第2話
「とまあ、こう言うわけじゃ」
「じゃねえよ、クソジジイ、コラ」
気づけば真っ白な部屋にいた。
そこには60インチぐらいの大画面モニターと、白い顎髭を垂らしたジジイ、それと俺がいるだけだ。他には何もない。
そしてそのモニターで、俺は俺が死んだ経緯ってのを見せられている。
「おかしすぎるだろ」
「しかし事実じゃからのう」
この映像を見た限りだと、道路の向こう側にいた男の銃弾は、一本の電信柱に掠るように当たって角度が変わり、更にまた電信柱に当たり角度が変わり、次は車に当たり、と数度角度を変えた後、俺の眉間にジャストミートってことらしい。
「あのな?普通そこまで跳弾しねえから」
「じゃが、現実にはした。お主も映像を見たじゃろう?」
一体、なんて日だ。
朝から妖精にあったと思ったら、無差別殺人の現場に出くわし、更にそいつの凶弾は物理法則を無視したように跳弾し、終いにはそれが俺の眉間にジャストミート。
こんな奇跡?は宝くじの一等を当てるより可能性が低いだろう。
「……、ようは異世界転移だろ?お前が神ってんなら、あの跳弾はお前の仕業じゃねえのか?」
「ふほほほ、話が早そうじゃの。そうじゃ、お主にはこことは違う世界、アーステンと言う世界に行ってもらう」
「むしろ今の時代、異世界転移の話をわからない方が普通じゃないだろ」
このくだりは何度も見た。いや、ラノベやアニメの話だが。
どの話もこのスタートの仕方しかねえのかとうんざりしていたが、まさかそれが俺に降ってくるとは。しかも間違いなく俺の死因はこのジジイの仕業だ。あんな跳弾があるわけがない。
「嫌かの?」
「……、いや、行くのはいいけどよ……」
変わり映えしない毎日に嫌気が差していたのだ。刺激的な人生を過ごせるなら、幼少期から積み上げてきたものを捨てるのも吝かではない。
「だけど、はっきりしろよ。俺の死因はお前のせいだろ」
これによって、今後の展開が変わってくるのだ。俺の死がこいつのせいならば、チートを山ほどふんだくってやる。
「違うと言うとろうに。……じゃが仮にそうだとしても、お主はもう死んでしもうたのじゃ。選択肢はあるまい?」
蘇生出来るだろとか突っ込みどころはあるが、そこに注力するのではなく、本当に異世界ならば異世界を無双出来るように話を持って行かなければならない。
俺の分水嶺はここだ、ここで全てが決まると言っても過言ではない。
「まずどんな異世界なんだ?」
「お主が想像してるような世界じゃ。一言で言うならば剣と魔法じゃな」
「俺に何をさせるつもりだ?」
「好きにしたら良い。国を興すでもハーレムを作るでも、魔王と戦うでも、の」
「魔王居るのかよ」
この『好きにしたらいい』ってのも最近ではオーソドックスなやつだ、異世界スローライフ系ってやつか。オーソドックスすぎてこんな出だしなら間違いなく2巻は買わない。むしろ即ブラバまである。
「詳しいことは自分の目で確かめるがよい。じゃがその前に、お主に力を────」
「ちょっと待った!」
俺は右手を広げ、ジジイの言葉を止める。
「なんじゃ?」
「まず俺を不老不死にしてくれ」
「……、出来るわけなかろう」
「出来るだろ。今、力を授けるみたいな流れだったろうが。人1人ぐらい出来るはずだ」
ここだけは譲れない。
どんな過酷な世界だろうと、力がショボかろうと、不老不死ならあとはどうとでもなるからだ。
「無理じゃ、おもし────、バランスと言うものがあるのじゃ」
「……今、面白くないからって言おうとしなかったか?」
こいつ……。
でも確定だ。
これは、神が面白そうなやつを異世界に連れて行くパターンのやつだ。あの跳弾もこいつがやりやがった。そんで、ここから俺の今後の人生を覗いて楽しむ系だろう。
「ならとりあえずは不老でもいい。そのほかにも貰うが、とりあえず不老だ」
「無理じゃて」
「何でだよ、不死じゃないぞ?不老だぞ?殺されれば死ぬんだから、大したもんでもないだろ」
「大事じゃよ、そんなやつはおらん。前例を無いものは作れんのじゃ」
「ちっ……、あー、じゃあエルフは居るだろ?エルフと同じ寿命にしてくれ」
「ふむ、まあ、よかろう。じゃがお主は今30じゃろ?その歳からエルフの特性をつけても、あと2,300年しか生きられぬぞ?」
「まあ、妥協しとくよ」
他にも貰うからな、ここはこの辺で折れておこう。
「では行くが良い、小林まさ────」
「待て待て待て待て!ジジイ、ふざけんなよ?!」
「なんじゃよ……」
ジジイは眉間にシワを寄せる。
「それだけか?!無理に決まってるだろ!それなら普通のエルフと同じじゃねえか!俺を殺してまで異世界に送る必要あるか?!」
「殺してはいないと言うとろうに」
「どっちでもいい!とりあえずなんか寄越せ!チートだ、チート!すげえ魔法とか、聖剣とかの武器とか!」
ジジイは顎に手を当て、
「ふむ、ならば剣をやろう」
「お?そう、そう言うのだよ」
すると俺の目の前に光が集まりだしてきた。それは徐々に形を成し、直刃の西洋剣になっていく。ゴテゴテとした飾りはないが、山吹色の光を放ちとても高級そうだ。
「おお!これは?」
「オリハルコンの剣じゃ」
ジジイはドヤ顔で満面の笑みだ。
「おお!、で?」
「……で?とはなんじゃ?」
「いや、効果だよ。炎が出るとか、神聖な力を持ってるとか」
「ない」
「……は?」
「ただのオリハルコンの剣じゃ」
俺は瞼を閉じる。そしてゆっくりと開き、
「ジジイ、ふざけんなよ?剣を使ったこともない俺がただのオリハルコンの剣を貰ってどうすんだよ!」
「馬鹿者、ただのオリハルコンの剣と言っても、一生かかっても手に入れられないやつもごまんと居るのじゃ。切れ味は相当なものじゃぞ?」
「俺が使えなきゃ意味ねーの!、俺を殺しといて剣一本?ふざけんな!」
「エルフの特性もつけたじゃろ」
「死んだら終わりだろうが!付加価値を寄越せよ!」
「では鞘をやろう」
するとオリハルコンの剣は、革製のベルトに引っかける金具付きの鞘に包まれた。
「普通じゃねえか!付加価値ってそう言うことじゃねーよ!!」
「浅ましいのう、仕方ない、ほれ」
ジジイは蔑むような目で俺を見て、鞘に入ったオリハルコンの剣を指差した。だが剣になんの変化もない。光ったりとか動いたりとか一切何もない。
「修復効果と召喚効果をつけた。どんな状態になっても柄されあれば元通りの切れ味に修復するし、どこに置き忘れようとも、誰かに奪われようとも、呼べば手元に帰ってくる。どうじゃ、これで良かろう」
「それでも普通の剣じゃねーか!」
いや、その効果はすごいのはすごいが、サクッと殺されたら、剣が治ることなんてどうでもいい。俺が死んでから俺の手元に剣が戻って来ても意味ないのだ。
俺は死ににくくなるような、特殊な効果が欲しいんだよ!
「何を言っても無駄じゃ。それ以上はどうしようもない」
ジジイの顔が、やけに厳しくなったので、俺は剣に関しては諦めた。
「……、わかった。でもな、これだけじゃダメだ。チートを寄越せ、チートを」
「無理じゃと言っておる」
俺は大きくため息をつき、腰に両手を当て目を細める。
「お前、馬鹿にしてんのか?あの跳弾は物理的にあり得ない。お前が俺をなんらかの目的で殺したのはわかってるんだぞ?」
「違うと言うておる。ならばこのまま輪廻に帰るか?ワシはお主じゃなくてもいいのじゃぞ?」
一気にジジイの目つきが冷たくなった。欲張り過ぎたか。だが俺にとっては分水嶺なのだ。たったこれっぽっちで引き下がることは出来ない。
……多少のリスクは背負うか。
「わかった、ならそうしろ。俺は行かねえ」
「…………、生き返るのではないぞ?」
「わかってるよ。どうせ地球の俺は死んだからそれを生き返らせるのは不可能、輪廻とか言っても、別に記憶を引き継ぐわけじゃないから、普通の死と変わらないって言うんだろ」
「……そうじゃ」
「それでいいよ」
「……」
ジジイは冷たい視線のまま、俺を見つめている。
「まあ、ジジイがダメなら他を当たるさ」
「……なんじゃと?」
「ちょっと妖精に伝手があってな。ジジイが嫌だと言うんなら、妖精に頼むからいいよ」
するとジジイが目を見開いた。ダメ元で朝の妖精の話を出してみたら、こりゃまたビンゴしたらしい。どうやらあの妖精は、ジジイの関係者みたいだ。
「お主……、いつじゃ」
「……さあな、忘れたよ」
「アレはお主が思ってるようなモノではないぞ?」
「話は聞いてくれたけどな」
ジジイの冷たい目は、殺気とでも言うのだろうか、敵意を含んでるような目になった。どうやら関係者ではなく敵対者だったらしい。
俺とジジイが見つめあっていると、ジジイは肩から力を抜き、ため息をついた。
「わかった、ワシの負けじゃ」
「……」
「異世界は、誰もが適切な訓練を行えば、魔法が使える。じゃが地球で生きてきたお主はそう簡単には覚えることは出来んじゃろ。じゃからお主には特別な力をやろう」
「……、って言ってショボいやつじゃねえのか?」
「大丈夫じゃ。誰も持っておらんユニークな力をやろう」
するとジジイは俺の目の前に、野球ボールぐらいの水晶玉を3つうかべた。1つは赤く光を放ち、もう1つは青、もう1つは透明な光だった。
「選ぶのじゃ、一度選んだら変えは効かぬ。誰も持っとらん、世界に1つ、ユニークな力じゃ。これのどれかを授けるから、妖精のことと、跳弾のこと忘れるのじゃ、良いな?」
「俺を殺したと認めるんだな?」
「認める、じゃから特別じゃ。力とエルフの特性とオリハルコンの剣、3つも与えるのじゃ」
「……わかった」
俺は迷わず透明の玉を握った。
殺したと言われて頭に来ないわけではないが、どのみちもう死んでいること、妖精が気になりはするが、こちらからコンタクトの取りようがないこと、退屈な日常から抜けたかったことを考え、ここで妥協することにした。
透明な玉は俺が握ると、手の中から消えた。
何故透明かというと、赤は炎が連想され、青は水が連想されたからだ。どちらも弱くはないだろうが、意外性にかける。そこそこまではいけるだろうが最強には程遠いと思ったからだ。
「ジジイ、これは何の力だ?」
「良いのを選んだの。それは左手からラーメンを生み出す力じゃ」
「……なんだって?」
「左手からラーメンを────」
俺は肉体的にピークだった頃の動きを超えるんじゃないかと言うくらいの速度でジジイの目の前まで歩み寄り、ジジイの胸ぐらを掴む。
「食い物で遊ぶんじゃねえよ」
ジジイは俺に胸ぐらを掴まれているにもかかわらず笑っている。
「ふほほほ、技を変えろと言わずに食べ物を粗末にするなときおったか」
「変えられるなら変えさせろ」
「無理じゃ。それに安心せい。食べることももちろん出来るが、魔力で水や炎を出すのと同じじゃ、魔力でラーメンを生み出すだけだからの。じゃから生み出したラーメンを捨てても、それは魔法で水や炎を魔物にぶつけるのとなんら変わりはない」
「ラーメンはぶつけられねーよ!」
ぶつけられるが、ラーメンをぶつけて魔物が殺せるわけがない。ゴブリンが頭から麺を垂らしたら、溶けてなくなるとでも言うのか。
すると、俺の足が急に地面から離れた。瞬間バランスを崩すかと思ったが、まるで脇の下に手を入れられて持ち上げられてるかのように、ふよふよと身体が浮く。
「ちょ!ジジイ!てめえ!」
「問答は終いじゃ。まずは生き抜いて見せよ、小林 正人よ」
次第に意識が遠のいていく。
「ジジイ!てめえ!覚えてろよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
意識かなくなるギリギリまで、俺はジジイを罵倒し続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます