第11話

しかし、どでかい街だ。

ハスキーの話だとこのタリアの街はエステランザ王国で3番目に大きな街だと言っていたが、俺から見たら途方も無いデカさに見える。

守りも完璧に見える。

東側は海に面していて、俺たちが伝ってきた川が海に流れ込んでいる。そこから肉眼で確認出来ないほど遠くまで、5mは優に超えそうな高さの城壁が、西北西へ曲線を描きながら延々と伸びている。外から城壁の中は見えないが、城壁の向こう側には城壁より高い建物がちらほら見え、その後ろには山があり、山の斜面に建物がびっしり建っているのも見える。


「こりゃ、区の二つ三つ分ぐらいあるんじゃねえか?」


実際は入って城壁の内側に入ってみなければわからないが、そのくらいと言っても過言では無いだろう。


「しかしまあ……、ここまで臭うとは……」


城壁の外側、何個かある壁門の間に、木造建築の家々がびっしりと並んでる場所がある。建物の感じからあれがスラムだろうが、スラムの大きさだけでも、村程度の大きさはありそうだ。間違いなく数百人以上はそこに住んでるだろう。

そのスラムらしき方向に足を進めれば進めるほど、ものすごい匂いが漂ってくる。

うんこだ。これはうんこの匂いだ。

俺は我慢してスラムを目指し、人影まで確認出来る距離になると、


「……、うっ、こ、りゃあ……」


スラムなんて生易しいものじゃ無い。地獄だった。道端で死んでるのか寝てるのかわからない様子で横になる者、服とも呼べず、ただの布を巻きつけただけのような格好の子供、猫背になりながらも鋭い目つきでこちらを睨む男ども。

臭いを我慢しても、とてもじゃないが日本から来たばかりでここに住みたい奴はいないだろう。


きっとこの選択は重要だ。

・かたやスラムからノシ上がり系、まず身ぐるみは寄って集って剥がされ、水は川を使って飯は延々とラーメンのみ、それを誰かに見られたら、最悪はラーメンを生み出す機械にされかねないが、ワンチャン救世主となれる可能性もある。


・かたや王族なりすまし系、いくら同盟国と言っても、急に亡国の王子がやってくれば、相手にされなかったり、政治利用されたり、戦犯扱いされて投獄どころか処刑の恐れもある。だが、上手くいけば街の中で生活出来る。


「……、考えるまでもねえな……」


簡単だ、このスラムで生きるのは生理的に無理だった。ほら、普通にゴキブリが身体を這ってるのに祓いもしやがらねえ。俺にあの強靭さはない。

街の中ならどんな困難な状況になってもいきなり処刑は無いだろう。ならハスキー笛もあるし、ワンチャン狙うなら王族なりすましのが精神的に楽だ。スラムなら命を狙われないという保証があるならまだしも、むしろスラムの方が簡単に殺して来そうだ。


俺はスラムの男たちが動き出しそうな気配を感じ、城壁の門の方へと向かった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




やあ!僕は小林正人!

ひょんなことから、とある世界の亡国の王子になった30歳の営業マンさ!

結構順風満帆な人生を送ってきたんだけどね、それが今じゃ縄で括られちゃってるよ、ははっ!


「ってクソガァァァァァ!!」

「騒ぐな!今すぐ死にたいのか!?」

「あっ、すいません……」


俺は投獄された。

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