第77話
<だからってのもあるんだけど、俺の一族はアンドラング帝国の建国以来…他の血が一切入ってはいない。それでも血が絶えずに続いているのは一番最初、つまり皇祖の双子の兄の”力”らしいね。お蔭で俺の一族は皇祖の干渉を全く受けないんだよ>
……どういう事……?
干渉……!?
不穏な言葉だと思う。
先程から嫌な感ほど当たる気がして何も考えないようにしているけれど、それでも頭を過るのは余り心に優しくないのだろうなという事。
<正解。この国の連中は皇族の、それも皇位継承権のある者のみの異能だって言ってさ、それはそれはありがたがってるけど、要するにそれを使って監視されているって訳。序に洗脳も無意識にしてるんだよ。逆らうなってね>
……知らなかったわ……
答える声が震えるのは何故だろう……?
<深く考えない方が良いよ。そういうものだって流せばいい。皇祖の異能は自らの兄の”力”を取り込んだことでより強化されたんだ。幻獣達もそれを後押ししてる訳だけど>
……どうして幻獣が……?
幻獣という存在を近くで見ていて思っていたのだ。
人とは違うルールで生きている幻獣という存在は、帝国の――否、人間の社会制度には一切の興味が無いのだと、そう疑った事も無かった。
<幻獣にとってはアンドラング帝国の状況は都合が良いんだよ。有用な連中に自分達の仕事を手伝ってもらえるしね>
……考えてみれば確かにそうだと分かる。
幻獣達にとっても十分なメリットがあるからこそ、アンドラング帝国の人達と誓約を交わすのだ。
<長く幻獣との間に交流があればあるほど有用度が増すって仕組みだからね。だから今更他の国の連中に鞍替え出来なくもなってるし>
……こういう関係を表す言葉は――――
それ以上を言うのを躊躇ってしまう。
<ズブズブの関係って奴だね。もうお互い共依存みたいなもんだから>
…………
<あははは。エルザらしい、言葉が出てこないって所か。幻獣を悪く言いたくもないし、かといってアンドラング帝国についても悪くは思っていないからだね>
……どう表現したら良いかが分からなかっただけよ。
エドは…いつもはっきり言うから小気味が良いと常に思っていた。
<エルザは相変わらず可愛いね>
……不貞腐れても良いでしょうか……?
何だか居た堪れなくて消えたくなるのです。
<悪い悪い。エルザは変わらないよね、そういう所。それでだ、俺の一族は他の血が入っていないわけだけど、だから耐性があるんだよ、皇祖の”力”にね>
……それはつまり……皇祖由来の”力”である洗脳が効かないという事……?
考えてみると嫌な想像しか出来ない。
<恐々って感じだね。でも正解。残念な事にね>
……ねえ、エド。
もしかしてだけれど、ずっと…疎外感があった、の……?
<そんなに心配しなくても良いよ。大したことじゃない。ただ……そうだね…俺以外はそうかもしれない。俺の一族であれば誰しもが感じる事なんだろう。洗脳されて酔えてしまえたら確かに幸せな一面もあるとは思う。だが俺はごめんだね。俺は俺で幸せだと、そう思ってる。だからこれについては特に。ほら、エルザがそんな顔しなくて良いんだよ。俺は俺で満足なんだから>
ごめんなさい、私が落ち込むのは傲慢すぎるね。
……それでも気になるの。
あの、エド。
”これについては”って…どういう事……?
心で思っているだけでも何故か震えてしまうのを止められない。
そんな資格も無いのに。
自分で自分が本当に嫌になる。
<気にしすぎ。それとやっぱりさ、エルザは鋭いんだか鈍いんだか悩むな>
……ごめんなさい。
エドが心を読めるのを忘れていて……嫌な思いをさせた……?
心の声までもが小さくなってしまった。
<本当にこういう時に落ち込むんだよね、エルザはさ。他人のことばっかり考えて。自分が大嫌いで。自分以外の全てが幸せだと幸福感を感じるし満足するんだから…本当にどうしようもない>
ごめんなさい、エド。
言葉が全然出てこなくて続かなかった。
謝る言葉しか、私は知らない。
私の事を思って真剣に怒ってくれているのを感じる時、どうしたら良いのか、分からなくなる。
昔からそうだ。
小さくなって、縮こまって、何も言えなくなる。
改めて思ってしまった。
再認識してしまったのだ。
空っぽで何もないから、謝る言葉しか、私には――――
<だからエルザは馬鹿なんだよ。自分に価値が無いって魂の根本から思ってる。自分を信用も出来ない、大切にも出来ないならさ、一体誰がエルザを信じる? 誰がエルザを大切にするんだよ。俺が言えた義理じゃないっての二度目でけど、そこんとこを変えられないなら大切なモノは守れないって、いい加減気がついたら?>
エドの言葉は私にとっては心を抉るとても痛いものだったけれど……なぜだろう、彼の声は案じているのが伝わってくる…どうしようもなく優しい響きだった。
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