第6話

悩んだ末、結局女を連れて行くことにした。決して一発致す為ではない。街の位置がわからないからだ。

まず、女に剣を向けながら警戒し、女の拘束を解いた。そして服を着させると、2人の男の死体からベルトを抜き取り、一本は女の上腕部ごとアンダーバストの位置で締め上げ、一本は後ろ手にした女の両手首を締め上げた。こうやって締めれば抵抗は難しいだろう。

行き先はタリアの街だ。水が欲しいなら逆側の西に進めば湧き水の泉がすぐだと言われたが、こいつらが向かってたくらいだ、他の仲間が待ってる可能性もある。だから俺は2日かかると言われた川の方に行くことにした。


「……せめて死体を埋めさせてくれないかい?魔物に食い荒らされちまうよ」

「悪いが無理だ。時間もないし地面を掘る物もない」


出発時、女は仲間の死体を埋めたいと言ってきたが、ここでモタモタしてて他の盗賊仲間が来ないとも限らないし、スコップもないのだから何時間もかかってしまう。それだけは避けたかった。

男たちのリュックから、火起こし道具や水筒をパクり、その水筒の水で俺の手を洗った。この水を飲む気にはならないからだ。


「おい、街道に出ないのか?」

「あたいを連れてくつもりならやめた方が良いね。こんな状態で連れ歩いてれば厄介事になるよ」

「なるのはお前だけだろうが」


女は森の中を先導するように歩き出した。

俺が森の切れ目が見えてるのだから、そっちに行こうと言うとこう言い返されたのだ。

盗賊にそこまで気を使えない。俺は森で寝るのはだけは嫌だ!

だが女は、ニヤリとして俺に振り返る。


「本当にそうかい?……、あんた、身分証持ってるのかい?」

「……」

「身分証も持ってない奴が、女を縛って連れて歩いて何もないと?」

「……」

「その場であたいが人攫いだと叫んだら、あんた、どうなるかね?」

「……、ちっ」


こいつ置き去りにしてやろうかとも思ったが、まだ俺にはこいつが必要だ。

それになんでこいつが俺が身分証を持ってないと思ったかわからないが、たしかに女の言っていることも一理あるように思える。


「……身分証はあるぞ?」

「嘘を言うんじゃないよ。あたいはこれでも昔は商家の娘さ。学はあるんだ、ごまかしはきかないよ」

「……。なんで身分証がないと?」


女は前を向いて、森の中を歩いて行く。


「身なりは良い格好をしてるけど、街の位置もわからない、何も知らない、おかしいじゃないか、まともな人間とは思えない。身分証を持ってるとは思えないね」

「……」


まずい。いきなり地球人だとバレたか?

別にバレたからどうってこともないと思うが、昔に日本人が勇者としてこの世界に来ていることは確定している。俺も勇者だと言われて面倒事になるのは避けたい。


「あんた、エステランザは初めてなんだろ?……大方、グリュームから亡命してきた口だろうさ。人に見つかったらまずいのはあんたも同じじゃないのかい?」

「……お、おう……。よくわかったな」


なんだそれは!

根掘り葉掘り聞きたいが、きっと今の言葉は、エステランザがここの国の名前、グリュームは隣国の名前だろう。それを確かめる質問をしてしまっては、自分から地球人と言っているようなものだ。予想で話を合わせるしかない。


「だから森を行くんだ。気が利くあたいに感謝するんだね」

「……ああ……」


俺たちは東へと歩き進めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



2日目になった。

どっかに誘導されてるかもと思ったが、女を脅してみると、


「あたいを殺してもいいし、あたいが逃げたいって言ったら逃してくれるってやつをわざわざどこに誘導するんだい?だからこの拘束もムダだよ」

「それはダメだ」

「昨日の晩も何もなかっただろ?」

「それでもだ」

「肝っ玉のちいさいあんちゃんだねぇ」


結局、昨日は森の中で野宿した。

火起こし道具で焚き火をたいて警戒してみたが、異世界特有の魔物や動物などが襲ってくることはなかった。火起こし道具だが、なんとマッチがあった。マッチなんてマッチ売りの少女の時代からあるのだから、ブラやパンツがあるならあってもおかしくないのだが、これまた異世界の文明の進み具合に驚かされた。


女が言うには、川までは湧き水の泉の聖なる力の圏内で、魔物がいることは滅多にないらしい。そう聞くと聖なる泉イベントがあったかもしれないと損した気になるが、盗賊の当初の目的地に行くのは危険すぎる気がするので諦めた。

それとラーメンは食っている。もちろん女にも与えている。カロリーと水分の摂取の為だ。まずは俺が食い、その後に女にラーメンを出して拘束を解き、女が食い終わってからまた拘束する。女は、


「こんな食べ物食べたことないよ。それに、一体どこから出してるんだい?」

「あー、まあ、気にすんなよ」

「気にするなって方が無理だろうよ……」


だが説明のしようがない。魔法と言えばいいのだろうか?


「あー、お前、魔法とか使えないの?」


すると女はきょとんとしたあと大笑いをし出す。


「あんた、本当に馬鹿だねぇ」

「……何がだよ」

「魔法なんて使えたら冒険者で食っていけると思わないかい?それができないから盗賊になったんだよ」

「あっ……」

「それに、あんたをヤレるような魔法が使えるなら、昨日の晩にとっくにヤッてるだろう」

「……」


確かにその通りだ。

昨日の晩は、女はやけどがヒリヒリするからか、あまり寝付けないようだった。俺も女がなかなか寝ないので、警戒してあまり寝れなかった。だがそれでも2時間ぐらいは寝ている。俺を殺せるほどの魔法が使えるなら、昨日俺を殺してるだろう。


「まあ、あたいはヤるつもりはないがね」

「どうだか」


日の傾き加減から、日本の感覚で言うと15時ぐらいだろうか、俺たちは川へたどり着いた。

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