第13話
「ではこれからは、マサトフリード=トゥル=ヴァン=ミッドランドとお名乗りください」
「なっっっがっ!長過ぎんだろうが!」
なんだそのふざけた名前は!覚えるのが面倒くせえし、そんな名前を呼ぶ方が可哀想だし、呼ばれる方はもっと可哀想だ。
「だいたいなんだよ、マサトフリードって、おかしすぎるだろうが!」
「しかし閣下、トゥルは真のと言う意味、ヴァンは王と言う意味、フリードは父上から頂戴すればこうなってしまいます」
「だからってマサトフリードはねえよ!」
「ふむ、でしたらジークマサトは────」
俺はランセルの胸ぐらを掴む。
「それだけはやめろ。赤い彗星とか出てきたらどうするつもりだ」
「赤い彗星、ですか?」
「もういい……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、俺に忠誠を誓うとか言い出したランセルを立ち上がらせ、まずは座れと執務机の椅子に座らせた。だが、俺を立たせて自分がここに座ることは死んでも出来ないと言い、長いすったもんだがあってから、ランセルの部下のジュジュが、とんでもない豪華な装飾の玉座のような椅子をどっかから持って来て俺がそこに座った。なんでこんな物を用意してあるとか、座らないとかはもう言わなかった。面倒だったからだ。
その後、セバスチャンから何か聞いてるかとランセルに問われ、貧民と偽って育ったから何一つ知らないと言うと、ランセルが揚々と語り出す。
自分とジュジュはミッドランド人であること。
ジークフリード王が討ち死間際に、民を頼むと言われ、同盟国のエステランザ王国に亡命したこと。
生き残りのミッドランド人の民を説得し、戦争を早期に解決した功績により、子爵位をエステランザ王に賜り、この地を任されたこと。
それから30年、ジークフリード王の遺言に従い、民の繁栄の為に尽力したこと。
エステランザはミッドランド人を匿ったことが原因で、カリューム帝国から睨まれ、冷戦状態にあること。
その戦争時、対ミッドランドの盟主国はカリューム帝国、カリュームと同盟を組んでいるスカンジブ王国とセントーリア聖王国、ガルガント王国がミッドランドに攻め込んできて、ミッドランドは滅んだ。
その際、中立を保ち、兵を出さなかったのは、ハン共和国、ミッテラン王国の二国。
ここまでが人間の支配する国で、人間の争いに介入しないエラーラの民という名のエルフの国もある。
このタリアの街は人口約100万人、その1/10がミッドランド人であること。今ではハン共和国、ミッテラン王国にも10万人規模のミッドランド人が移住していること。
などなどだ。
「同盟国のエステランザはどうしてたんだ?」
「ガルガント王国とカリューム帝国に挟まれおり、兵を出せば滅ぼすと脅されて動くことが出来ませんでした。更にミッドランドに兵を送るには、ガルガントかハン共和国を通らねばなりません。ガルガントは当然無理ですし、ハン共和国も軍を通過させることはミッドランドに与する行為となると言われ、進軍の許可が出ませんでした」
「なるほどな」
その状態ならば仕方ないだろう。いくら同盟国とは言え、一番可愛いのは自分の国だ。勝ち目があるならまだしも、話を聞いただけでもミッドランドに勝ち目は無さそうだ。それならばエステランザの選択を恨むのは筋違いだろう。
「ランセル、そもそも何故ミッドランドは攻め込まれたんだ?」
ランセルは目を細めて悲しそうな顔をした。
「それも聞いておりませんか」
「それもどころか一切何も聞いてねえよ」
「ミッドランドは、全ての種族の融和を掲げておりました」
「うん」
俺が相槌を打つと、まだわからないのか?みたいな顔をされ、渋々と更に口を開く。
「その全ての中には魔族も入ります」
「あっ……、そう言うことか」
「はい。カリューム帝国の同盟国は、人間至上主義です。ミッドランドは魔族と内通しているとの嫌疑で戦争を仕掛けられました。いえ嫌疑ではなく真実なのですが。ミッドランドは魔族と直接国交のある唯一の国でしたから」
「……、魔族と国交があるのはそんなにヤバいのか?」
ランセルは言いずらそうに顔をしかめる。
「はい。遥か昔、勇者が世界に平和をもたらすまでは人間と魔族は血で血を洗う戦いを、長い間続けていました。勇者が平定してからは小競り合い程度しかありませんが、昔はそれはもう大変だったと言います。マサトフリード様は魔族をご存知ですか?」
「あっ、いや、教えてくれ」
「広い意味では魔物や動物も魔族と言われておりますが、正式には、ドワーフ族、悪魔族、ヴァンパイア族、フェーン族、オーガ族、オーク族、ゴブリン族など、人語を有し、知性がある種族の総称を魔族と言います」
「ふむ」
「魔族の中には、食人や女腹を人間に求める種族もおりますので、人間と敵対するのも当然とも言えるでしょう」
「それなのにミッドランドは全種族の融和を掲げたのか?」
「魔族も一枚岩ではありません。ですが、出来ること、出来る種族から徐々にと、ジークフリード王は考えておりました」
「その魔族たちはどこに?」
「ジークフリード王亡き後、魔王が率いてこの大陸を出て行きました。まだあちこちに残ってはおりますが、この大陸に残っている魔族は、人間への憎しみが忘れられない者や魔王の考えに賛同できない者、食人や女腹の欲望に勝てない者たちです」
「なるほどな」
ぶっちゃけとても覚えきれん。
つか、別にあまり興味はない。俺の能力では異世界無双は無理だし、そう言うのを求めてるわけではないのだから。
でも、一つだけ気がかりなことがある。
「なあ、ランセル。獣人が話に出なかったけど、獣人も魔族なんだよな?」
するとランセルはまた暗い顔をする。
「閣下はまだなのですか?」
「……は?」
ランセルは少し疑うような怪訝な顔をしたが、すぐに頭をブンブンと振り表情を戻した。
「いや、閣下はラーの剣に選ばれし者。それは疑いようのない王家の証。申し訳ありません」
「は?どう言うことだよ」
「獣人族と言われる者には二通りの種族がございます。一つは獣、動物と人間が合わさったような見た目をしている者です。獣の特徴を併せ持った人間と言える者で、これは魔族からも人間からも忌み嫌われています」
「マジか」
ランセルの言葉は、まんまラノベの獣人の特徴だった。
「それは当然と言えるかも知れません」
「なんでだよ」
「人間の特徴と獣の特徴を持つと言うことは、例えば熊の獣人ならば人間と熊が交配したから生まれたのでしょう」
「っ!獣姦かよっ!」
そうくるとは思わなかった。まさかそこを突いてくるとは。いや、突くってそう言う意味ではなくて!
「今では違うでしょうが、始まりはこれでしょう。あまり人道的にもどうかと……」
「はぁ……」
その発想だけはなかった。いや、そうだよな。ラノベとかで登場しまくっててあまり深く考えなかったが、これが当たり前の獣人の誕生原因だ。だが遺伝子が合わないはずだから子供が出来るわけはないのだが、そこは異世界マジックなのだろうか。
「ですので、そう言う獣人はどこかに隠れ住んでいて、どこにいるか、どのくらいの規模の集まりがあるのかなどはわかりません。魔族の仲間の獣人族と言いますと、基本的にライカンスロープ族のことを言います」
「あー、もしかして満月の夜になると変身したりとか?」
「いえ、完全な人の姿と完全な獣の姿を、自分の意思でいつでも変身出来ます。人の姿の時に獣の特徴が混ざることはありません。基本的にライカンスロープ族は獣の姿をしている時こそ真の力を発揮出来ると言われております」
「なら、人間の姿の時はまるっきり人間か」
「その通りです。そして……」
ランセルは俺をまっすぐと見つめてきて、
「ジークフリード様は、いや、ミッドランド王家の血筋はライカンスロープ族です」
「……、は?……え?、は?!」
「はい、閣下。あなた様もライカンスロープ族でございます」
「……」
これはヤバいことになった。
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