ラーメンズ ビー アンビシャス!〜ラーメンよ、大志を抱け!〜
はがき
第一章 麺屋正人、開店致します
第1話
いつものように朝起き、いつものように身支度を整え、いつものように会社に行く。
毎日毎日、同じことの繰り返し。これを幸せと言う奴もいるが、俺はそうは思わない。
確かにこれといった不満はない。
年収800万
フレックス出勤
年間120日の休日
結果さえ出してれば、何をしてても上司に小言を言われることもない。
稀に見る超ホワイト企業だ。
結婚は敢えてしていない。女は風俗で間に合ってるし、素人女は逆に面倒くさい。金はかかるわ、わがままは言うわ、束縛してくるわ。子供が欲しいと思わなければ、結婚するメリットが見当たらない。まあ、これは俺の一個人としての考えだが。
それでも、この退屈な毎日を消化していかなければ、生きていくことが出来ないのだ。金に困る生活もしたくない。
ならば今日も、いつもと同じように8時00分ジャストに玄関を出る。
「っ!うわっ!」
玄関を開けると、太陽の光と大きな虫にいきなり襲われた。いや、正確には襲われてはいない。眩しい光が目に入ると共に、蜂のようなものが俺の顔めがけて突っ込んできた。咄嗟にしゃがんで避けるも、辺りを見渡せば蜂はまだいた。
「……、蜂、じゃ、ないよな……、っ!」
蜂にしてはデカすぎる。体長は20cm近くあるんじゃなかろうか。また突進してきたのでしゃがんで避ける。
よく見えない、眩しいのだ。だが太陽の光ではなかった。空はどんよりと曇っている。この大きな蜂が光を放ってるのだ。
蜂はブンブンと飛び回り、俺はしゃがんだり手で払ったりしながら蜂から身を守る。
すると何やら声が聞こえる。
「…………メ」
「ん?」
「……ってはダメ」
「……あ?」
まさか……、俺はまだ寝てるのか?
俺が正気ならば、声は蜂から聞こえてくる。手で追い払うのをやめると、蜂は俺の目の前にホバリングした。
「…………嘘だろ……」
妖精だ。
そうとしか形容しようがない。
20cmぐらいの、背中に羽を生やした裸体の少女、女芸人みたいな名前の人形のようなものが、俺に向かって話しかけてきた。
「行ってはダメ」
「……、馬鹿な……」
「お願い、時間がないの。今日は家から出てはダメ」
はっきり言う。俺はファンタジー物が大好きだ。ゲームであり、通勤途中に読むラノベであり、アニメであり。
オタクって程ではないが、唯一の趣味だ。
だからと言って、目の前に起こっている非現実を簡単に受け入れることは不可能だ。
「お前……」
「世界のバランスが傾いちゃうの。だから家から出てはダメ」
「バランスって……」
「行かないで……、お願い……」
妖精は両手を胸の前で組み合わせて、懇願するような姿勢を取ると、徐々に身体が薄くなり、消えてしまった。
「…………」
一瞬放心してしまう。
これは現実か?いや、仮に夢だとしよう。夢なのに妖精の言う通りに、玄関に振り返り二度寝をするのか?
現実ならば?今日は2億の商談がある。俺が進めてきたのに行かないって選択肢はない。
「無理だ。どっちにしろ行くしかない」
なんとなく心に引っかかるものが残るが、夢ならば退屈な繰り返しではないことが起こったこの日に、帰って二度寝と言う選択肢はない。現実でも今日は休むことは出来ない。俺には選択肢がなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
電車から降り、地下鉄の駅の階段を上がると辺りは騒然としていた。いつもはこの時間には通勤ラッシュが終わり、一息つけるような人通りでしかないこの兜町が、この時間にざわざわしているのは珍しい。そして、少し離れた道路の向こう側に人だかりが出来ている。
いや、違う。
まるで何かから逃げているようだ。
ダン!
ダン!!
「きゃあああ!!」
「おいおいおいおい……」
俺も本物を聞いたことがあるわけではない。だが今の音は銃声のように思えた。
1人の男が片腕を振り上げながら走る。そしてそいつから逃げるように動き回る人々。更に響く銃声、女性の黄色い悲鳴。
あっ、倒れた。1人の女性が何かに弾かれるように、うつ伏せで倒れる。
「まさか、撃たれたのか?……マジで?」
俺が落ち着いていられるのは、大通りを挟んで向こう側の景色だからだ。
だが、あれが銃声ならば、いつ奴がこっちに向かって撃つかもしれない。そろそろ避難しようと思った矢先、男がまた進行方向に向かって銃弾を発射した。
ダン!
キン!
キン!
キン!
キン!
キン!
一発の銃声と、どっかのラノベの戦闘シーンのような音がしたと思ったら、目の前が真っ暗になり、俺は意識を失った。
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