第12話
まず、門前には兵士が5,6人いて、門を通過する人を一人一人チェックしていた。皆、首から鎖のような物でドッグタグのようなものを下げていた。それを兵士が確認すると門の中に入れてもらっていた。どうやらあのドッグタグが身分証の代わりらしい。
俺は当然ないので、指輪を見せたが全く反応がなかった。
反応があったのは金貨だった。
エステランザの身分証、もしくは他国の人間ならば通行手形がなければ絶対に通せないと言うので、ここは賄賂しかないかとハスキーに貰った金貨3枚のうちの1枚を握らせてみた。するとそれを見た兵士は、目を大きく見開き、上司に相談するから待ってろと言われて、俺は大人しく待った。賄賂を上司に報告したら賄賂にならないと思うのだが、生真面目な性格かもしれないので、待ってみることにした。
すると完全武装した兵士が50人クラスで現れ、抵抗することも出来ず、話も聞いてもらえずにいきなり牢獄だよ。
まあ、独房だったのはありがたいが、とりあえず3日は待ってみようと思う。ダメならハスキー笛の出番だ。
「ったく……、ハスキーも当てにならねえな。指輪意味ないじゃねーか。むしろ金貨に反応って。……まさか俺、収賄容疑で投獄されてるのか?」
ありえる、ありえなくはない。
牢屋まで目隠しされたので、文明度合いを測ることは出来なかったが、戸籍があるくらい進んでるなら、収賄容疑で捕まる事もありえなくはない。
「ハスキーも揉め事はあるって言ってたしな……、まあ、まずは様子見だ」
内心は笛でハスキーを呼び出して、あいつの頭を小突いてやりたいが。
すると、
「おい、出ろ」
「やっとかよ」
一晩泊まっただけだからやっとって程ではないが。
兵士に連れられて、初めて城内?館内?を見る。俺は驚愕した。明らかにコンクリの壁だ。牢屋だけ特別なのかと思ったが、これまさか、鉄筋コンクリート造りの建物か?!
コンクリ自体は外国では何千年も前からあったというが、鉄筋コンクリート造りの建物は、地球じゃ何年前だったっけか。飾り付けもない、無骨なコンクリむき出しの建物で、照明はランタンのような形をしたものが、壁に据え付けられている。
「入れ」
部屋に通される時、扉の作りを見た。金属の蝶番がついていた。部屋の中に入る、壁には日本と遜色ないほど透明なガラスが嵌っている。だがサッシは木造のようだった。
調度品のようなのはほとんどなく、田舎の一軒屋のリビングぐらい(20畳ほど)の部屋に、大きな執務机とそこに座る中年の男、その背中には天井まで届く本棚に、本がびっしりと入れられている。
中年の男はチラリと俺を見ると、俺を連れてきた兵士が、
「出せ」
「あん?」
「早くしろ!」
「っ!」
いきなり怒鳴りつけてきた。俺は思わずビクリと身体を縮こませた。
「何をだよ!」
「指輪に決まってるだろ!痛い目をみたいのか!!」
「最初からそう言えよ!」
俺は兵士の手を叩くように、指輪を兵士の手に乗せると、兵士は俺をひと睨みしてから、中年の男のところに持っていく。中年の男は、指輪を回しながら見て、指輪のハンコのような紋章の裏側を繁々と見た。そしてその後俺を睨みつけるように、表情を消して見てくる。
「どこで盗んだ?」
「は?ぬ、盗んだ?」
「そうだ、いや、どこかで拾ったと言う可能性もあるな。どこで拾った」
「俺のだっての。偽物なのか?」
「いや、間違いなく本物だ。だから言っている。どこで盗んだ」
「……」
まあ、このくらいは想定内か。揉め事は起きると言われてるんだから。
「盗んでない、俺のだ。話を聞いてくれよ」
中年の男は大きくため息をつくと立ち上がり、コツコツと靴音を鳴らしながら俺の周りを回る。
「失われて久しいミッドランド金貨に王家の紋章の指輪、通常この指輪の裏には持ち主の名前が刻まれているものだ。だがこれにはない。そう、最後に生まれた子供の名前が発表される前にミッドランド王国は滅んだ。だから名前が彫られてないこの指輪は、最後の血筋を証明するのに充分と言える」
「な、なら────」
男はピタリと止まり、俺を睨みつける。
「だがあの日、幼子を誰かが連れ出した時に落とした、そしてお前の関係者が拾ったとも考えられる」
そんなん、どうとでも言えるじゃねえか!
「そんなの、証明しようがねえよ」
「そうだな」
「なら指輪を返してくれ。他の国に行くから」
「そうはいかない」
「……」
男は俺とキスするんじゃないかというくらい顔を近づけ、
「ミッドランド王家の最後の血筋と詐称したのだ、無事に帰れるわけないだろ」
「……」
これだよ。
こうなると思ったよ!
むしろこれが普通だろ!
あのクソ狼め、今度会ったらハバネロ入りのラーメンを食わせてやる!!
「話も聞かねえのかよ」
「ふむ」
俺が怒りに任せてそう言うと、男はコツコツと歩き出し、自分の執務机に座った。
「一応言ってみろ」
「俺はカリュームのスラムから来た。どこも同じようなものだが、カリュームのスラムもそれは悲惨だった。俺には物心つく前からセバスチャンって奴がいた。幼い時はセバスチャンが俺の親だと思っていた。だが、いつしか親とは違うってのを感じるようになった。セバスチャンの態度は、親のように振る舞っていても、どこか一線引いているようだったからな。つい最近のことだ。スラムでのいざこざから、セバスチャンが怪我をして帰ってきた。それからだ。スラムの奴らから食い物を奪われるようになり、命の危険まで感じるようになった。だから俺たちは逃げ出した。ここから5日ほど西に行った南の森で、セバスチャンは力尽きた。その前にセバスチャンはこの指輪と金貨、そして剣を与えてくれた。【あなたは実はミッドランド王家の末裔です。この指輪が証明になります。どうか同盟国のエステランザにお逃げください】とな。そして川を頼りに下りながら、ここまで来たってことだよ」
中年の男は眉一つ動かさずに、
「ふむ、よく出来た物語だな」
「……」
そりゃ作り話ですからね!
っとと、忘れてた。もう一つあったわ。
「セバスチャンから金貨と指輪で信用を得られなかったら、見せろと言われたものがある」
「……なんだ?」
俺はとなりにいる兵士の顔を見て、
「いいか?俺は暴れないし敵意もない。今から剣を抜くが、攻撃してくるなよ?」
「なんだと?やらせるわけないだろうが!」
「ジュジュ、良い」
「しかし、ランセル様!」
「良いと言っている」
ランセルと呼ばれた中年の男が目を細め、再度兵士に告げると、兵士は俺の隣から一歩下がった。許しが出たということか。
俺は少し芝居掛かった口調で、鞘ごと剣を持ち、俺とランセルの視線の真ん中で横にして持つ。
「セバスチャンは言ったよ、この剣は抜いてはならないと。余程のことがない限りな」
ゆっくりと、ほんの少しだけオリハルコンの剣を鞘から抜く。山吹色の光が隙間から漏れ出す。
「とてつもなく強力で、ミッドランド、いや、世界的に見ても珍しいものだからと」
剣を半分ほど抜く。山吹色の光は、室内を明るく照らす。今気づいた。ランセルの顔は、まるで幽霊でも見たかのように、驚愕の表情をしている。
「だが困った時は抜けと。俺はこの剣の真の後継者らしいからな」
どうよ俺の中二パワーは!
しかし、予想外にランセルには効き過ぎてしまったようだ。
ランセルは手足をガタガタを震わせ、おずおずとオリハルコンの剣にゆっくりと手を伸ばすも、怖くなったかのように伸ばした手を引っ込め、神が降臨でもしたみたいにオリハルコンの剣を見ている。
「太陽剣……、ラ、ラーの
「……」
我慢した。「はあ?」と言いそうになったのを良く我慢した俺!
「……、そうだよ。これがラーの剣だ」
「おおぉぉぉぉぉ……」
「持ってみろよ」
俺はオリハルコンの剣を横にしたまま、ランセルの胸元に柄を突きつけると、ランセルは震えながら剣を両手で受け取った。
いつのまにか、ランセルは涙を流している。
「ジークフリード様……」
「……」
誰だよ!って突っ込みたかった。だがここは沈黙の一手しかない。口を開けば何を言ってもボロが出る。
だが、ランセルの様子がいきなりおかしくなった。ハッと気づいたような顔をして、涙を拭って俺を睨み、あまつさえ、俺から少し距離を取って剣先を俺の喉元に突きつけてきた。
「辻褄が合わない。ジークフリード様は最後の時までこのラーの剣を握って戦っていた。お前がジークフリード様の息子だというのが真実だとしても、逃げたお前が、それも当時は生まれたばかりの子供のお前がなぜ持っている。…………返答次第ではこの場で殺してやる」
「……」
いや、ラーの剣じゃありませんから!
ただのオリハルコンの剣ですから!
だが俺はラッキーだ。まだ誤魔化しようがある。
俺は剣先を向けられても、余裕な表情を崩さずに片側の口角を上げて言う。
「俺の話を聞いてたか?俺は剣に選ばれてると言っただろ?」
「……何を言っている」
「戻れ、剣よ!」
するとオリハルコンの剣が、ランセルの手の中から消え、俺の右手に戻ってきた。ションベンを漏らしそうなほど驚愕するランセル、半笑いで鞘に剣を戻す俺。
どうだ。これなら最後の時にナンタラって奴が持ってても、今俺の手元にある証拠になるだろうが。
「これでもまだ説明が必要か?ランセルさんよ」
するとランセルがいきなり消えた。
ごめん、消えてないわ。
俺の足元に片膝を地につけ、頭を下げている。
「お許しください閣下。この命、あなた様の為に捧げさせていただきます」
「……」
勝ったな。
なんだかわからないが、とりあえず何かに勝った。
さて、これからどうやって話を持って行くか。俺は王族なんてしたくないんだよ……。
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