした。

それにしてもスープ麺はこの世界にもあるのに、ラーメンごときでマイアがあそこまでなるのか?そんなに高い飯が売れるわけなかろうが。あくまで飲食は薄利多売が王道だろう。

まあ、仕入れがないんだから薄利ではないのだが。


そしてとうとう、開店初日を迎える。

店は、開店前からマイアの宣伝とミッドランド人たちの宣伝で、行列を作っていた。

また、マイアからの提案と紹介で、ミッドランド人の女性たちをホール係で5人ほど雇い入れた。


「麺屋正人、開店いたしまーす!」


俺がしょっぱなの挨拶がてら、入り口を開けて叫ぶ。するとワラワラと客が押し入ってきて、バイトの女性たちが注文を取る。

が……、


「店長!どんな味かわからないから選べないそうです!」

「くっ!盲点だった。とりあえず安いやつから頼めと言え!気に入ったら毎日通って食べ比べをしろと勧めろ!」

「はいっ!」


あらかじめおれのことは店長と呼ぶように言いつけてある。そりゃそうだ、国王とか閣下とか呼ばれてたら仕事にならない。


「2番、醤油でーす」

「6番、正人家系でーす」

「テーブル1番、醤油4つ入りまーす」

「あいよお!!」


じゃんじゃんと注文が入り、俺は気合を入れてじゃんじゃんとラーメンを生み出していく。ちなみにラーメンが原材料なしで生み出されているのを知ってるのは、ランセルとジュジュのみだ。そのジュジュは、どんぶり洗い係として厨房で待機している。どんぶりごとラーメンを毎回生み出していたら、店がどんぶりの山に埋もれるからだ。ラーメンを食った後のどんぶりを売ることも考えたが、面倒なとこはしたくない、麺だけにな。


「醤油お待ちぃ!、家系お待ちぃ!」


初めの数杯がホールに届くと、大歓声が巻き起こった。

うるせえよ、黙って食え。そして食ったら帰れ。回転が命なのだから。



2時間が経過する。


切れ目がない、休憩を取る暇もない。女性たちは交代で休ませているが、厨房はそういうわけにはいかない。ジュジュも大量に積まれたどんぶりを、必死になって洗っている。


4時間が経過する。


相変わらずホールでは大歓声の嵐だ。だが俺とジュジュの休憩する暇がない。ジュジュは泣きそうになっている。


8時間が経過する。


日も傾いてきた。いや、見えないので傾いているかはわからないが、そのくらいの時間は経ってるだろう。なんせ、既に4桁のラーメンを生み出しているのだから。


10時間、


「うっ、こ、これが魔力切れ……?」


1番わかりやすい例えはマラソンだ。一杯生み出すごとに徐々に息が上がり始め、頭がフラフラしてくる。膝が笑い、立っているのさえ辛くなる。

しかし初めてだ。いくらラーメンを生み出しても魔力の心配をしたことがなかったので、もしかしたらラーメンは魔力を使っていないのか、または実は俺の魔力は無限かと思っていた。

そんなわけはなかった。


「閣、店長……」

「ジュジュ、材料が切れたと言って店を閉めて客を帰してこい……」

「かしこまりました」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



2日目、今日は先着千名とした。

売れば売るほど儲かるのだが、俺とジュジュが死んでしまうからだ。それに魔力切れの関係もある、昨日は1000杯は行けたのでなんとかなるだろう。

もう一つある。俺が日本で働いていた、東京中央区日本橋兜町の近くに、立ち食い蕎麦屋があった。そこは早朝から開いているのだが、朝と昼がメインタイムで、10時近辺や13時過ぎになると客がほぼ居なくなる。それなのに一日なんと2000杯売ると言うのだ。

ならば半分の1000杯ならば、かなりの暇な時間が取れるんじゃないかと思って1000杯と設定した。


結果、ほとんど初日と変わらなかった。

理由は、まずテーブル席の奴らが帰るのが遅い。ここのせいで回転率が落ちている。次に立ち食い蕎麦屋は慣れている客ばかりなので、注文→提供→食う→帰るとスムーズに流れる。だがうちのラーメンは、まず注文で迷い、提供は早くても一口食っては驚き、二口食っては感想を言い、三口食っては店主の顔が見たいとか、とにかく時間がかかる。それに食ってもすぐに帰らず、やれ隣のやつの味はどんなもんかと覗き見、やれ作り方を知りたいと店員にくってかかり、やれ感動したから店主のサインが欲しいなど、とにかく帰らない。これではとてもじゃないが2000杯なんて不可能だ。

予定の1000杯を売り上げたのは夕方18時だった。18時まで全く休めないし、この時間に終わっても、寝て起きたらもう次の日の仕事になってしまう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



3日目、酒の売り上げで単価を上げるのを諦め、ニゲルに急場シノギの立ち食い用テーブルを作ってもらい、オール立ち食いで対応した。回転は良くなった。良くはなったが、俺とジュジュよりも女性店員が体力的に死んだ。

そりゃそうだ。5人雇ってると言っても、休憩の1時間以外は女性たちも全員走りっぱなしだ。

なんでもこんな忙しい店はタリア中探しても存在していないらしく、女性たち曰く、鉱山で働くよりキツイらしい。鉱山で働いたことあるんかい!

このままでは女性たちだけでなく、店舗経営としても潰れてしまう。

俺は一度仕切り直すために店を閉店させた。

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